2020
10.31

病院事務はもっと合理化できるはずだと思うのだが。

らかす日誌

昨日は定例の前橋日赤通いであった。妻女殿を車に乗せ、前橋まで移動する。前橋日赤で降ろした後、私はショッピングモールのけやきウォークで時間を潰す。それが定例の日の定例である。

この日の診療予約時間は11時20分であった。自宅を出たのは午前8時過ぎ。受信前に検査用の血液などを抜き取り、分析結果が出るのを待って医者の診察を受け、処方箋を作成してもらうのだから、その程度の時間のゆとりは必要なのである。

ために、私がけやきウォークに着いたのは9時半頃。車の中で読書しながら10地の開場を待ち、扉が開くのを待ってまず紀伊國屋で本を見る。中のスーパーマーケットで漬物を買う。妻女度に頼まれた食パンも購入し、あとは喫茶店で本を読みながら妻女殿からの電話を待つ。

受診の予約時間は11時20分。まあ、その日の事情によって多少の遅れがあるのが大病院の通弊ではあるが、最大見積もっても30分であろう。つまり、遅くとも11時50分には妻女殿は診察室に入り、12時過ぎには出てくる。そう読むのが常識である。

12時半頃妻女殿から電話が来た。あれまあ、こんなに遅れたか。まったく大病院っていうやつは、と思いながら電話を取った。

「終わったか?」

それが私の第一声であった。

「それがまだ呼ばれないのよ」

それが妻女殿の第一声であった。

まだ? おい、予約は11時201分だぞ。もうそれから1時間10分たっている。それでも、まだ?

が、ここは憤っても仕方がない。前橋までやって来たのは受診するためである。受診が終わらないのに怒りにまかせて桐生に戻るのは愚者の選択である。だが、喫茶店には長居をしてしまった。もう一杯コーヒーを飲む気もないので、居場所を車に移した。やることは、相変わらず読書である。前日読み始めた「火星の人・下」はもう半分以上読んでしまったが、その続きを読むしかない。事故で火星に取り残された植物学者が不毛の地火星で生命を繋ぎ、幾多の危機を乗り越えて地球への帰還を試みる。そのような筋立てなので、無事帰還することは予想できるのだが、いかにも火星らしい、こりゃ助からんわ、という危難が次々と襲いかかり、飽きさせない。読書に没頭する。

が、である。私は午前7時半ごろ、おにぎりを2個食べただけの健康な男子である。ということは、12時半が過ぎ、1時が過ぎると空腹に見舞われるということでもある。

「腹減ったな」

とは時折思うものの、受診している妻女殿がいる限り、一人で食事に向かうわけにも行かない。やむなく始線を本に戻す。
1時半。さすがに焦れた。

「まだか?」

と電話をする。いや、妻女殿が世間相場の人なら、向こうもiPhoneを持っているのだからショートメールを使うのが当たり前だが、世間相場から離れたところで生きる我が妻女殿はショートメール(iPhoneではメッセージ)がお使いになれない。いかなる場合でも妻女殿と連絡を取るには電話しかないのである。

「まだよ」

と短い答があった。

まだ? だってもう予約時間から2時間過ぎているぞ! それでもまだ? ムカッとするが、私にできることはない。再び読書に戻る。

「終わったわ」

と電話があったのは午後2時を回っていた。受診が終わったので、これから会計である。けやきウォークから前橋日赤までは約10分の道のり。車を走らせながら、

「もう2時を回った。昼飯はどうする? いつもならラーメンライスだが、遅くなったのでラーメンだけにしておかないと晩飯がうまくないかも知れないな」

という思いが頭をよぎる。

前橋日赤に着いた。玄関前の一時停車場所で妻女殿がお出ましになるのを待つ。エンジンはもちろん切り、再び目は本に落とす。
それから10分、お出ましにならない。受信が終わってた時間から計算すると、もう20分もたつ。いまの大病院はネットワークシステムが張り巡らされているはずである。診察を終えた医師が必要事項を目前のパソコンに打ち込めば、たちどころに診察料が表示され、会計端末で支払いができるはずである。それなのに20分?

