2021
05.23

昨日、72歳と相成りました。

らかす日誌

私は昨日、無事に72回目の誕生日を迎えました。

考えて見れば昭和24年(1949年)5月22日、九州は福岡県大牟田市でオギャーとうぶの声をあげて72年。幼少期には、オヤジの酒乱、それに伴う生活力のなさに絶望した我が母は、生んだばかりの次男、つまり私の弟を抱き、当時6歳であった私の手を引いて国鉄(当時)鹿児島本線の遠路までとぼとぼ歩いたとのことです。投身自殺、子供2人を道連れにした無理心中を図ろうという悪魔の囁きに頭を占領されていたのであります。

ところが、です。人生、何が幸いするか解りません。生まれたばかりの幼子であった我が弟が、突然母の胸に抱かれながら激しく泣き出したそうです。腹が減ったのか、おしめが濡れたのか、それともボーッとして歩き続けていた我が母が、誤って弟を何かにぶつけたのか、今となっては解りません。ただ、解っているのは、弟の泣き声で母が我に返ったことです。

「いけない。子供たちを殺してはならない」

こうして私と弟は一命をつなぐことになりました。とすると、弟は私の命の恩人ということにもなりますが、まあ、本人にその意識はないでしょう。

しかし、なのであります。私のこの事実をひとかけらも覚えておりません。当時、すでに6歳。母に手を引かれて歩いたのなら、母の鬼気迫る顔つき(恐らく)には気が付かなかったにしろ、

「ママと赤ちゃんと一緒に散歩した」(はい、当時私は、母親を「ママ」と呼んでおりました)

程度の記憶があってもよいのではないかと思うのですが、当時通っていた「みずほ幼稚園」の園長先生の顔は薄らと記憶にあり、母の妹である叔母がこの幼稚園に途中から勤めて先生になったこと、おしっこを漏らしてしまった女の子がいて、泣きながら先生に手を引かれていくところに、わざとその足元に転がって行く男の子がいたこと(断じて私ではありません! 私は羨ましいな、と思ってながめていただけです)などは幼い想い出としてくっきりしているのに、つまり、私はどちらかと言えば記憶力はよいはずなのに、この人生の分かれ目とも言える死出の散歩は全く覚えていないのです。後に、老いた母に話を聞いて

「ほー、俺にもそんな危機があったのか」

と記憶に刻みつけただけです。
ひょっとしたら精神的ショックで、この嫌な記憶を追い出してしまったのでしょうか? 催眠術で記憶を掘り下げられれば、自分の記憶として蘇るのでしょうか?

国鉄鹿児島線の記憶と言えば、友だちと古釘を線路に並べ、列車に踏んでぺしゃんこにしてもらったことぐらい。はい、鉄釘を平らにして十字手裏剣を作ろうとの試みでした。恐らく大瀬康一主演の「隠密剣士」に影響されてだったと思いますが、当時は忍者がちょっとしたブームで、遊具として何としても持ちたいのが十字手裏剣でありました。

で、ぺちゃんこになった鉄釘をどうするかというと、両端をヤスリで削ってとがらせ、2本を十字に組み合わせて針金で止めるのです。

「おお、出来たぞ!」

と我が家の外壁に向かって投げたところ、みごとに我が十字手裏剣は壁に突き刺さっておりました。

「どんなもんだい!」

と多分得意顔をしながら十字手裏剣を回収に行くと、なんと苦心して作りあげた我が武器は、十字ではなくT字になっていました。結節部分がずれちゃったのであります。まあ、針金で巻いた程度では、速度エネルギーを支えきることは出来ないという貴重な物理学の真理は得ましたが……。

ということで、生まれてこの方72年、なんとか無事に命をつなぎ、

「残りが少なくなったなあ」

と、多少心細い思いをしているのであります。

その72歳になった昨日、横浜の瑛汰と電話で話しました。瑛汰は明日月曜日から中間テストだそうで、どうやら一夜漬けに近い勉強をしている様子。そうか、瑛汰も中3だもんな、と思って、ほとんど勉強などした事が無かった我が中3時代を思い出していたところ、

「数学がむずくてさ」

と泣き言を並べ始めました。ん、中学の数学で苦労するか? と思いつつ

「何処が?」

と聞くと、

「因数定理」

との答が戻ってきました。因数定理? あれ、因数定理って何だっけ? さらに質問を重ねると、

「ほら、3次式とかを因数分解するヤツよ」

えっ、それって、高校2年の数学Ⅱで学ぶところじゃないか? それを中3で。ほう、瑛汰の通っている学校ってそんなところか。

「じゃあ、問題を送ってこい。一緒に解いてみようじゃないか」

送られてきました。

147 多項式P(x)をx2−3x+2で割ったときの余りは−x+4である。また、P(x)をx2−4x+3で割ったときの余りは3xである。P(x)をx2−5x+6で割ったときの余りを求めよ。

148 P(x)=(x−1)(x4n−1)、Q(x)=(x4−1)(xn−1)とし、nは正の奇数であるとする。
(1)xn+1はx+1で割り切れることを示せ。また、x2n+1はx2+1で割り切れることを示せ。
(2) P(x)はQ(x)で割り切れることを示せ。

この2題でありました。映画鑑賞を中断して解き始め、最初の2題はなんともなく解けましたが、148の(2)は

「ん?」

としばらく黙考。やがて(1)が下敷きになっていることに気がつき、無事、瑛汰にボスの威厳を示すことが出来ました。ついでに、因数定理の問題一般についてアドバイスし、加えて

「このあたりまでならボスでも何とかなるが、これから先になると、ボスは瑛汰に教えてもらう立場になる。しっかり勉強してくれ」

と時間つぶしに数Ⅱ・Bで遊んである立場からお願いした72歳なりたての私でありました。

ああ、ちなみ148の問題ですが、

xn+1をx+1で割ったときの商をAとします。1次式で割るので余りがあれば定数になります。このあたりは式同士の割り算をやってみればすぐに解ります。
だから、これを式で表すと

xn+1=(x+1) ×A+a

ということになります。
ここでx=−1を代入します。そうすると、nが奇数なので、xnは−1となり、左辺は0。右辺では(x+1) ×Aが0。残るのは0=a。ちまり余りはないということで、割り切れることが解りました。

x2n+1の方は、

x2n+1=(x2+1)×B+b

とします。ここでも(x2+1)×Bを0にしたいので、xにiを代入します。iはご存知のように虚数単位で、i2=−1という記号です。そうするとx2はi2ですから−1になり、(x2+1)×B=0で、無事に消えてくれました。
さて、x2nは(x2)nですから(−1)で、nが奇数なので−1。これで左辺も0になり、b=0,つまり余りがないことになります。

しばらく黙考した問題は、

P(x)=(x−1)(x4n−1)
=(x−1)(x2n+1)(x2n−1)
=(x−1)(x2n+1)(xn−1)(xn+1)

Q(x)=(x4−1)(xn−1)
=(x+1)(x−1)(x2+1)(xn−1)

と因数分解出来ます。
2つを見比べると、(x−1)(xn−1)は共通です。残りも、(xn+1)は(x+1)で、(x2n+1)は(x2+1)で割り切れるので、P(x)はQ(x)で割り切れます。

さて、このように始まった私の72歳。これから1年、どんなことがあって73歳になる(とは限らないかも知れませんが)のでしょう?
楽しいようでもあり、うんざりするようでもあり……。
72歳の心境は複雑なのであります。