2023
09.20

私と朝日新聞 北海道報道部の1 ああ、札幌

らかす日誌

札幌のことは、「グルメらかす」で書いたことがある。これからの記述は、あの時書いたこととダブることになる。であれば、わざわざ「グルメらかす」に飛んで頂く手間を省くため、あの時の原稿をコピペしながら書き進めようと思う。「グルメらかす」をお読み頂き、記憶までして下っている方々には申し訳ないが、お許し願いたい。

駐車場が、厚さ1m以上もあろうという根雪で囲まれていた。南国九州に育ち、居住地の北限が東京だった私には、初めての光景だ。なんだか、ワクワクしてきた。
3月31日のことである。
次の転勤先である札幌に、家族ともども着いたのだ。

待つほどもなく、荷物がやってきた。同時に、愛車、フォルクスワーゲン・ゴルフも到着した。この車で、北の大地、雪の大地を走り回る。心が躍る。

心が躍ったためだろう。突然、ひらめいた

「この車で、あの雪の壁に突っ込んだら、車のフロントがそのまま雪の壁にプレスされるなぁ」

わがゴルフのフロントグリル、ヘッドランプ、バンパー、フェンダー、ボンネットの形を正確に写し取った雪の壁。
ひどく魅力的な光景ではないか。

もういけない。わが心は、67度ほど前にのめっている。身体があまりに傾くと復元力の限度を越えて転けてしまうのが物理学の法則ではあるので、もう止まらない。
だが、その時の私は、転けるかもしれないなんて考えもしなかった。見えていたのは、わが脳裏にひらめいた魅力的な光景だけだった。

ドアを開け、運転席に乗り込む。エンジンをかける。

「行くぞ!」

クラッチを床まで踏み下げ、ギアをローにぶち込み、アクセルを踏み込んだ……。

なぜ、あんな愚かなことをしたのか、お前はバカかと、いま私を責めるのは簡単である。

(余談) 
私自身、何度も責めた。

だが、それは後知恵にすぎない。後知恵に長けた人は、自らを安全地帯にしか置かない永遠の批判者に過ぎない。何ごとも成し遂げられない。当事者にはなれない。当事者でなければ味わえない醍醐味とは無縁である。かわいそうな人たちである。
属する組織で、こんな人をリーダーに持った部下は悲惨である。

アクセルをあおられたゴルフは、脱兎の勢いで、と書きたいが、1500ccのディーゼルエンジンは、それほどのものではない。それほどのものではないが、取り敢えず前進を始めた。雪壁までわずかに5、6m。この距離を疾駆したゴルフは…………、
雪壁に激突した。

バリバリ、ギーッ……。

車の前方から、何かが引きちぎられながら壊れるような音がした。
眼前にあったひどく魅力的な光景が消えた。
愛車が、壊れた?

車を下げた。車から降り、前に回って点検した。
あらら、一番下にあるプラスチックの部品、たぶんスカートといったと思うが、そいつが無惨にも割れている。
えっ、だって、突っ込んだのは雪の山だろ? それなのに、何でスカートが割れる……。

わが愛車が突っ込んだ雪の壁を見た。おかしい。車が突っ込んだ跡がどこにもない!
いったい、何が起きたんだ?

原因究明には綿密な観察力と、観察結果を基に大胆な仮説を構築する想像力、仮説をチェックする細心の注意がいる。
雪壁に触ってみた。カチカチだった。あの、柔らかい、ふんわりした雪の面影はどこにもなかった。
これは、そう、氷だった。氷壁だった。

南国九州生まれが、雪は固まると氷のように固くなる事実を学んだ瞬間だった。

(余談) 
九州にも雪は降る。しかし、手で固めても、こんなに固くはならない。こんなに固くなったら、雪合戦は殺しあいになる。

以上は「グルメに行くばい! 第12回 :札幌ラーメン」からのコピペである。何だか、昔の方が文章が生き生きしているような……。

札幌での住居は月寒にある公団のマンションだった。その一部を朝日新聞が借り、社員用の住宅にしていた。
さすがに北国である。窓はすべて二重窓。3LDKの間取りで、LDにはでっかい石油ストーブがあり、そこから出た煙突が天井を走っていた。

横浜の我が家に比べれば半分以下の広さだ。そのため、家具は最小限しか持ってこなかった。食事は座卓で済ませる。オーディオはスピーカーが大きすぎる(当時、200リットルの内容積を持つ箱に、JBLの38㎝ウーファーと1インチドライバーを入れて使っていた)から小さくて安いコンポを買う。子どもには座卓で勉強させる……。

だが、暮らし始めると、座卓は不便である。テーブルが欲しい。だが新しく買えば、横浜に残してきた食卓とダブることになる。それに長男はもう小学校5年生だ。やはり勉強机が必要なのではないか? しかし、この狭い部屋に勉強机が入るか?

あれこれ考えて、全て自作することにした。安いベニヤ板で作っちゃおう! 横浜に戻る時は捨てていけばいい。

「グルメらかす」をコピペすると、こうなる。

テーブルは、12mmのベニア板で同じボックスを2つ作り、その上に、同じ厚みの90cm×180cmのベニア板の角を丸めてを乗せた。ベニア板1枚ではフニャフニャするので、4辺に12mmのベニア板を幅10cmほどに切って貼り付けた。ボックスと天板はL字型の金具で固定した。
上からビニールクロスをかける。立派なテーブルである。足の役割を果たしてるのはボックスだから、テーブルなのに収納性もある。

椅子も自作である。ベニア板を×字型に組み合わせて足にし、その上にベニア板を乗せてL字型の金具で固定した。

部屋が狭いので、学習机は折り畳み式にしたい。書棚も兼ねたい。何日か考えた。

できあがったのは、使わないときは壁からの厚さが20cmしかない学習机である。
原理は簡単だ。まず、奥行き20cmの書棚のようなものを作る。この書棚に、テーブルを蝶番で取り付ける。さらに、このテーブルの下に、テーブルから床までの長さの扉を取り付ける。これだけである。
不使用時は、この扉を閉めるとテーブルは蝶番のところから折れ曲がって下がる。使用時は、テーブルを持ち上げて扉を開く。そうすると、扉が足の役割を果たしてテーブルが固定される。我ながら、なかなかうまい工夫であった。

(余談) 
仕上がりがどうであったかは主観的な判断になるので、ここでは触れない。評価していただきたいのは、こうした工夫である

 

こうして、住環境は整えた。そして4月1日。まだ春が訪れない札幌で、私は会社に出た。