08.02
モノシリックICによる前段直結差動プリアンプの1 2
ロープースト回路
第4図は、ある高級市販プリアンプのカタログから、そのトーンコントロール特性の部分をコピーしたものである。値段のせいもあって、ワリカシ凝った回路で、周波数特性のカープの曲がり角の周波数を変える事が出来るようになっている。言わば、高級品と呼ばれるのに、ふさわしく作ってある。私は何もこのアンプがどうの、と言うつもりでこのグラフを持ち出したのではなぃ。CR素子により、周波数特性を曲げる時の問題点について考えて見よう、と言うわけである。このグラフの沢山の線のうちから、一本を抜き出して見ると、同図の下側になる事が解る。
チェロソナタなどで、低音を持ち上げたい、と言う事で、150Hzのあたりを3dBばかり上げたとする。カープで解るように、それから下は曲線を描いて、どんどん上って行き、10Hzあたりでは10dBも上がりっばなしになっているのが見える。
一般の人々の耳に聴こえ得る低音は40Hz位で、たとえパイプオルガンから30Hzの音が出ていたとしても、馬鹿みたいに大きなホーン型ウーファーならいざ知らず、家庭で再生しようという方が間違っている。しかも、ハウリング、ハム雑音、レコードのそり、ターンテープルのゴロ、部屋の共振、数え上げればキリがない程、重低音には問題がつきまとう。フラットな再生特性ですら、これ等の問題があるのに、図のように弓なりに低音を持ち上げたのでは、良い音がする筈がない。
そこで、必要な音階のみを少し持ち上げる事により、コーン型ウーファー特に小口径のものから、ずっしりとしまっていて量感があり、低音に迫力を持たせるために考案した、独特のローブースト回路である。クリスキットマークⅥカスタムに採用して、好評を得たので、同じ計算式に基づいて、本機にも組み込んだわけである。
本機と同じ大きさのシャーシを使って作り上げた、パワーアンプ、クリスキット ミニP-1の入カインピーダンスが、クリスキットP-35のそれより低いので、回路定数は、マークⅥカスタムと違っているが、ロープースト特性は同じである。実測値等については組立、測定編で述べる。
マークⅥカスタムと違って、スイッチが運動しているので、ロープーストに入れるだけで、アウトプットコンデンサの方も切り換わるようになっている。
電源部
第5図に示してあるように、2SD261及び2 SA643を使った、±12Vの2電源である。ICであるために、コレクタ電流が極めて少ない上に、(E.Q.アンプとフラットアンプ合わせて22.5mA、実測値)パワーアンプと違って、音量と共に、電流変化がないので、小じんまりとした電源で良い。むしろ交流リップル分は、徹底的に取り除いてある。出来上がれば解るようにハム、ノイズはゼロに等しい。
これは、この形式のフィルタ回路では、C-14及び15(330μF)のコンデンサが、その上にある石のhfe倍になる、という原理に基づくからである。それぞれの石のベースに入れたツェナーダイオード(Zener Diode)RD-13A(M)は、これ等のベース電圧を一定に保つためのものである。そのために、AC電源が10%位動いても、常に±12VDCが保たれる。
レベル調整用半固定抵抗
演算式集積回路 (Operational Integrated Circuit)程でもないが、本機に使用したμP C33Cも裸のゲインが80dBとかなり大きいので、フラットアンプにそのまま使ったのでは、アンプ全体の利得が大きすぎて、市販アンプに良く見られるようにボリュームを少し回しただけで音が大きくなりすぎて使いにくい。
R-1(33kΩ)を小さくすれば、フラットアンプのゲインは下がるが、それだけNFBが深くなり、C-6(300pF)C-7(100pF)などの補正用コンデンサの値が大きくなるので好ましくない。ICを使った市販品に音が硬いという意見が出るのは、このためかも知れない。
そこでそのゲインの高すぎる事を補うのにレベル調整用半固定抵抗(VR-6)を入れてある。
並通この種のレベルセットは、アンプの入力側に入れるものなのだが、アマチュアリズムに徹して、本機独特にアンプの出口に入れた。こうすれば、S/Nがはるかに良くなり、定インピーダンス型アッテネータに似た働きをするので、 これとシリーズになっているクリスキットミニP-1の入力インピーダンスを高くする事が出来る。
正に一石三鳥である。
〔組み立て篇〕
前回に述べた回路の説明が解った所で、組み立てに入る。
