01.04
2018年1月4日 頌春
これ、
「しょうしゅん」
と読むのである。
いや、なにも偉そうな顔をして皆様に何事か教えを垂れようというのではない。
それでなくても、しばしば
「あんたは偉そうな顔をしている」
といわれる私が、ほんの数年前まで
「こうしゅん」
と読んでいた事実を、恥ずかしながらお知らせしようというだけのことである。だって、こんな恥ずかしいこと、正月じゃなきゃあ、なかなか告白できないではありませんか、毎年来る年賀状のいくらかには「頌春」と書いてあり、それを「こうしゅん」と読んでいた私……。
それにしても、これ、「こう」って読みたくなりません?
ま、それはそれとして、皆様
あけましておめでとうございます。
早くも今日は4日。本日初めて書き記す「2018年」も、残り361日と9時間ほどになってしまいました。月日のたつのは早いものであります。
皆様の正月についてはトンと知らぬが、私の正月は実に静かなものであった。
31日に押しかけてきた啓樹、嵩悟の四日市一家は、晩飯を食い、元旦に屠蘇を飲んで雑煮を食べ、昼食のカレーを胃に収めると、そそくさと旦那に実家がある高崎に去ったのである。この間、啓樹はボスである私から、SONYの携帯ウォークマンとMacBook Airをせしめ、さらには
「これ、メモリー容量が少ないから、外付けのHDDは必需品だな」
との発言をボスから引き出してAmazonをポッチンさせ、3テラのHDDを自宅である四日市まで送らせる、まあ、盆と正月が一緒に来たような獲物を我が手にしたのであった。
無論、思いっきりすねをかじられたボスだって負けてはいない。
「あのな、啓樹は今年、もう2年生だ。2年生になったら、成績を学年1位にしろ。一度1位になったら、3位以下には下がらないようにしろ。いま一番必要なのは勉強だ」
とたっぷりお説教をしたのである。加えて、
「啓樹の成長が見られない場合、パパ、ママと相談してMacBook Airを送り返してもらうこともあり得る」
とドスのきいた脅しまで付け加えた。
啓樹はピアノの腕前を広く認められ、ブラスバンドでもトロンボーンを奏でる活躍を見せていることはすでに書いた。だが、詰めがいまいち甘い。学力はあるはずなのに宿題をさすれたり、計算ミス、問題の読み違えで×をもらったりと、しばしば期待を裏切ってくれる。
細かな物事に囚われない鷹揚さは高く評価するが、それが手抜きに繋がっては伸びるものも伸びなくなる。
というボスの懸念を、啓樹はどこまで受け止めてくれたか。
嵩悟は将棋が強い。
「ボス、将棋しよう」
といったのは元旦であった。気軽に相手をした。手抜きなしの真剣勝負である。嵩悟の横にはパパが陣取る。
「ねえ、パパ、銀ってどっちに動くんだっけ?」
まだ小学1年生である。駒の動かし方も全ては頭に入っていない。
それなのに、いざ勝負となると実に鋭いのだ。とにかく攻める。攻めて攻めて攻めまくる。時折、私の王手まで無視して攻めるご愛敬もあるが、盤面の読みは相当に深いと見た。すでに啓樹は敵わないそうだ。パパもこの日、飛車格落ちで敗北を喫した。
私は何とか勝利を手にしたが、
「やばい!」
と思ったことは一度や二度ではない。順当な勝ちではなく、何とか勝ったという勝ちである。次は負けそうだ。
となると、女どもは手垢のついた反応を示す。
「ほら、名古屋の天才少年。あの子、東大に行けって親に言われているらしいの。嵩悟も東大に行くのよねえ」
あの天才と、我が子、孫を同一視する軽薄さ。
嵩悟は、軽薄な女どもの期待に応えることができるのか? 大変だな、嵩悟!
で、一行が出発したあとは、やることが何もない。3日までは仕事らしきものは絶対にしないと心に決めていたから、心底暇な正月であった。
そうそう、暇に任せて、横浜の瑛太に算数を指導する準備をしていて、驚くべき事実にぶつかった。同じ問題なのに、それを掲載した本を出している出版社によって答が違っていたのである!
問題は、
「こんな問題、本当に小学生に解けるのかよ?」
というほど難しい問題である。いまのところ、私にも正解はよく分からない。
180人の生徒がいる学年である。英語、数学、国語の試験があって、A君は3教科とも、平均点以上をとった。問題はここからで
「A君の3教科合計の順位は、最も低くて何位でしょう」
栄光学園中学校で2009年に出題された。
「そんなもん、計算できるのかよ?!」
と思いながら取り組み始めたが、闇夜を懐中電灯なしで歩いているようで手がかりが見つからない。
「10人の時だったらどうなる?」
と考えてみたが、すぐに壁にぶつかる。半日ほど考えて諦め、答を見た。
178位
とあった。
が、だ。解き方が何ともまだろっこしい。それでは、と、同じ問題を掲載しているほかの問題集の解答を見てみた。
176位
えっ! だって、さっき見た問題集では178位だぜ。どうして2つも成績が上がるのよ!
という当惑に陥ったのではない。
「これ、ABC問題とか、数学の最先端の問題ではない。たかが、中学の入試問題である。であれば、答は一つしかないはずではないか」
という当惑である。
国語なら、問題文を書いた作家ですらが
「へーっ、これが正解なの。俺は違うと思うけど」
と驚くことがあるというから、出版社で正解が違うこともあろう。だが、算数で……。
出版社は「声の教育者」と「東京学参」。前者が178位で、後者が176位である。
この手の問題集には、誰がどのようにして正解を記述したかは書いてない。だが、いずれにしても数学専門の学者先生か、少なくとも教育者、塾の教師であろうと思われる。その「専門家」が取り組んだのに、正解が二つ。
「こんな問題、まだ小学生でしかない受験生に解けるのか?」
とは、とうとう自力で正解に行き着けなかった(瑛太、ごめん!)オヤジの泣き言、で済ませていいのだろうか?
いや、この中学、そのほかの問題は、実に良く練り上げられていて、
「ははあ、この学校は諦めない、全方位に注意力を注ぐことができる、チャレンジ精神に富んだ子どもを求めているのだな」
と思える素敵な問題を出しているのだが。
そうそう、そういえばかつて奉職した会社に、ここを出た上司がいた。どちらかといえば、私の嫌いなタイプであった。こんな問題を出す学校から、あんなオヤジが出てくるのかな、と考えれば、学校の教師の思い、願いが生徒に伝わる確率は、さて何%だろう、と悔し紛れに考えてしまう私であった。