07.14
2017年7月14日 予言者
明け方、不思議な夢を見た。
あの金正恩が暗殺されたのである!
夢は、食事会から始まった。お相手は、かつて野村證券社長だった田淵義久さんである。ずっと親しくしていただいていたから、ご登場されても不思議ではないが、何でこの夢に? の配役である。
登場人物は田淵さんだけではない。田淵さんのご子息も登場された。だが、ご次男とは面識はない。面識があるのはご長男だから、ご登場されたのはご長男だと思うのだが、ご長男は昨年、急死された。それに、これがまったくご本人に似ていない。ご本人はどちらかというとごつい体つき、顔つきであった。登場したのは、見るからに優男であった。不思議なのは、それでも
「これはご長男である」
と私が信じて疑わなかったことだ。
さて、食事をしたのがどこの何という店かはまったく不明である。ただ、3人でいろりを囲んでいた。いろりの上には焼き網が乗せてあり、その上で肉が焼けている。何のことはない、焼き肉屋なのだ。
夢で肉を食う。俺、最近、肉を食ってないかなあ……。
肉が美味そうに焼けた。それを頬張る。美味い! もう一切れ、と箸を伸ばしかけたら、ご長男が席を立たれた。どういう訳か、あれほど食い意地が張っていたはずの私も、ご長男の後を追って席を立った。
外に出てみると、ご長男はどこかのご婦人と会話中である。遠目にも、和風の美しいアラサーであることが分かる。
やがて2人は手を降って分かれた。その時、夫人の顔が見えた。
「何だ、俺も知ってる女性じゃないか!」
と確信した。
知ってる、知ってる、知ってる……、でも、あの人、誰?
そうなのである。見知った顔なのに、何度もお目にかかったはずの人なのに、その人が誰であるのか、記憶のどこを探しても一片のデータも出てこないのだ。
おい、俺の頭は大丈夫か? アルツハイマーの予防接種はしたんだっけ?
はい、まだ金正恩はまだ出てきません。もう少しお待ちを。
多分、あの女性が誰であるのか思い出せずに悶々としながら、私はきびすを返したのだろう。気がつくと、再び焼き肉の前にいた。さて、もう一切れ。これ、ちょうどいい焼き加減じゃないか。
と箸を延ばそうとしたら、田淵さんがおっしゃった。
「大道君、君を案内したいところがあるから出よう」
えーっ、まだ食いたいよう!
とは、尊敬する田淵さんには申し上げられないのが私である。
「はい、出ましょう」
焼き肉に心のほとんどを残しながら店を出たと考えていただきたい。そういえば、支払いはしなかった。きっと田淵さんが払ってくれたのだろう。
歩くと、狭い路地に入った。何だか古めかしい和風の家が建ち並ぶ。道は石畳のようだ。
「ここになあ」
と田淵さんがおっしゃった。
「寄席があるんだ。そいつを君に見せたくてなあ」
はあ、寄席ですか。寄席を見せたいから、焼き肉を食うのはよせ、ってですか。でも、私に寄席を見せて何の役に立つと?
「あ、ほんとですね。こんなところに寄席があるんだ」
覗こうとするが、中は暗い。いまはやっていないようだ。やむなく、そのまま歩くと、隣の家から若い衆が飛び出してきた。
「おや、田淵さん、お久しぶりで」
聞くと、落語家になる勉強中の若者で、この寄席の隣の家で落語家仲間と2人暮らしをしているのだという。夢の中では思いつかなかったが、彼らは前座か、二ツ目か。もっとも、前座は師匠の家に住み込むのが普通だから、とすると二ツ目に違いない。
「田淵さん、寄っていってくださいよ」
その二つ目君が言った。
「テレビで、ちょうどいいところをやってんですよ。あの金正恩が暗殺されたんですって。何でも、爆弾で吹っ飛ばされたらしいですよ」
そういえば、屋内から流れてくるテレビの音声がそれらしいことを言っているようだ。
金正恩が暗殺された? 北朝鮮軍のクーデターか? 側近の反乱か? それとも、トランプのアメリカが無人爆撃機を飛ばしたか?
もっとよくテレビの音を聞こうと、その家の入るところで目が覚めた。
この時間になっても記憶しているほどだから、夢には珍しく、強い印象を残したようである。目が覚めて新聞受けに新聞を取りに行くとき
「ひょっとしたら、金正恩の暗殺は事実ではないのか? 1面はそのニュースだけだったりして」
と期待してしまったほどである。
私、国際関係にそれほどの関心はない。金正恩に個人的な恨みは全くない。それなのに、何でこんな夢を見る?
最近の北朝鮮のニュースに接するたびに、
「ああ、金正恩、かわいそう! こんなことをやらないと国内でいまの地位を保っていられないのね。いつもヒヤヒヤしながら笑顔で手を振ってるのね」
と同情し、
「ヤツがいまのつらい立場から逃れるには、誰かに暗殺でもしてもらうしかないわなあ」
と考えたりするからか。
落語では、
夢は五臓の疲れ
という。内蔵が弱っている、体力がなくなっているから夢を見るというのである。
とすると、私の老化が進んでいるということか?
で、である。
私、自慢ではないが、安倍内閣の支持率が急落していることを、メディアが報じる前にこの日誌で書いた。ご記憶だろうか、6月12日の「内閣」である。つまり、あの原稿で私は、私の予知能力を実証したことになる。
そして今回は夢である。夢占いがあるごとく、夢のお告げというがごとく、夢は将来を予言するともいわれるのである。
ということは、今回の金正恩の暗殺は、安倍内閣支持率急落の予言以上に当たる確率が高いということか?
本当に当たったらどうしよう、と怯える私であった。