常に述べている事であるが、アンプを作るのに回路説明も読まないで、いきなり実体配線図に色鉛筆で色分けして配線していく人々が多い。雑誌にミスプリントがあると、そっくりそのまま誤配線をやって、出来上がってスイッチを入れて、片方音が出ないとなると晩めしもまずかろう。お手伝いをして誤配線を直してみたものの、テンプラハンダが数箇所あったと見えて、一ヶ月も経たない内に、ブツブツノイズが出始める。
『御近所の素人先生に相談したら、これは発振である』という事で、私の所へその発振対策の質問状を書いてこられる。ミソもクソも一緒にしたような話。
|そこで、アンプ作りのコツを一席。
まず、実体回路図(第6図)を、街のコピーサービスでコピーを2枚作る。庶務課のお嬢さんに、あべ川餅でもふるまって、コピーを作ってもらうのも手である。
一枚はポケットに入れておいて通勤電車などで、暇つぶしにじっくり見て音の経路をたどってみる。何度も。PHONE(「PHONO」の誤り)の入カピンに入った信号が、ファンクションスイッチ(Source Selector Switch)(S-1)のウェーファーⅡのビン1に入り、0番ピンヘ出て、イコライザアンプのプリント基板へ入る。(この線はシールドで、そのシールド側が入カピンでアースを落ちスイッチのビンの傍でシールド同志〔「同士」の誤り〕をつなぎ、そして、プリント基板の所で入力アースターミナルにつながる事に注意。ここでヨタをすると、必ずハムが出る)
基板の中で音質補償(RIAA)と増幅された(37dB@1,000Hz)信号は、OUT側へ出て来るから、そこからリード線(単線)を通って、もう一度ファンクションスイッチヘ戻り、 Ⅰ-1へ入って、同じくI-1へ出て来る。(ロータリースイッチの実物をよく見ると、この様子がのみ込〔「め」が不足〕る)
I-0から出たリード線は、テープモニタースイッチ(S-2)のI-0へ入る。そこから後は、前に述べた通りである。もう一度読み直せば良い。
バランスコントロール(VR-4、B50kΩ)のビン1へ入った信号は、中点で1/2%に減衰してピン2へ出た後、リード線を伝って、ボリュームコントロール(VR-5、A50kΩ)の3番ピンに入り、つまみ中点で1/5に減衰されて2番ピンに出る。
ボリュームから出る線も、クロストークを防ぐ為に、シールド線になっているが、フラットアンプ基板の入口では、 シールド側は切りっばなしで良く芯線だけを入カピンにつなぐ。
フラットアンプで48.5倍(33.7 dB)に増幅されて、OUT側に出てくる。そしてレベルセット用ボリュームに入り、その中点に適宜減衰された信号がローブーストスイッチのI-0につながり、 I-2から出てOUTPUTターミナルヘシールド線を通って出る。このシールド線のシールドは、ボリューム及びOUTPUTターミナルの両方へ落としS-3の所でシールド同志をつなぐ。
このように、信号の通り道や、増幅状況を頭の中で整理しておくと、一般に難しいと言われているプリアンプもわけはないものである。だから私は、物の道理を考えないでアンプを作るとロクなものは出来ない、と常に述べているのである。(以下次号)
表紙写真の説明
この写真は、組み立て構造を解りやすくするために、 イコライザアンプ及びフラットアンプ用のそれぞれのICを取り付けたプリント基板をつける以前に撮影したものである。従って、
①ファンクションスイッチ(S-1)から桃色の単線、及び青色のシールド線は、それぞれイコライザアンプの信号基板へ配線する。
②ロープーストスイッチ(S-3)から出ている紫色及び黄色単線は、フラットアンプのNFB端子へ。
③電源部から出ている赤色、青色、自色の3本の単線は、赤色が+12V、青色が−12V、自色がアースの線であるから、それぞれ2枚の信号用プリント基板へ接続するものである。
④リアーパネルから出ている白色単線は、上記2枚の信号基板のアース、及び③に述べた白色のアースとまとめて、シャーシの一点アースポイントにおとすためのものであるから、信号基板取り付け後、確実なハンダづけにより、基板へつながれるものである。特に、この線に接触不良等があると、ICをとばしてしまうことがあるので注意する。
⑤フロントパネルの左上端(後ろから見て)にあるボリュームコントロール中点からフラットアンプ入力につながるシールド線は、写真が複雑になるので省略してあるが、実体回路図の指示のとおリシールド線を使ってフラットアンプ入力へつなぐことを忘れないように。フラットアンプの入力側ではシール線は切りっぱなしてよい。
以上、電波技術 1975年2月号