が、待つしかない。しばらくすると、警備員が近寄ってきた。ああ、ここからどけというのだな。その程度の予想は立つ。思った通り

「ここに長時間駐車していただくと困るんですが」

いや、私だって長時間駐車するのは望んでいない。いまから30分ほど前に

「診察が終わった。迎えに来い」

という連絡を受けたから、もう出てくるはずだとここに車を着けたが、一行に待ち人が現れない。この病院の会計システムはいったいどうなっているんだ? 事務長に電話をかけて抗議したい気持ちだよ。

そんなことを話していたら、警備員はいなくなった。うん、ここで待つ。
だが、だ。先ほどから計算しても、さらに10分はたった。合計、診察終了から30分。まだ出てこない?

車を降りて玄関から中を覗く。妻女殿の姿は見えない。車に戻る。それでも姿を現さないから再び玄関へ。
やっと出てきたのは午後3時前である。

「則なっちゃったからお昼は抜いて、夕食を早くしましょう」

まあ、それはそれでよい。しかし、いまの空腹感をどうする? ふと食パンを買ったことを思い出し、1枚取り出してパクついた。
パクつきながら、腹がたってきた。おい、前橋日赤、お前のところの事務管理はどうなってる? 午前11時20分に受信するはずの患者・家族が、どうして昼飯に間に合う時間に病院を後にすることができない? どこかおかしいのじゃないか?

どこがおかしいのか。

妻女度によると、この日は新患が多かったのだそうだ。その事実から前橋日赤のオペレーションの欠陥を1つ想像できた。恐らく、予約システムが実態に合っていないのだ。
新患の診察に時間がかかることは容易に想像できる。初めての患者である。医師としては聞かねばならない基礎的な事項が沢山あるはずだ。検査だって、我が妻女殿のようなベテラン患者と違い、あれも調べる、これも調べる、ということがたくさん出てくる。だから、新患は旧患よりも診察に時間がかかる。それなのに、ああそれなのに、それなのに。ひょっとしたら予約は、患者1人の持ち時間を新患、旧患の別なく同一の時間がかかると前提してやっているのではないか? 例えば1人あたり30分。そして医師がデータをパソコンに打ち込んで少し休憩を取る時間を10分として予約表を作ってしまう。予約表の上では40分ごとに次の患者が診察室に入ることになっているが、新患は1時間20分かかってしまう。だから、新患の数が多ければ、どんどん後ろにずれ込んで、11時20分の患者が午後1時50分まで待たされる……。

私の想像は当たっているのかいないのか。もし当たっていたら、予約表の作り方を変えよ。旧患と新患で診療時間の平均が違うシステムにすればよい。それには数ヶ月間データを取り、それぞれの平均値を出すことだ。

いまのシステムの被害者は患者・家族だけではない。医師だって昼食を取る間もなく、次から次へと患者を診させられていて疲労しているはずである。空腹、疲労は思わぬ事故を招く原因になりかねない。その日の受け入れ可能な患者の数は、新患、旧患別の平均値を元に予約表を作ればいまよりずっと正確にはじき出せるはずである。そうすれば、医師の過労も、患者の待ちくたびれもずっと減る。

原因が違っていたら? それでも何らかの解決法は見いだせるはずである。いまの予約システムを運用しているのが事務方なのか看護師なのかは知らないが、彼らが

「現状を何とかしなければ」

という問題意識を持つことに始まるはずだ。

そして会計システム。診療が終わって、金を払うためだけに40分も50分も待たされるのは許容範囲を越えている。これは導入した会計システムがボロなのか、運用する連中が怠慢なのか、そのどちらかに原因があるはずである。まず原因を特定する。特定できたら解決策を探る。誰かそんな問題意識を持ってくれないか?

まあなあ。受診が終われば5分後に支払いができるようになれば患者の負担は大きく減るが、病院の事務員の負担は変わるまい。だから事務員に問題意識を持てといっても無理なのかも知れないが……。

今日も、考えても何ともならないことを考え、書いても何も変わらないことを書いてしまったかなあ、と一種の無力感を感じる私であった。