01.19
Second Opinion
検査に行ってきた。結果は24日に分かる。というか、恐らくすでに判明しているのだが、私の担当医、つまり最初から面倒を見てもらっている町医者の体がその日まで空かないので、そうなった。結果が出れば、またお知らせする。
ついでながら、昨日の記述に一部誤りがあったので、訂正しておく。
実は、我が体内には2種類の薬剤が投入された。1つは、昨日書いた放射性物質である。つまり、私をゴジラにするやつだ。
これを昨日は、「造影剤」と書いた。ところが、これは造影剤とは呼ばず、「トレーサー」と言うのだとは、担当の検査技師に聞いたことである。そのついでに、
「これ、ガンマ線を出すとうことだけど、ガンマ線の飛距離ってどれくらいありましたっけ?」
と聞いてみた。トレーサーを投入された私の体はガンマ線を発し続けることになる。まあ、検査技師さんが私のすぐそばで仕事をしているのだからたいして心配することもないのかも知れないが、できれば人に影響を及ぼさない安全距離を知っておきたいではないか。
とは、3,11の福島原発事故の直後、大あわてで勉強した放射線の知識の中に、放射線にはα線、β線、γ線、x線、中性子線という種類があり、それぞれで飛距離が違っていたという記憶があったからである。確か、α線は数㎝しか飛ばなかったはずだが、γ線はどうだっけ?
「あ、済みません。私も知らないので、撮影た終わるまでに調べておきます」
とは検査技師さんの言葉で、その言葉通り、調べておいてくれた。
「γ線はどこまでも飛びます。正確に言うと、距離の2乗に比例して減衰するのですが」
そうか、どこまでも飛ぶのか。それじゃあ、安全距離なんてないんだな。とはいえ、私が最も大量に被爆しているはずで、だったらあまり気にすることもないか。
放射性物質の話はこの程度にして、次は造影剤である。これも我が体内に注入された。こちらはリンパ腺を通じてほかの臓器に転移していないかを調べるのだそうだ。
「これを入れるとね、体が熱くなるんです。すぐに治まりますから、心配することはありません」
といわれても、体が熱くなる、とはどのようなことなのか、想像できない。それで聞いた。
「ずっと前に、アメリカ・ラスベガスでモルヒネを打ったことがあるんです。その時は、体がボーッと温かくなる、といわれて注射されたんですが、確かにそうなりました。あんな感じですか?」
「うーん、私、モルヒネを打ったことがないので、何とも言いかねます」
はあ、そうですか。
で、造影剤が投入された。なるほど、これを体が熱くなる、というのか、という感覚はすぐにやって来た。そう、肺の中に40℃ほどの湯を注ぎ込まれた感じ、といえば何となくおわかりいただけるだろうか。とにかく、胸を中心に、確かに熱くなるのだ。
「え、これ、俺は呼吸困難になるんじゃないか?」
と一瞬疑ったほどの異次元体験である。
ということで、昨日の原稿の修正を終える。あとは予定通りに進んだからである。
そんな検査を受けて自宅に戻り、体を休めていたら、思いもかけない人物から電話をもらった。BSデータ放送局・デジキャスで一緒だったH氏である。日立、富士通、キヤノンと朝日グループで作ったデキャスに、キヤノンから出向してきたあのH氏である。
「なんか、前立腺にがんが見つかって落ち込んでるんだって? それで慰めようと思ってさ」
いや、私は落ち込んではいない。起きてしまったことで落ち込んでどうする? 流れには乗るしかないという人生哲学の持ち主であるぞ、私は!
ま、それはそれとして、なんであなたが私の前立腺がんを知っている?
「いや、このごろさ、キヤノンからデジキャスに行った連中もほとんど定年になってね。それで時々昼間の飲み会をやっているんだわ。数日前にもやったんだけど、そうしたらM君がね、大道さんが前立腺がんが見つかって落ち込んでいる、っていうものだから」
何でM君が知ってるの?
「彼は『らかす』で知ったというののさ」
さて、M君、あなたは私の文章のどこに「落ち込んでいる」ことを読み取ったのか? 私は別に落ち込んではいない。初めて市を身近に感じとは確かだが、淡々と、時には戯画的に、我が病状を報告しているに過ぎないのだ。君、ひょっとしたら現代国語の成績、悪かった?
ま、それはそれとして、私のことを心配してくれる人がいることは心からありがたいと思う。持つべきものは良き友である。
「それでさ、あんたは重粒子線で治療しようとしているらしいけど」
とH氏は話を続けた。
「俺の友だちにね、慶応の医学部を出て重粒子線の研究をずっとやってるヤツがいてさ」
H氏は、誰もが羨む麻布学園の卒業生である。成績のいい子どもが寄り集まる御三家のひとつだ。だから、田舎の中学、高校しか出ていない私と比べるまでもなく、麻布つながりの友人、知人にはそれなりのキャリアを積んだ人物が多い。その1人が重粒子線治療の権威なのだという。
「あいつはね、専門にやっていたのに、重粒子線をそれほど信頼していないんだわ。ヤツによると、放射線治療やその他の治療は、いわばがんに軽自動車をぶつけるようなものなんだそうだ。ところが重粒子線は。同じガン細胞にダンプカーをぶつけるほどの威力がある。それをわきまえずに、何でもかんでも重粒子線とやってしまう医者が多くて、やり過ぎ治療が横行しているというんだな。やりすぎは決して良くないしね」
ほう、H氏の友人にそのような人がいたのか。
「だからね、検査結果が出たら、一度ヤツに会った方がいいんじゃないかと思ってね。セカンドオピニオンを求めるんだよ。いまは埼玉で大きな病院の院長をしているから時間はたっぷりあるはずだ。それに、慶応病院にも顔があるから、何かと役に立ってくれるんと思ってね」
もう一度書こう。持つべきものは良き友である。良き友に、H氏のような人脈があれば、これほどありがたいことはない。心から嬉しく、二つ返事で彼のお世話になることにした。
「24日に結果が出るから、あなたに電話するわ。その先生を紹介してよ」
H氏も、二つ返事で私の願いを聞いてくれた。
「それでさ」
とはH氏の話の続きである。
「ほら、デジキャスで一緒だったキヤノンのG君も間もなく定年なんだよ。それで4月頃にG君の定年祝いの飲み会をやろうと思っているんだけど、おいでよ」
キヤノングループの飲み会で私が話題になり、飲み会に誘われる。個人的に、これほどの名誉はない。
「喜んで」
そう答えて電話を切った私であった。
もう一度書こう。持つべきものは良き友である。