2010
10.19

2010年10月19日 愚かにも

らかす日誌

私に中国問題を問う人があった。今日の午後のことである。

 「大道さん、中国っていったいどうなってるんですかね。あんなに反日デモがあって、あれは政府が煽ってるとしか思えませんな。酷い国だ」

今回のような問題が起きると、にわか愛国者が増える。にわか愛国者が増えると、かつての日比谷焼討事件のようなものだって起きかねない。ゆゆしきことである。

と思ったが、さて、私にもそれほどの知識はない。あるのは、週刊誌を拾い読みした程度のものだ。そんなもの、この場で役に立つか?

「いや、あれは中国政府が煽ってるんじゃないと思いますよ。中国政府だって困っている、と思いますけど」

この程度の反論で矛を収めていては、たとえにわかであっても、愛国者にはなれない。当然、二の矢が飛んでくる。

「だって、あの中国ですよ。政府が認めてなければ徹底的に弾圧するに違いないじゃありませんか。それを野放しにしているのは政府の息がかかっているからですよ」

そうきたか。

「いやー、中国政府は困ってるんじゃないですかねえ」

 「どうしてですか?」

私の独演会が始まった。

まず、今回の反日デモは中国にとって利益がない。
いまの中国は、自力では成立しない国である。かつて生産国であった歴史を持たない中国は、ものづくりが得意ではない。現在は先進国の資本が、労働力が安い中国を生産基地として利用しているのであって、現在の中国の経済成長は外国資本のおかげである。

それなのに、今回の反日騒ぎは、先進国の企業に「チャイナ・リスク」、つまり中国という国と経済関係を深める危険性を改めて思い知らされた。利害得失の経済原則の基づくのではなく、政治的な思惑で物事が進んでしまう。すべてがお金に換算されれるのであればリスクは投資した企業が管理できるが、損得を抜きにした政治で決められてしまえば打つ手はない。

「このまま中国に投資し続けていいのか?」

企業経営者なら、そんな疑念を持つ。

確かに、いま攻撃目標になっているのは日本である。デモの投石を受けているのは日本製品を扱う店、日本ブランドの店である。レアメタルも日本向けの輸出が止まっているだけだ。が、いまは日本だが、いつ自分の国が目標になってもおかしくない。中国に頭を突っ込みすぎると、突然、どんな被害を受けるか分からない。対中投資は慎重にしないと。
それが、企業のリスク管理である。

それでなくても、いまの中国は徐々に労働力価格が上がりつつある。国内の賃金上昇と為替相場でジリジリと元が上がっているためだ。世界の生産基地としての中国の先行きに黄色信号が灯る。
そこにチャイナ・リスクが加われば、対中投資が止まるだけでなく、外資の引き上げだってあり得る。
中国の経済基盤がしっかりしていれば、そんなことが起きても一時的に混乱するだけで、中国経済は再び成長し始めるだろう。だが、いまの中国の経済成長の担い手は外国からの投資である。

それが分かりすぎるほど分かっている中国政府が、国粋主義的なデモを煽るわけがない。

「じゃあ、なぜあんなデモが起きるのですか?」

中国では、大きな国営企業の経営者は年間5000万円から6000万円の所得を得ているそうだ。だとすると、党幹部はもっと豊かだろう。
一方で、国民の平均所得は驚くほど酷い。平均月収は3万円から4万円ほど。年収に直すと36万円から48万円だ。中国とは、極端な所得格差がある国なのである。富の偏在の是正を目指した共産主義とは似ても似つかぬ国なのだ。
国内では、不満がくすぶっているはずである。

国内に火種があるとき、為政者は外に敵を作る。国民の目を外の敵に向けることで、国内のグチャグチャを覆い隠す。
そんなんで、人びとの日々の暮らしへの不満が消えるのか?
人間とは愚かなものである。消えるのだ。そんな例は歴史に五万とある。だから、内政に不安を抱える為政者は、常に外に敵を作り、国民の目をその敵に向けて愛国心を煽る。

中国の場合、その敵が日本であった。かつて侵略してきた日本。その日本がすぐ隣にある。これを使わない手はない。中国の為政者は歴代、国内をまとめるのに日本を利用し、国民の反日感情を煽ってきた。
無論、為政者は馬鹿ではない。日本と互恵関係を続けていくことが中国の利益になることは充分分かっている。だから日本との国交を回復し、経済関係を深めている。

中国の為政者は、国内向けには反日本、対外的には親日本の2つの顔を使い分けてきた。いや、親とは行かないかも知れないが、少なくとも敵としては扱ってこなかった。

だから、本当は尖閣列島問題も大きくはしたくなかったはずだ。だが、外交音痴の菅内閣は予想外の反応を示した。中国政府は国内向けの顔を優先して日本に拳を振り上げるしかなかった。国内で反日感情が盛り上がり、それを無視していては国民の攻撃の矛先が中国政府に向きかねないからだ。
日本に喧嘩を売っては、国益を損ねる。だが、喧嘩を売らねば国民が治まらない。これは、中国の為政者にとっては苦渋の選択であったはずだ。

さて、中国で反日デモをしている若者たちの背景には、国内大多数の貧しい暮らしがある。いい思いをしている連中もいるのに、大多数は貧しいままだ。
そんな鬱屈した思いは、政府転覆運動の温床となる。国民の怨嗟の声は、本来なら国内政治に向かう。だが、天安門事件を思い出せば分かるが、強大な軍事力を持つ政府に立ち向かうのは恐ろしいことだ。だが、苛々はどこかで解消しなければ身体に悪い。こうして鬱屈しているところへ、尖閣列島問題が起きた。反日教育を受け続けた彼らは、格好のはけ口を見いだした。

いまの中国政府は、2つの悩みがあるはずだ。
改めてチャイナ・リスクを思い知った外国の資本に、中国への投資を続けさせるにはどうすればいいか?
いまは日本に向かっている国民のエネルギーが、方向を変えて政府、中国のいまの体制に向かってくるのをどう避けるか?

「ふーん、そんなものですかね」

私に無謀にも問いかけた人は、そういった。
いや、そんなものですかね、といわれても、私だって自信はない。問われたから、うろ覚えの知識を頭の中で再構成して口から出しただけだ。
何しろ私は、中国問題の専門家ではないのである。間違ってたらごめんね。

 

という重い話だけでは面白くない。 ほかにも何か書こうと思っていたが、思い当たるネタがない。
というわけで、今日はこのあたりで。
お休みなさい。