01.22
2010年1月22日 Hospital Day
病院をはしごした。今日は我が家のHospital Dayである。
まず向かったのは、桐生厚生病院だ。19日夜、8針縫った傷の後始末である。医者に傷の治り具合を見てもらい、包帯と絆創膏を取り替えてもらう。
受付は7時半から、診察は8時半からとのことだったので、早めに朝食を済ませ、7時半前に家を出た。私は待たされるのが嫌いなのだ。スーパーでもアウトレットでも病院でも、人が一番少ない時を狙う。病院で人が一番少ないのは、受付開始直後である。そのための早起きは苦にならない。
7時40分頃着いた。機械で手続きをすると、登録番号1番。つまり私が1番乗りだった。早起きは3文の得である。
診察開始を待った。待つのが嫌いなくせに、待つのには慣れている。自宅から文藝春秋の最新号を持参した。本を読んでいれば、待ち時間など苦にならない。駐車場に入るのに、イライラしながら延々と待つのとは大違いである。
出で立ちは、素足に例のスポーツサンダル、上はユニクロのダウンジャケットである。異様なことは前日と同じだ。
が、町中と違い、病院とはどこかが壊れた人と、壊れた人が治るのを助けようという人しか存在しない異次元空間である。壊れたところを労るのが最優先される場所では、町中で異様に見える出で立ちも、ごく普通にしか見えない。気にはならない。
本を読み進む。が、診察はなかなか始まらない。やっと看護婦が呼び込みを始めた。8時45分頃である。
なにしろ、受付番号1番である。私に決まっている……はずなのに、何故か大道という名前は呼ばれない。呼び込まれたのは別の患者である。
おいおい、俺は1番なんだけど。これまでずっと、1番というのとはほとんど無縁(ということは、1番だったこともある、ということである。どの分野での1番かは別として)の暮らしをしてきた私が、今日は1番を引き当てたのだ。何故私を1番に呼ばない?
ムッとした。が、まあ、1番なのだ。次は私に決まっているではないか。ここで怒りを爆発させるのはいかにも大人げない。
待った。が、次に呼ばれたのも私ではなかった。その次も、さらにその次もほかの患者である。
おいおい、この病院では不正が横行しているのか? コネがあれば、受付番号1番の患者を差し置いて受診できるのか?
堪忍袋の緒が切れかけた。思わず立ち上がり、文句を言いに行こうとしたとき、見えた。壁のボードに診察室が1号から4号まで書いてあり、1号と2号は予約患者で、当日受付の患者は3号とあった。してみると、私を差し置いて呼ばれたのは予約患者であったか……。
さらに待つこと10数分、文藝春秋の、読みたい記事はほとんど読み終えた頃、やっと私の名前が呼ばれた。
看護婦さんが包帯をはずし、ガーゼをはずした。医者が患部を診る。
「ああ、大丈夫ですね。ここまで来ると傷口から雑菌が入ることもないので、もう普通でいいですよ。来週の火曜日か水曜日に抜糸に来てください」
1時間半待ちの1分診療。大きな病院に関するワルい噂は本当だった。
医療費210円也を払い、駐車場に止めた車に急ぐ。さあ、これから病院のはしごである。
自宅に戻り、妻を促してリンを車に乗せる。いつもいやがるので、今日は妻を後ろの座席に座らせ、リンを抱かせる。出発。
ハンガーストライキ3日目に入り、さすがに足元がおぼつかなくなったリンを医者に連れて行くのだ。
妻に抱かせたのが良かったのか、車でもリンはおとなしかった。作戦成功である。
「3日前から何も食べなくなりまして、昨日の夜はロースハムをあげたら、喜んで2枚食べましたが、あとは何も。牛乳もだめで、水は飲むんですが、しばらくすると戻してます。黄色い胃液を吐くこともあって」
妻が病状を説明する。犬に食べ物をあげることはない。与えるのである、などという正論を言い出せる雰囲気ではない。
「そうですか。今日は点滴をしましょう。点滴に吐き気止めを入れます。それで食べてくれるようになればいいんですが。できれば3日ほど入院してもらって、その間に肺のレントゲンを撮って、肺に転移して水がたまっているようでしたら利尿剤を投与して……」
元々膀胱が悪いのである。利尿剤を飲ませて尿がより多量にできれば、リンはさらに辛い思いをする。そんな治療はリンのためになるか? 利尿剤を飲ませないとすると、レントゲンを撮っても病気の進み具合わわかるだけではないか。余命を知ることに何の利点があるのか?
「だから3日間入院してもらって、その間は膀胱にカテーテルを入れて尿を流れっぱなしにしますので」
納得して合意した。
かくしてリンは日曜日の夕方まで入院することになった。それで食べるようになれば良し。相変わらず食べない場合は、注射器のようなもので食料を口から押し込むのだそうだ。
日曜日、龍馬伝を見終わったら、リンをお迎えに行く。食欲が戻っていればいい、と願うのみだ。
うむ、犬はお迎えに行くものなのかなあ……。