08.19
私と朝日新聞 名古屋本社経済部の16 工販が合併するって?!
「ねえ、大ちゃん」
私は余程親しみ易い性格らしい。大道君、という人もいたが、少し親しくなると「大ちゃん」と呼ばれた。トヨタ自動車販売の広報課長氏も、「大ちゃん」組である。
「工販合併の話、どう思う?」
「アマンド」の、それほどうまくもないコーヒーを間に置いて、彼が私に問いかけた。
「工販合併? 私、全く気にしてません。前任のSuは、『工販合併は絶対にないから、安心してトヨタ担当をやれ』といって東京に行きました。だから、全く取材していません」
それは、8月にトヨタ担当を引き継いでからの私の基本路線である。
「そうかあ。そうだよね。あなたが工販合併を取材した痕跡はないもんなあ。だけどね、私はトヨタの内部にいるでしょ。何か感じるんだよねえ。どうもトヨタの首脳陣は工販合併に向けて動いているんではないか、って」
ん? 広報課長がそんな話をするか?
「どうだろう、大ちゃん。工販合併を取材してみない? なかったらなかったで仕方がないけど、私の感覚ではあるような気がする」
おいおい、そんなこと言われたって、私はどうすればいいの?
「大ちゃんが取材するのなら、私は全面的にバックアップする。私も知りたいんだ、工販合併があるかどうかを。やってみない?」
いや、だけど、そんな取材、どうやったらいいの?
「もし、工販合併があるんだったら、大ちゃん、君に抜いて欲しい。特ダネで工販合併を書いてくれ」
おいおい、話が違うではないか。前任のSuさんからは
『絶対にないから安心しろ」
といわれて引き継いだ。だから気楽にトヨタ担当をやって、まあ、誤報まがいの記事も書かされたが、Suさんが去ってわずか3ヵ月だ。いま、目の前にいるトヨタ自動車販売の広報課長が、合併はありそうだといい、私に取材を勧め、全面的に協力するといっている。俺の前任者は、いったいどんな取材をしていたんだ?
そこまで広報課長に言われれば、工販合併の可能性ゼロ、から、工販合併の可能性を50%以上に引き上げるしかない。可能性の数値を引き上げるということは、これからの取材の中心を「工販合併」に置くということである。
『アマンド』を出て広報課長と別れた。荷物を横浜の妻女殿の実家に置いていたので一旦横浜に戻り、荷物をまとめると新幹線で名古屋に戻った。
トヨタ自動車工業とトヨタ児童や販売が合併する? そりゃ大変だ。でも、どんな取材をしたら抜くことができる? 新幹線の車中では、そんな思いが頭の中で踊っていた。が、結論は出ない。とにかく、しゃにむにトヨタ自動車の経営陣に当たるしかない。
名古屋本社経済部は、毎週1回(だったと思う)、部会を開いていた。東京から名古屋に戻って最初の部会で、私は報告した。
「 Suさんからは、トヨタの工販合併は絶対にないという引き継ぎを受けました。ところが、東京で自販の広報課長から、かなり高い確率で工販合併はある、という話を聞きました。抜かれたら大変です。当面は私が探ります。しかし、山場になったら皆さんの助けが必要です。どうかよろしくお願いします」
こうして、私の工販合併取材が始まった。