2023
07.26

私と朝日新聞 岐阜支局の20 子ども見つけた、の9 どろんこ大作戦

らかす日誌

どろんこ大作戦
 砂だんご割りっこ
  “新技術”開発し夢中に

先生も、上級生も、見たことさえない遊びだ。岐阜市島小学校で、放課後になると、ほとんどの2年生が、運動場で砂だんごを作っている。教室では見られない目の光。「色を出すんや」と、ズボンでみがいている子もいる。雑談はほとんどなし。あっちでは、ぶつけて割りっこをしている。
「おもしろそうやな」。2年生担任の小野島孝夫先生(39)、後藤征夫先生(34)、外山沢子先生(28)が挑戦してみた。だが、どんなに固く握っても、砂は指の間から逃げる。30分たって、1個もできなかった。
   ▇ドッジにあきて……
先駆者は2部(組)の慎治君。春から熱中していたドッジボールも、10月になるとあきてきた。「何して遊ぼか」。放課後、明典君や透君、明宏君と考えていて、幼稚園のころの泥だんご作りをふと思い出した。「おい、だんご作ろ」。あの時は田んぼの泥、今度は砂。だが、その違いを気にもとめない。
砂を両手で丸める。固まるわけがない。「水や」。蛇(じゃ)口に走った。それでも難しい。「できたぞー」。夕暮れ、そんな歓声があがった。
遊びは、難しいほど面白い。4人は、翌日も砂だんご作りだ。
慎治君は数日後、偶然に1つの発見をする。湿っているだんごに白砂をまぶし、手でこすっていた。すると、だんごがカチンカチンになった。
   ▇ほかの子も興味を
2、3日して、今度は透君だ。「白砂をいっぱいかけてズボンでこすると色がついて、そんで光るぜ。ほら」。透君のだんごは、確かに赤く光っている。まねしてみた。その通りだ。それも、白、黒、はだ色、赤、茶、と多彩だ。面白さがふくらんだ。
発明の連続。「いつの間に」。2部の小野道子先生(49)は考えてみた。入学以来、泥んこになって遊べ、といってはきた。親にも、そう呼びかけた。でも、ついこの間までは、スーパーカーやキャンディ・キャンディに夢中の子ばかりだった。それが……。どうしてもわからない。
「何やそれ。中に石が入っとんやろ」。しばらくすると、ほかの子も興味を持ち始めた。「違うぞ。ほら、砂ばっかしや」。割ってみせると、みんな「すげえ」と感心した。それから、そばで見て技術を“盗む”子、教えてもらう子、だんご作りはまず2部の子どもたちに、そしてすぐに1、3,4部に広がった。男の子も女の子も、いっしょだ。
   .▇子らがたくましく
新しい「子ども文化」の誕生。基礎が広がると、いろいろな花が咲く。
ぶつけ合って、割りっ子が始まった。勝つため、それぞれの「ノウハウ」が開発される。「一度皮がむけると強い」「2重に作るともっと強い」「土を混ぜるといい」「秘密の場所の土を使うのが一番強い」。大量生産方式も生まれた。「砂の山を作って、口に入れた水を上から少しずつかけるんや。乾いた砂をどけて残ったとこを丸めると、すぐにだんごになるよ」
でも、固くていい色が出た気に入ったやつは、割りっ子には使わない。後藤先生が「貸して」と頼んだら、「先生にもこれは貸せん」とはねつけられた。
こんな具合だから、帰るときはみんな砂ぼこりで、真っ白。でも、後藤先生たちは、子どもたちの姿に、教室では見えなかったたくましさを感じるのだ。
✖️     ✖️     ✖️
遊びの約束は学校で
きのう友だちとどこで誘い合ったか(中学年、高学年の部)
学校で23%、23%▽学校帰りに15%、8%▽友だちの家に誘いに行った10%、0%▽友だちが誘いに来た10%、0%▽電話で誘った5%、2%▽遊び場で出会った4%、1%
遊びの落ちこぼれ
あなたがきのう遊んだとき、友人は何人いましたか
遊ばなかった16%▽自分ひとりで26%▽兄弟と21%=以上で63%▽友だちと2人で10%▽同3、4人で7%▽同5人で20%
手仕事がない
あなたはきのう午後、何をして遊びましたか(複数回答)
テレビ、漫画、読書、描画、レコード鑑賞、プラモデル66%、トランプ、ゲーム、オセロ、五目並べ、おしゃべり31%=以上、室内97%▽自転車乗り、氷すべり、竹馬、散歩、ゴルフ17%、キャッチボール、はさみっこ、おに遊び、なわとび、ふざけっこ。ゴムだん、ろくむし28%=以上、戸外45%
(草土文化社「子ども白書」1978年版より)
あそびなしこどもは、くふうなし人間になる、という。(1979年1月11日)