12.25
Amazonで注文を間違えてしまいました。トホホ……
「お父さん」
と四日市の長女から電話が来たのは、昼過ぎのことだった。
「あかりちゃんのギター、間違って届け先をうちにしなかった?」
これはまた、素っ頓狂な話である。私を、それほどの粗忽者と思っているのか?
「なんか、ギターみたいなものが届いたのよ。だから、あかりちゃんに届くはずのものがうちに来たのかと思って」
いや、そのようなことはない。断じてない。なぜならば、あかりのエレキギターはすでに13日、川崎のあかりの元に届き、パジャマ姿でエレキギターをかき鳴らすあかりの写真も届いておる。そんなものが、今どき四日市に転送されるはずがない。百歩譲って、あかり用のギターを注文をした時、間違って嵩悟にも送る手配をしていたとしても、それは13日前後に配送されているはずだから、今どき発生するはずがない。今日はすでに25日である。何かの間違いだ。
嵩悟がやっとクリスマスのリクエストを送ってきたのは22日のことだった。「Fire HD10タブレット 10.1インチ32GB ブラック」で、しかも
「今なら5000円引きになっているから」
とのコメント付きだった。その夜にAmazonに発注、到着は26日の予定である。
予定は未定にして決定に非ず。26日のはずが25日に届いたとしても不思議ではない。長女は
「ギターらしきもの」
というが、それは嵩悟用に注文したタブレットではないのか? でもなあ、膝上で使うタブレットが、いくら何でもギターが入るほど大きな段ボールで配送されるはずはないが……。
「とにかく、開けてみろよ。中身が何なのか、確認しろ」
一度切れた電話が再び鳴ったのは1分ほど後のことだ。長女の声が飛び出した。
「やっぱりギターよ。赤いヤツ。これ、お父さん、注文した?」
そんなはずはない。そもそも嵩悟の元には、4歳の啓樹がリクエストしたミニエレキギターがある。4歳児にギターが弾きこなせるはずもなく、やがて忘れられて新品同様のまま、いまでも四日市にある。それに、あかりに買ったのは黒いエレキギターである。間違って2個注文し、配送先をわざわざ川崎と四日市に指定したとしても、赤いギターが四日市に行くはずはないではないか。
「ん?」
しかし不思議である。現代のミステリーは解明されなければならない。
「ちょっと待てよ。注文履歴を見てみるから」
机上のMacでAmazonのサイトに行き、注文履歴を開いた。あれまあ、一番上に「VOX ミニギター SDC-1 mini RD レッド ショートスケール レギュラーチューニング対応 手の小さな女性やお子様に最適 キャリーバッグ付属」がでんと座り込んでいるではないか。配送先は、確かに四日市の嵩悟となっている。えっ、俺、いつの間にこんな注文を出した?
次に着目しなければならないのは、注文したタブレットがどうなっているかである。ひょっとしたら、嵩悟のクリスマスプレゼントはタブレットとエレキギターという豪華版になるのか?
タブレットを探した。ない。注文履歴に、確かに注文したはずのタブレットが存在しない!
ということは……。
「おかしい。ギターは注文しているし、タブレットは注文してない。これは何かの間違いだ!」
何かの間違い。しかし、である。正確無比のコンピューターがこのよな間違いをしでかすはずはない。とすると、間違ったのは、私ということになる。でもなあ、タブレットを注文するつもりで、ギターを発注してしまうか? どのような手順を取ればそんな間違いをしでかすことができるのか?
「嵩悟はねえ、タブレットが来るって盛り上がってるのよ。それがギターになっちゃったら……」
それはそうだ。まずやらねばならないのは、私の間違い方を探求することではなく、嵩悟のリクエストに応えることである。
再びAmazonのサイトに行き、タブレットを表示し、今度こそ間違いがないようにポッチンした。でも、何かが違う……
ん?
前に注文した時はあった「5000円引き」がなくなっているではないか! 15980円也。ということはあれか、私の間違いは5000円の罰金を支払わねばならないほど重大な間違いだったのか? トホホ……。
まあ、タブレットは最初の予定通り、明日四日市に届く。嵩悟の期待を裏切らなかったことだけが今回の救いである。
しかしなあ。タブレットを注文するつもりで、赤のエレキギターをポッチンしちゃう? どんな裏技を使えば、そんな高度な間違いをしでかすことができるのだろう? 謎は謎のままである。
あ、エレキギターは当然ながら、返品の手続きをした。明日には長女が送り返してくれるはずである。
なお、この不思議で高度な裏技を
「私も使ってみたい!」
と思われる方は、上の「お問い合わせ」から私にメールを出していただきたい。懇切丁寧にその手法を……、あ、どうやって間違ったのかが分からない以上、ほかの方に裏技を伝授することは不可能か。
というわけで、ますます老いが募っている私であった。