2024
01.04

私と朝日新聞 2度目の東京経済部の59 「マイポケット」の話

らかす日誌

ウイークエンド経済の紙面はフロント面だけではない。ほかにもいろいろな趣向があった。
その1つが「マイポケット」である。著名人に財布の中身を入口にして経済観念を語って貰おうという主旨だったと思う。経済の潤滑油であるお金を入口にすれば、全て経済記事になる。これもウイークエンド経済の面白さだ。

私もいろいろな人に会った。

「やっぱり美人だな」

と思ったのは女優の清水美沙さんである。確かNHKの朝の連続ドラマで見かけて関心を持ち、取材を申し込んだ。

いまや東京都知事の小池百合子おばさんにも、彼女が38歳のおりに取材した。当時はテレビ東京のニュースキャスターだった。ちょっとその記事を引用してみよう。現東京都知事は38歳の時に何を話したか。

「番組のある日は午後7時頃出勤し、寝るのは午前4時ごろ。暇な日はほとんどごろ寝。でも仕事が楽しくて仕方がない。『財界の方にお会いしていると、<無趣味ですねえ>と言ってしまうことが多いのですが、実は私も同じで』。自称<おやじギャルの古手>である。
『いや、そういえば、趣味らしいものがありました』
出て来たのは、世界の航空機の時刻表。電話帳ほどもある大きさのが2冊。『運賃や乗り継ぎを考えながら、目的地までのルートを選ぶのが楽しい』。忙しい日常の中での息抜きとか。『お宅族』でもある。
買い物はこだわる。服も、気に入るのが見つかるまで妥協しない。だが、『バーゲンでジャケットを買ったのに、合わせるスカートはジャケットよりずっと高いものを買ってしまったなんてこともたびたび』。その矛盾が魅力の源泉かも。
一人暮らしの部屋に、がま口に入った宝物が。『カイロ留学中に使っていたちびた鉛筆なんですよ』。軸の塗装された部分が2、3㎜しか残っていない中国製の鉛筆が20数本。『お金がなかったのではなく、どこまで使えるかに挑戦するのが楽しかったのです』
『<もったいない>という言葉が分かる世代』という38歳が、経済報道に取り組む」

以上である。さて、もったいないが分かる38歳と言っていた彼女がやがて政治家になり、東京都知事に上り詰めた。いまでも「もったいない」が分かっているのだろうか? しかし、東京都のばらまき財政は私の目に余る。「もったいない」は投げ捨てなければ政治家としてビッグになれなかったのかなあ。
なお、取材はあまり楽しくなかった記憶がある。

「なによ、記者風情のくせに」

という「上から目線」を何度か見たような気がしたからである。

取材が楽しかったのは、ピアニストの高橋アキさんだった。エリック・サティの曲を中心に現代音楽に取り組み、サティ弾き、といわれていた。現代音楽なんて全く関心がない私だが、その高橋さんがビートルズを演奏した「ハイパー・ビートルズ」というCDを出したので関心を持ったのである。
約束の取材時間は確か40分だった。港区赤坂の東芝EMIのビルの一室でお目にかかった。容姿も魅力的なのだが、それを上回ってお話しが楽しかった。話はたびたび「マイポケット」から離れ、世間話が延々と続いた。だから取材はなかなか終わらず、1時間を超えたあたりで

「まだいいですか?」

と聞いたほど話が弾んだのである。私との相性が余程よかったようだ。そして、インタビューは、確か2時間に及んだ。これも記事を引用しよう。

「エリック・サティなど現代音楽が専門。サティブームの火付け役だが、『仕事がないと貯金がゼロになるのよ』。
昨夏、2ヵ月ほど仕事がなかった。暇。でも、お金がない。『主人に借金したのよね』。夫婦完全別会計とか。
自分は、5000円以上の外食は『ぜいたく」と思う締まり屋。夫は『パーッと使う方』。おいしいものが食べたいと主人を誘う。『おごるのも好きなのよ』
家計簿はつけない。銀行でスーパーMMCを勧められたが、パンフレットを読んでも分からず放り出した。金を増やそうなんて考える頭がない。『そんな暇があったら、ピアノ弾いてるか、本読んでる』。株をやってる人を見ると『生きてて楽しいのかしら』と思ってしまう。
いま乗ってる仕事はビートルズ。彼らの曲を現代音楽風にアレンジして弾いた『ハイパー・ビートルズ』を春に出したら、国内、英米で上々の評判。このほど第2集を出した。『素晴らしいメロディだから取り組みがいがあるのよ』
先日、非公開のレセプションで、井上陽水の伴奏をし、『楽しかった。。世の中、管理化が進んでるんだから、芸術ぐらい枠を取り払って、面白いことをやらなくっちゃ』。
次に何をやるか。90年代のパフォーマンスを模索中だ」

ウイークエンド経済は、本当に楽しんで仕事ができる職場だった。