2019
11.18

桐生は明日からえびす講である。

らかす日誌

「足袋と炬燵はえびす講から」

とは桐生で言い習わされてきたフレーズである。いまでは足袋をはく人はほとんど見かけなくなり、年中靴下をはいていることが多いから、「足袋」でピンと来る人は少ないかも知れないが、炬燵をお使いになる過程はまだかなりある。このフレーズの感覚は多くの方にご理解いただけよう。
前日までは足袋も靴下もはかず、暖房器具も使わなかったが、えびす講は季節の変わり目。桐生では今日から冬の暮らしをする、ということである。

桐生は明日からえびす講である。

桐生の方々と話していると、時折このフレーズにぶつかる。

「うちでもさ、耽美を履かせてもらったのはえびす講の日からで、それまでは裸足だったもんなあ」

「女工さんもこの日までは足袋をはかせてもらえなかった。えびす講になると機屋の旦那からお小遣いをもらい、この冬初の足袋をはいて嬉しそうにえびす講に出かけてもんさ」

温暖な地方にお住まいの方々には実感しにくいかも知れないが、桐生の冬は早く、厳しい。我が家では今年、えびす講を待つことなく、10日ほど前から朝晩はストーブを使い、朝夕の食事はスイッチを入れた電気カーペットの上でとっている。だから、そんな話を聞くたびに、

「こんなに寒くなっても足袋もはかせず、暖房も入れなかったの? 桐生の機屋ってずいぶん女工を虐めてたんだね」

という憎まれ口がふいと口から飛び出す。

ところが、だ。今日は暖かい。朝はかなり冷え込んだが、陽が上がるにつれて気温が上がり、午後4時過ぎの今、ストーブも入れていないのに室温は20.5℃。この季節にしてはポカポカ陽気と呼びたくなる。まあ、靴下ははいているが、炬燵はまだいいよ、というところだ。
明日も予報では最高気温19℃だから、温かい桐生えびす講になるだろう。20日の予報は最高気温11℃。本格的な桐生の冷え込みはえびす講2日目の20日かららしい。

といいうわけで、明日、明後日と私はえびす講にかかりっきりになる。別段役職に就いているわけではないが、あのO氏に

「いいじゃん、今年も」

といわれて、朝から社殿に詰める。時を見計らってカメラを肩から提げ、O氏によると、えびす講の

「芸術写真」

を撮るのが私の仕事らしい。そんなもん、狙ったって撮れる腕は持っていないことは私が一番よく分かっているのだが。

気楽な役割ではあるのだが、朝9時ごろから夜10時ごろまで拘束はされる。マイカーで行くから、酒は飲めない。手持ち無沙汰になるとたばこをくわえるのがせいぜいである。しかも、社殿には我々が使う椅子、テーブルの用意がなく、床に直に座る。これは腰に悪い。写真を撮るのをサボって座ってばかりいると腰がシクシク痛み始めるという仕掛けである。痛みから逃れたい私は仕事をするしかない。

しかしまあ、毎年のことだが、翌これだけの人が参拝に来るものだと感心する。社殿には61段の石段を上ってたどり着くのだが、この石段に参拝客が溢れ、下の道路にまで続く時間がかなりある。人口11万少々の桐生市でのえびす講なのに、参拝客の実数は20万人を超えているようだ。
神社の下を通る山手通りと神社から本町通りに真っ直ぐ抜ける参道は通行止めとなり、両側にギッシリと屋台が並ぶ。狭い通りがいっそう狭くなり、参拝客が肩をぶつけあうように行き交う。縁起物の熊手やお宝を売る屋台は、売れるたびに景気のいい手拍子と拍子木が繰り返されて祭気分を盛り上げる。

今年で119回目、来年は区切りのいい120回目。あなたもこの喧噪、賑わいを一度味わってみませんか? 今年は平日開催なので遠くからは難しいかも知れないが、来年は金、土曜日である(毎年、11月19、20日)。鬼に笑われても、来年の行動スケジュールに加えていただければ、ひょっとしたら現地でお目にかかれるかも知れない。

(写真は昨年のえびす講の賑わいです。芸術写真ではないことは一目瞭然であります)

2日間のえびす講を乗り切ると、21日は朝早くからつくば市へ行く。桐生のマフラー製造会社「松井ニット技研」の社長さんとの同行である。
22日は朝から黒保根。シクラメンとアジサイを育てている農園の取材である。

今週も、私の毎日は充実しているのかな?