2018
11.28

2018年11月28日 負傷

らかす日誌

お恥ずかしい次第になった。酒に酔って負傷してしまったのである。

昨日、酒に誘う友があった。M新聞のT君である。桐生に赴任して3年近く。彼と一緒に仕事をした期間は短かったが、良き友となった。といっても、年齢はちょうど一回り下の後輩である。

「大道さん、市役所のTさん(同じTで紛らわしいが、事実であるので仕方ない)と飲むことになったんだけど、来ない?」

という誘いの電話が午後3時頃あった。このところ顔を合わせるたびに

「しばらく飲んでないねえ」

という言葉を交わしあっていたのだから、否応はない。

「ああ、行くよ」

と即座に答えた。すると彼は、心外外な一言を吐いた。

「赤城山しかない店だけど」

私は赤城山という酒が嫌いである。桐生の隣、みどり市大間々町の造り酒屋の酒だが、味も素っ気もない酒というのはこういうものをいうのだろう。ただただ酒であるだけで、口に含んで飲み下してもちっとも美味くない。それでも営業政策には力を入れているらしく、桐生市内の飲み屋で赤城山を置かないところは、私の知る限りない。それどころか、赤城山しか置かないという店が大多数である。桐生には味覚障害者が多いのか?
で、今日行こうという飲み屋はあの赤城山しかないわけ?
即座に、2つ目の回答を発した。

「だったら行かない。2人で飲んで」

余りにも明瞭な反応に、T君は慌てたらしい。

「いや、酒は持ち込んでもいい店なので、好きな酒を持ってきてください」

かくして私は、人様にいただいていた4合瓶2本を抱え、菱町の山の中から桐生の夜の繁華街に、徒歩で出かけたのであった。

談論風発の飲み会であった。話題は来春に迫った市長選から、その後の市政の展望、群馬大学の動向、日韓関係、米中対立と尽きなかった。T君はひたすら赤城山を飲み、もう一人のTさんと私は2本の4合瓶を飲み干した。

「もう1件行きましょう!」

と雄叫びを上げたT君に強いられて餃子の店まで歩き、ビールを飲みながら5人前を2人で平らげた。途中、富山だったか金沢だったか、とにかくあっちの方から足利のフラワーパークに遊びに来たという若い2人連れがこの餃子屋に入ってきて、女性の方にT君がからかい気味に口を出し、私もついでに

「俺、綺麗な若い男の子が好きなんだよねえ」

とちょっかいをかけて盛り上がった。盛り上がりついでに、

「そんな遠くからわざわざ桐生まで餃子を食べに来てくれたのか。そりゃあお金を払わせるわけにはいかん」

とT君が言い始め、2人は金を払うことなく店を出た。
さて、ホテルにたどり着いた2人は、我々3人のおっさんの言動をどう評価したのだろう? 桐生にはアホなおっさんしかいないのだなあ、と2人で笑ったか。

ま、それはそれとして、事故が起きたのはこの店を出た直後であった。

山の中に住む私は徒歩で飲み屋に向かったのだが、町中に住むT君は自転車を足にする。この日も自転車で来ていたので店を出るとやおら自転車にまたがった。自転車も車両である。酔って自転車に乗れば飲酒運転である。

「だから、止めなよ、危ないし」

声をかけたが、彼の耳には届かない。またがって自転車をこぎ始めたのはいいのだが、自転車が真っ直ぐには走らない。よろよろしてる、危ないな、と見ているうちに、とうとう転けそうになり、自転車を倒してしまった。

「言わないことじゃない。でも、君は自転車の乗り方が下手だね。俺が見本を見せてやるからよーく見てろ」

と、私は彼の自転車を起こし、サドルにまたがってこぎ始めた。

ん? おかしいな。自転車が真っ直ぐには走らないぞ。ハンドルが右に左に、不安定に揺れるのだが……。

とまで考える時間があったかどうか、今となってはよく分からない。分かっているのはこぎ始めてすぐに視界がぐらりと傾き、世界がぐるりと回って、私は自転車とともに歩道に横倒しになったことだけである。

あちゃー、自転車で転けちゃった!

転けて、背中から落ちた。身体を起こすと、どこにも傷みはない。ただ転けただけのようである。

「大道さん、大丈夫?」

と私をのぞき込む2人に向かっては

「大丈夫だよ。俺、柔道2段。受け身の稽古はしっかりやったから、転んでも怪我はしないっての」

うろ覚えだが、その後も数回、私は

「俺は柔道2段である、知ってた?」

と繰り返したような、いやな記憶がある。記憶のどこかに引っかかっているということは、きっといっちゃったんだろうなあ……。

自転車を押すT君を、彼がひとり住まいする賃貸マンションの近くまでTさんと2人で送り、その後はわざわざ迎えに来て下さったTさんの奥さんに車で自宅まで運ばれた。

「どうもお手数をかけまして」

と感謝の意を表したのはいうまでもない。

そして、今朝。
昨夜は風呂に入っていない。そんな日はまずシャワーを浴びる。風呂場の床に残る水の層が冷え切っており、裸足の足から冷気が肩の辺りまで這い上る。シャワーの湯で椅子を温めて腰を下ろす。

「あれ?」

左の膝下に傷跡がある。

「あ、そうか。昨日転けたんだ」

転けた弾みですりむいたらしい。
だんだん記憶がはっきりしてきた。記憶が戻ると同時に、痛みも感じ始めた。左手首である。外見は何ともないところから、打ち身ではあるまい。きっと手首をひねっちゃったのだ。

69歳+飲み会+飲み過ぎ(日本酒をおそらく4合、ビールを2本ぐらいか)

の顛末であった。