2024
04.22

私と朝日新聞 朝日ホール総支配人の26 売れ残ったチケットをいただきたいのですが……

らかす日誌

朝日新聞は、頭が良すぎるバカが寄り集まっていると書いた記憶がある。私なんぞが逆立ちしてもとても太刀打ちできそうにない秀才、俊才が雲霞のごとくおり、議論をしても何度も打ち負かされた。そんな会社である。
それなのに、いまの朝日新聞の体たらくはどうだ? 販売部数は恐らく最盛時の半数を割っているに違いない。日々届く新聞の記事は読んでみようと思わせるものがほとんどない。紙面を繰るとびっくり、ドッキリの全面広告が連なる。
最盛時には全国通しの全面広告(ページの全てが広告)の「1ページあたりの値段は5000万円を超えると聞いたことがある。いま奇妙奇天烈な全面広告が毎日のように掲載されるのは、広告の価格ががた落ちしているからに違いない。朝日新聞の媒体価値がそれだけ落ちているのである。
秀才、俊才がきら星のごとくいる会社で何故そんなことが起きるのか?

優れた頭脳の使い方が間違っているのではないか?

ある日、1人の女性がホールの事務室を訪れた。顔は見知らないが、同じ朝日の社員らしい。

「あのう、いつものように、売れ残ったチケットをいただきたいのですが……」

聞くと、彼女は電子電波メディア局の人員である。Asahi.comの仕事をしており、Asahi.comの読者にプレゼントするのだという。きっと、アンケートに答えてくれた方から〇〇人を、浜離宮朝日ホールのコンサートにご招待、などという使い方をするのだろう。これまで何度も浜離宮朝日ホールの売れ残りチケットをもらい受けていたという。

「いやあ、それはやめましょうよ」

と私が答えると、彼女はキョトンとした顔をした。

「だって、前の支配人までは協力していただいていたのですが……」

という彼女に、私は売れ残りチケットの提供をしない理由を説明しなければならなくなった。

①浜離宮朝日ホールの席数はわずか552席である。それでもチケットが売れ残っているのは、そのコンサートを聞きたいという人がほとんどいないからである。
②従って、そのうような売れ残りチケットをプレゼントされて喜ぶ読者は皆無と知るべきである。逆に、朝日新聞の見識のなさを広く知らしめることになるのではないか?
③だから、読者に横論でもらおうと思うのなら、プラチナチケットをプレゼントすべきである。
④プラチナチケットとは、552枚を完売するコンサートのチケットである。ホールは独立営業体だから、ホールの収入を削って電子電波メディア局を助けるいわれはない。チケットの代金はきちんといただく

我ながら、実に論理的な節目である。だが、彼女にはまっとうな論理を呑み込む力がなかったようだ。突然怒りだし、あいさつもそこそこにわが事務室を去った。それからは2度と

「余ったチケットがあったら……」

という話は来なかった。

朝日新聞に入ったぐらいである。彼女も頭脳は明晰なのだろう。それなのに、何故こんな簡単な事がわからないのだろう? 杜撰な経営戦略を選択するのだろう?

彼女の行動にはいくつかの問題点がある。

①新聞社にとって読者は神様である。彼女はその読者たちを、売れ残りのチケットでも渡しておけば喜ぶ人々だと見下した。あってはならないことである。
②ホールの売れ残りのチケットに目をつけたのは、彼女の知恵だろう。きっと廃物の利用法を思いついたと己の知恵を誇ったかも知れない。だが、読者を馬鹿にすることからは何も生まれないし、ホールにとってもメリットはゼロである。
③プレゼントされたチケットを握りしめてコンサートにやって来る読者もいたのかも知れない。彼らが目にするのはガラガラの客席である。チケットが売れ残っているのだから、当然そうなる。彼らが聞くのは、金を出してまで聞こうという人が首都圏で150人しかいないコンサートである。何の満足も得られず、逆に浜離宮朝日ホールはつまらないコンサートを開いてい三流のホールであると感じ取って帰途につくのではないか。
④きっと彼女は、そんなことは思いもしなかったのだろう。廃物利用を思いついた己の知恵を誇り、社内で人並み優れた仕事をしていると自分では思っていたのではないか?

これも、頭のよすぎるバカの一例だと私は思っているのだが、どうだろう? そして、彼女の求めに応じて売れ残りのチケットを渡していた支配人も同じ穴の狢ではないか?

この話には落ちがある。それからしばらくして、彼女は事業局の局長になった。つまり、私の上司になった。その後、役員にまで上り詰めたような記憶もある。彼女のような頭の使い方、判断をする人が評価されるのが朝日新聞だったらしい。

もっともこの頃、朝日新聞は女性の登用に熱心であった。その社内の熱気が、彼女に高下駄を履かせたのだと私は思っている。そうとでも解釈しなければ、何とも不可思議な人事だったからである。
それでもなあ、と思う。高下駄を履かせるのなら、もう少しましなヤツを見つけろよ!

繰り返す。朝日新聞とはそんな会社だった。ま、これは朝日新聞に限ったことではないのかも知れないが。