私たちはいま、どこにいるのだろう?

この人には「法の支配」は通じないらしい。法とは国民を縛るものであるだけでなく、何よりも権力を縛るものである。法に明記されれば、どれほどひどいことでも執行する権限を権力は持つ。死刑制度を持ち続ける日本で、国家が死刑という名の殺人を執行するのは、法に死刑が明記されているからだ。他国にならって刑法を改正して死刑制度を廃止すれば、国家権力といえども死刑という殺人を行うことはできない。
それが法治制度の基本であり、原則である。国王、領主といった権力者の横暴を封じ込めるため、大量の血を流して大衆がつかみ取ったものが法治主義である。

それを平気で踏みにじる男がいま、アメリカの最高権力者である。米連邦最高裁は20日、トランプが貿易相手国・地域に対して圧力をかけて押し付けた相互関税を

「国際緊急経済権限法(IEEPA)は大統領に関税を課す権限を与えていない」

との判断を下した。立法、司法、行政の三権を分立させ、互いに牽制させるのも権力の暴走を抑えるための知恵である。そして三権分立の元では、法の解釈で最終的な権限を持つのは裁判所である。米連邦最高裁の判断には大統領といえども従わなければ民主主義は機能しない。

米連邦最高裁の論理は明瞭だ。憲法上、関税を課す権限は議会に与えられており、大統領の権限には含まれない、というのだ。9人中6人の多数意見だから、トランプはぐうの音も出ないだろうと思ったが、この男、狂い方がまともではない。

「この国の恥だ。憲法に忠実ではない」

と判決を非難し、今度は通商法122条に基づいて世界に一律10%の関税を課す布告に署名したのだという。クラスメートに圧力をかけようとこぶしを振り上げたら、先生に

「こら、お前、何してる! そんなことをしたらいけないだろうが!!」

と叱られ、

「だったら、これならいいだろ?」

と足蹴を加えようとしている、と例えればいいのか。全くもってどうしようもない男である。

ま、日本にとって唯一良かったのは、いま日本に課されている15%の関税が10%に下がることだろう。これでまた、輸出関連株が買われるか? それとも株価には、すでにこの判決は織り込み済みだったか?

だが、トランプだけを非難しても空しいだけである。問題は、トランプのようなとんでもない男を大統領にしてしまういまのアメリカ社会なのだ。民主主義国家の親分の地位を独占してきたアメリカがおかしな超大国になってしまったことで世界の秩序が変わり始めている。

いまアメリカではトランプの支持率が下がり続け、ギャラップ調査によると36%にまで落ち込んだ。不支持率は60%である。やっと揺り戻しが起き始めたか。今秋の中間選挙でトランプ共和党が大敗すれば事態は少しよくなるのだろう期待したいが、それでも次の大統領選挙で勝てる候補が民主党にいるのか? トランプ一色に染まったともいえるいまの共和党が出す候補者は、トランプの血を受け継ぐ者だろう。しかも、トランプより頭脳明晰な人物かもしれない。そんな共和党候補が次の大統領になったりすれば、事態はもっと悪化する恐れが強いのである。

もっとも民主党も、いまの米国社会の分断を招いた責任の責任を負わねばならない。弱者の味方を標榜しながら、ニューエリートに軸足を置いてきたのが、大衆の民主党離れをもたらしたのではなかったか。

思いはまとまらないが、とりあえず中間選挙の結果を待つしかできることはないのが私たちである。

だが私たちは、一方的にアメリカのいまを批判できるだろうか? 私たちはいま、高市早苗という首相をいただき、彼女が率いる自民党に316議席を与えた。異様に高い高市支持と、衰退とどまらない野党、なかでも旧立憲民主党のていたらくがもたらした結果である。原因は様々あれ、彼女は大勝利した。彼女はいま、その結果に酔っているのではないか。結果的に自分は強かった。しかし、その強さが敵対陣営の自己崩壊によるものだとの思いは、多分彼女の中にはない。

できるかどうか分からない公約の羅列。だが、その「できるかどうか分からない公約」に希望を繋ぐしかない有権者が彼女に過分の議席をもたらした。「できるかどうか分からない公約」にすがる人たちは、歴代の自民党政権の被害者ではなかったのかな? 彼女を押し上げいるのが「希望:ではなく、「絶望」でないことを願うばかりである。

さて、私たちは、アメリカでのトランプ現象を批判できるのか? 私たちはいま、どこにいるのだろう?

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