2023
07.21

私と朝日新聞 岐阜支局の15 子ども見つけた、の4 二世誕生

らかす日誌

二世誕生
 蚕の生命力に感動
  発表したい子が目白押し

小さな紙箱の中で、針先ほどの黒い虫が桑の葉をモリモリ食べている。ふ化して4日目のケゴ(毛蚕)。蚕の幼虫だ。「すげえ。ちびのくせによく食うなあ」。ルーペでのぞいていた子がいった。「おい、早くしろよ」。次の子がせっつく。岐阜市長良西小学校1年4組は、しばらくケゴの話でもちきりだった。
いや、ケゴの生命力に感動したのは、担任の坂井憲治先生(34)の方が早い。昨春、入学から1ヶ月ほどしてクラスで飼い始めた蚕が6月末に産卵、ふ化した。蚕は桑の葉で育てたが、ケゴのえさなど知らない。「無理やろなあ」。しかし、そのままになっていた。
ところが、3日たってもまだ生きている。桑の葉をやってみた。すると、これまで動かなかったケゴが、どんどん葉に群がる。食べる。うんこもする。うれしくなった先生は「食べとる、食べとる」と残っていた同僚に見せて回り、翌朝、子どもたちにも報告した。
   ▇珍しいものの時間
4組には「珍しいものの時間」というのがある。手に入った珍しいものを朝、クラスで発表する。「おじさんにもらったの」。最初の20匹ほどの 蚕は、この時間のために、のり子ちゃんが持ってきたのだった。
真っ白くてブヨブヨした3㎝ほどの虫。「ウエーッ」「気持ちわるーうっ」。評判が悪い。40日ほどたって、繭を作り始めても、まだ蚕の世話は5人の飼育係の仕事に限られていた。みんなは興味も関心もない様子で、ケゴが生まれても、えさのことを考えてやろうとする子もいなかった。
ところが、桑の葉に挑むケゴを見た日から、みんなが蚕の係になった。朝と放課後、競い合うように桑の葉を運んで来る。蚕が育つと、葉が20枚も30枚もついた枝を何本も抱いて来た。もう蚕にさわったって平気だ。肩や鼻の上に乗せて遊ぶ子もいる。
   ▇交換し無事結婚へ
かわいがりすぎて、失敗もあった。「ケゴに硬い葉は無理だよ。柔らかい新芽を持っといで」。先生にいわれた子どもたちは、桑畑へ行く。井上のおじいちゃん(70)が「それは違うよ」。子どもたちに連れてこられた先生におじいちゃんは「それじゃ栄養がない。硬くて青い葉を食べさせにゃ」と説明。先生も一緒に勉強した。
そして夏休み。みんなが2世の蚕を20匹ずつ分け合って、家に持ち帰った。
「忘れ物名人」の真君は、ときどきえさを忘れた。でも、それに気付くとすぐ、暗くなってからでも、桑畑に走った。アリでさえこわがったのに、蚕はキスするほど気に入っていたからだ。真君の自主性を育てるのにちょうどいいと考えていたお母さんは、手伝いたいのをがまんしていたが、蚕がオスばかりと気付くと、さっそく電話に飛びついた。「お宅のメスと一部交換してもらえません」。蚕は無事、結婚できた。
真理子ちゃんは、1人で育てた。かわいくて殺すのいやだったからとうとう繭から糸はとらず、ガにして卵を産ませた。
   ▇車中では抱いて眠る
明君は高山のおじいちゃんの家へ行く時、蚕と一緒に乗った。車中では抱いたまま眠った。大介君は田舎に行ったときヤママユガの幼虫とさなぎを目ざとく見つけた。達也君はおばあちゃんに教わり、お母さんと3人で繭から真綿を作った。
発表者が3、4人しかいなかった「珍しいものの時間」。最近は発表したい子どもたちが目白押しに並び、ずいぶん時間がかかるようになっている。
✖️     ✖️     ✖️
県下のある小学校の2年生が春、野原に自然を捕まえに行くことになった。みんな大喜びで飛び出し、目的地に着くと、さっそく虫探しを始めた。バッタが、いるいる。「逃げられた−」「やったー、3匹目だ」。捕まえるのがうまい子、へたな子、様々だ。
教室に帰ると先生は、子どもたちにバッタの絵を描かせた。すると、あることに気付いた。優等生だが、うまくバッタを捕れなかった子の絵は、まるで教科書に出て来る絵のように正確だ。だが、ハネが小さく、足は6本とも同じ大きさだ。
ところが、一番元気よく飛び回ってうまくバッタを捕まえていた子は、足が5本、後ろの2本が太い。ハネが大きくて、口から何かが下がっていた。聞くと、「足は捕まえる時に折れちゃった。それに後ろ足ではねるし、飛ぶんだよ。手で押さえたら口から変なものを出したよ」
テストでは、足が5本のバッタは✖️だろうが……。(1979年1月6日)