01.21
Third Opinion
このところ、知人、友人の思いやりに囲まれている。
昨日は桐生西宮神社の二十日えびすだった。無信心の私には縁はないのだが、同じ神社のえびす講では公式カメラマンを務める身である。
「お昼には弁当が出るからさ。食べにおいでよ」
と、あのO氏に声をかけられて、
「だったら、写真ぐらい撮らなくてはな」
とカメラをぶら下げて参加した。えびす講と違い、参拝客は片手で足りるほどである。折りからの冷え込みに手足の先を冷たくしながら弁当を待っていると、
「大道さん」
と声をかけてくる人がいた。世話人の1人、Sさんである。
「前立腺がんですって」
ん? 私はこの人には話していない。さてはO氏が話したか。まあ、この場で公開しているから隠さねばならないような話でもない。
「そうなんですよ」
と返事をすると、
「実はね、私の弟の知り合いの医者がやはり前立腺がんでね。でも漢方薬と食事療法で治しちゃったんです。抗がん剤なんて無理な治療は良くないと自分で研究して、がんを押さえ込むにはがんに強い体質を作るしかないという結論に達し、自分で実践しちゃったんですね。重粒子線でいまあるがんをつぶしても、体質が変わらなければ必ず再発するというのがこの先生の考えで。自分の体験をSNSで発信しているんだが、どういうわけか削除されちういうんです。がん専門家のマフィアみたいなものがあって、自分たちの説と違うヤツには圧力をかけているらしいんですね。でもこの先生はめげてない。治療といっても処方箋を書くわけではなく、市販の、それもたいして高くない漢方薬を飲め、って言う程度らしいんです。何だったらご紹介しますよ」
ほう、そんな人もいるのか。何でも、高崎で病院長をしているという。
いわれてみればその通りで、やはりがんには体質が関係するのだろう。例えほかの療法でいまのがんをやっつけても、体質が同じなら再発の危険はある。その体質が、食事療法と安価な漢方薬で変えられるのならありがたいことである。
「是非紹介して下さい」
と頼んで昨日は分かれた。そうか、私はsecond opinionに止まらず、third opinionまで受けることができるのか。
そのSさんから今朝電話を頂いた。
「ええ、あの先生にお願いしておきました。そうしたら、資料を送るが、まず電話をして欲しいとのことです。今日の8時半頃電話して下さい。はい、大道さんの事は紹介してあります。インテリで口は悪いが、人は余り悪くないといっておきましたから、話はスムーズに進むと思います」
そうか、私はインテリで口が悪いのか。
それはそれとして、これほど素早く動いていただけるとは。Sさん、私のことを心から心配していてくれるらしい。
それにしても、まさかの時の友、という。私は今回の前立腺がんで、すでに2人のまさかの時の友を得たわけだ。いや、心配してメールをくれた友も数人。心配してキヤノングループで情報を共有してくれた人が1人。
私は嫌われ者である、と思っていたが、案外そうではないのかも知れない。今回、私はまさかの時の友に素直に従うつもりである。
愛車が戻ってきた。車輪の回転数を検知するセンサーがおかしくなり、はてはエンジンやトランスミッションの不調を訴えるトライブトレーン警告灯まで時折点灯し始めて
「ドライブトレーンともなると、修理費は100万円では足りない。中古車がバカ高い時期だが、買い掛けもやむなしか」
と覚悟していた車が、センサー1個の交換で元に戻った。修理費は5万円強。大いに助かった。
助かったのはそれだけではない。その修理費に倍する金を、仲の良い市職員から電話で手に入れることになった。
「大道さんは個人事業主だったですよね」
と木曜日に電話をくれたのはI君である。
「そうだけど、どうして?」
「実は、10万円の支援金が出るんです。新型コロナウイルス対策原油価格・物価高騰対応支援金、というんですけど」
「へえ、そんな支援金があるんだ。でも、私の仕事はコロナとは関係ないし、筆1本、カメラ1台とパソコンで済む仕事だから原油高とも無縁だ。俺とは関係ないじゃない」
「それがね。去年の基準月が、1年前、2年間の同じ月と比べて10%以上売上が落ちているだけで出るんです。そんな月、ありません?」
「いやあ、月別の収入は記録してないからわかなないな。それにだよ、コロナとも原油価格とも関係ないヤツにまで金を配るというのは究極のばらまき、税金の無駄使いじゃないか」
「それはそうなんですけど、政府がそんな支援金を作ったんですよ。条件に当てはまるのなら、もらわない手はないじゃないですか」
「まあ、それはそうともいえるけど……」
「申請状況を見ていて、あ、大道さんは出していない、と気が付いて電話したんです。ただ、締め切りが明日なんです。遅くなって申し訳ないですが」
ふむ、私は税金のばらまきには原則的に反対である。それで得られる効果は限られているし、そもそも財政がグチャグチャになっているのに、国のどこにそんなゆとりがあるのか。いずれは増税として跳ね返ってくるに決まっているではないか。支持率の落ちた内閣の人気取り、公明党のアリバイ証明に多額の税金を消費するとは、国民として許しがたい!
とはいいながら、実はコロナ対策で国民1人10万円がばらまかれたとき、私は批判しながらありがたく受け取って生活費に消費している。いってみれば、口だけ男である。
「10万円。批判は批判として、もらえるものならもらった方がいいんじゃないか? 私が10万円受け取っても大勢は変わらないんだし……」
再び口だけ男が蘇った。
しかし、私の事業収入は支援金の対象になるのか? どうしたら分かる?
あれこれ考えて、信用金庫の預金通帳を引張りだした。私の事業収入はここに記載されている。
3年分の収入をエクセルで整理した。おうおう、立派に該当するではないか。収入が減ったのはコロナのためでも原油高のためでもなく、単に客が減っただけだが、原因を問わない支援金であれば立派に該当する
しかし、証拠書類がない。白色申告は税理士さんに頼んでいる。問い合わせてみたが、月別の売上を証明するものはないという。
「ということで、自分で計算したら該当するんだけど、それを証明するものがない。どうしたいい?」
と桐生市の担当課に電話を入れた。
「エクセルで整理された? ああ、それでいいですよ。それをプリントアウトして下さい」
ん? であれば、不正申告が横行するのではないか?
「今回はすごく審査が甘いんです。ああ、それに2022年の白色申告の1枚目のコピーだけ付けて下さい。はい、それで大丈夫です」
なんという支援金か! 国の制度設計に腹がたった。腹を立てながら
「ああ、これで車の修理費が助かった」
と胸を撫で下ろす私がいた。
人とはいくつのも顔を持つ。己をモデルに、そんな事実を突きつけられた私であった。
だが、助かった!