2023
09.22

私と朝日新聞 北海道報道部の3 函館にて

らかす日誌

横路知事に同行して、函館に行ったことがある。知事が函館の若手経営者と懇談する。その会合は公開で行うので、取材をどうぞ、というわけだ。

札幌から函館への移動は国鉄を利用した。さて皆さん、札幌—函館汽車の旅は、どれぐらいの時間がかかると思います?
私は頭の中に北海道の地図を思い浮かべ、

「1時間か1時間半あれば着くだろう」

と計算した。ところが、私が思い描いた地図は小さすぎたらしい。乗ってみたら、4時間半ほど(いまはもう少し早いらしい)もかかった。

「 でっかいどお。北海道」

は事実だったのである。

記憶によると、懇談会には10人内外の若手経営者が参加していた。1人ずつ自己紹介をし、どんな仕事をしているのか、困っていることは、道庁に望むことは、などを話し、知事がコメントする、という進め方だった。

数人目の経営者が立ち上がった。

「私の会社では〇〇を作っています。〇〇には特殊な部品が必要で、東京から取り寄せています。運賃がかかってコストが上がるし、遠く離れていると納期の問題も起きるので、できることなら道内から調達したいのですが、それができないのでやむを得ず、今の形でやっています」

なるほどな。北海道でハイテクなものを作るということはそんな困難も抱え込むのか、と思って聞いていると、発言者のとなりに座っていた参加者が口を開いた。

「あ、いまおっしゃった部品なら、函館市内に、我が社のすぐ近くに作っている会社がありますよ。紹介しましょうか?」

単なる笑い話でしかないのかも知れないが、私は北海道の「性格」を見たような気がした。

東京から部品を取り寄せている経営者は、口とは違って、地元で調達できないかという調査をしていないのだ。恐らく、

「こんな特殊な部品を作っている会社が道内にあるはずはない」

と道内企業を蔑み、

「東京には最先端の技術が何でもある」

と闇雲に東京に憧れたのだ。
そして、地元経営者の集まりに出て情報を集める努力もしていない。恐らく

「俺は北海道では先端を走るハイテク企業を経営している」

という思い上がりと、大東京への憧れ、というよりコンプレックスが彼の中で同居していたのである。

行きつけになったスナックで、ママにこんな話を聞いたことがある。

「大道(と彼女は私を呼んだ)。札幌の女の子はね、この店で大道みたいなカッコいい男を見ると、その男が帰った後で私に聞くのよ。『あの人、どっから来たの?』って。例えば、『帯広から』、っていうでしょ。そうすると『なーんだ』になっちゃう。ところが大道のように『東京から』って答えると、『やっぱり!」っていうの」

北海道の人たちは、経営者も女の子も、ゆえなきコンプレックスを東京に持っているらしいのだ。

懇談会でのあのやりとりを、横路知事はどう聞いたのだろう。随行してきた役人たちは施策の参考にしただろうか。

私が彼らの立場にいたら、あの会話をヒントに、道内企業のデータベースづくりを思い立つ。道内にはいま、どんな技術があり、どんなものが作られているのか。それを有機的に結びつけるには、どうすればいいのか、をまとめる。地元産業を育成するには、北海道が自立するにはそのような作業から始めるしかないのではないだろうか。