2023
09.21

私と朝日新聞 北海道報道部の2 一村一品運動

らかす日誌

実は、札幌以降のことはほとんど記憶に頼るしかない。そのころから記事の切り抜きをサボり始めたからだ。そのため、時系列が頭の中で混乱している。よって、これからはエピソード主義で書き進めていくことにする。仕事と私生活が混在し、一部「グルメらかす」からのコピペを使うのは、これまで通りである。

私が最初に命じられたのは北海道庁担当だった。

私が赴任する2年前の1983年、北海道は異様な熱気に包まれた。社会党の横路孝弘氏を知事にしようという運動が盛り上がったのである。といっても、社会党にそんな市民の熱を作る力はない。突然ムクムクと姿を現した横路応援団は「勝手連」を名乗り、誰にも、どの組織にも支援を受けない選挙運動を繰り広げて横路氏を知事に押し上げた。

「そうか、市民運動の象徴のような革新道政を取材するのか」

そんな思いを抱いた。ところが、どんな記事を書いたのか、ほぼ覚えていない。わずか半年で担当を外れたこともあるが、北海道を楽しむこと急で、あまり仕事をしなかったのかも知れない。

1つだけ記憶にあるのは一村一品運動である。確か大分県の平松知事が先陣を切り、全国に広がった。今でいえばまちおこしである。わが町、我が村の「一品」を見つけ出し、ふるさとを元気にしよう!
北海道もこの動きに乗った。道庁は、あなたの町の「一品」を教えて下さい、と全市町村にアンケート調査をした。それをまとめたものが発表された。

配られた資料を見て、怪訝な思いにとらわれた。当時北海道には200を越す自治体があったが、その8割が

「観光」

と答えていたからだ。
確かに北海道は風光明媚である。観光地も数多い。チマチマした風景ばかりの本州から来れば、雄大な自然に心を洗われる。
しかし、である。それにしても、8割、数に直せば160〜170の自治体が「観光」とは、いくら何でも多すぎるのではないか? 都会から人を招き寄せることができる観光資源を持った市町村がそんなに沢山あるのか? 尋ねれば、牛・馬の頭数が人口を上回っている町村だってあるだろう。人は、そんなところを観光するか?

あれこれ考えて

「これかな?」

と思いついたのは、そのアンケートの原稿が記事になったずっと後だった。

「こんな結果になったのは、政治的な思惑からではないか?」

説明しよう。
平静の大合併の前、いま私が住んでいる桐生市、その隣のみどり市は

・桐生市⇐桐生市、新里町、黒保根村

・みどり市⇐東村、大間々町、笠懸町

であった。このうち、「一品」を持っていたのは織都といわれる桐生市程度だろう。新里町に特産物はない。黒保根村はかつては絹糸の産地だったが、いまはその俤はない。東村は林業と石材業しかないが、林業は不振、石材は中国に押されて需要が激減している。かつては足尾銅山から銅を運び出すルートの宿場町として栄えた大間々町も、いまはシャッター街。笠懸町はかつての農村から新興住宅地に変わりつつある地域だ。いずれも、特産物らしいものはない。

恐らく、当時の北海道の市町村も似た状態だったはずだ。そこへ道庁から「一品」の調査が来た。町長さん、村長さん、役版の職員は色々と考えたはずだ。しかし、どう考えても、ない。

だが、「在る」ものがあった。豊かな、豊かすぎるともいえる自然である。これしかない。

「どうだみんな。この町(村)が好きか?」

住み続けている土地を嫌いになる人は少ない。

「自然が豊かで恵まれてるよな」

これにも異論はない。

「都会の連中に、こんなに豊かな自然を味合わせてやれば、喜ぶんじゃないか?」

こうして我が市町村の「一品」として観光が脚光が持ち上げられる。わがまちは、都会人には絶対に手に入らない豊かな大自然に恵まれている。これを売り出せば都会から人が来るぞ。金が落ちるぞ。
わがまちの他に優れた自然をまつりあげれば、住民だって心地よいはずだ。次の選挙での支持は広がるだろう……。

こうして、何もない自治体が異口同音にあげた「一品」が、観光ではなかったか。

以上は私の仮説に過ぎない。だから、それ以上調べることはなく、記事にもしていない。
だが、思う。あの時「観光」と答えた自治体のうち、いくつが観光での町おこしに成功したのだろう?

そういえば、繊維産業の衰退が進む桐生市にも、市役所に観光交流課がある。知人、友人が尋ねてきても、

「さて、どこを案内しよう?」

と困る桐生市に観光交流課。これも町おこしの知恵がない現れではないか、と私は考えている。