2021
08.19

ヒースキットIG-18を参考にしてオーディオジェネレータを考える 1

音らかす

ステレオ・アンプなど、オーディオ機器の性能を測定するための機器にはずい分いろいろなものがありますが、オーディオ・ジェネレータは、オシロスコープと共にもっとも利用度の高い測定器と言えます。

ジェネレータとは発電機という意味であることはもうすでにご承知のことと思います。発電機構にはいろいろありますが、そのもっとも代表的なものが発電所で、コイルの中で磁石を動かすことにより、交流電圧を取り出す仕組みで、これを超小形にしたものがMM形カートリッジで、逆にコイルの方をマグネットの中で動かすのがMC形です。ところが、オーデイオ・ジェネレータにこの原理を応用するとなると大変なことになり、仮に10Hz~100kHzまでの信号電圧を取り出すとなれば、非常に精巧なバイブレータを取り付け、それぞれの周波数でのサインウェーブで、ひずみをできるだけ少なく取り出さなければなりませんので、何百万円もかけなければできないことになりましょう。方形波に至っては不可能なわけです。

発振回路について

本項のテキストに使ったヒースキット、オーディオ・ジェネレータIG-18の回路について、その動作原理を調べて見ることにします。(第1図

第1図

正弦波発振

Q1~Q5により構成されています。Q1とQ2はもうすでにお馴みの差動アンプで、2N3416に似た石です。Q3は電圧増幅を受け持っているX29A829という石で、類似品に2N3906があります。Q4(2N3416)とQ5(X29A829)が電力増幅の石で、両方の石のエミッタホロワ出力から、ポジティブ・フィードバッグがもどされ、L1(ランプ)のフィラメントとフィードバック量の調節する半固定抵抗R7とR6の抵抗を通ってQ2のベースにフィードバックされます。一方、ネガテイブ・フィードバックは回路図の左下にあるノッチフイルタを通ってQ1のベースに入って行きます。

アンプを自作された方はご存じのように、NFBをかける時に位相のずれが起って、不本意にポジティブ・フィードバックになって発振することがあります。アンプの場合、発振が起るといけないのですが、本機は発振器ですので、このPFBを逆に利用しているわけです。といって、PFBだけだと発振しっぱなしで、希望周波数だけを取り出すことができませんので、ノッチ・フィルタが希望する周波数つまり、ダイアルで合わせた周波数以外の全部の周波数を通してしまい、それらの周波数ではNFBでかかるようになり、その特定周波数だけが正弦波に発振されてサイン・ウェープのオシレータ作用が起ります。

L1のフィランメトはそこに流れる電流が増えると、フィラメントが温まり余分に流れ過ぎると赤熱して、抵抗値が増えますので、自然に制御するしかけになっています.このノッチ・フイルタの切り換えスイツチとボリューム・コントロールは、一寸複雑になっていますので、第2図にその部分を示して置きます。このようにPFBとNFBを適当に組み合わせ、フィルタを使って特定周波数だけを取り出す仕組みは

の公式に当てはめるようになっています。この場合、RとCをそれぞれ1コづつ行うとすれば、RとCの数が無数に要りますので、それぞれを組み合わせた合成抵抗および合成容量を利用しますから、次の公式になります.

そして、このノッチ・フィルタでは、R1とR2は常に同じですので、上の式を簡単にすると

となり、さらに、Rはノッチ・フィルタの10の位の周波数抵抗、つまりRxと1の位用のRyおよび0.1の位のためのRzとの合成ですので

と考えればよく、C1CxおよびC2=Cyと見ると、このノッチ・フィルタの仕組みがのみ込めます。

第2図

例えば20Hzでは5,000Ω、60Hzでは5,000Ωと2,500Ωの合成抵抗で1,670Ωと言う具合です。同じように2 Hz、6 Hzもそれぞれ50kΩ、16.7kΩと、上の10倍の抵抗値になり、最小単位はボリューム・コントロールで0.2Hzが500kΩ、0.6Hzが167kΩになり、それぞれの周波数をチューニングできます。

一方、10倍、100倍および1,000倍の周波数を求めるためにはCが1/10、1/100および1/1000にスイッチングして求められます。誠に巧妙な仕組みです。

第5図

このようにノッチ・フィルタを使う方法は、パリコンを使ったらウィーン・プリッジ形のジェネレータに比べて、コスト高にはなりますがいろいろな利点が考えられ、ひずみ率もはるかに少ないジェネレータを作ることができます。

ひずみ率について考えて見ても、カタログなどで調べましたが、ウィーン・プリッジ形では、そのひずみ率が一番小さいところつまり20Hz、100kHzでの数値が0.7%、本機のひずみ率曲線(第3図)の0.055%と比べれば10倍以上ひずみ率が大きいものが多いことがわかります。このことは、ジェネレータを利用して、アンプなどのひずみ率を調べる時に非常に大切なことなのです。

第3図

このようにして、特定の周波数のシグナルがジェネレートされた電圧がQ3のベースに入ってそこで増幅され、Q4、Q5のコンプルメンタリ・ペアのエミッタ・ホロワから出て来てPFBおよびNFBされた残りがアテネータ・スイッチでアテネートされ、ジェネレー夕出力として取り出されます。本機についている出力監視用メータは、アンプヘの入力電圧をいつでも見ることができますので、非常に便利です。このメータがなければ入力監視用ミリバルがもう1台余分に必要になることになります。

方形波出力

Q1、Q2の差動アンプ部からの出力電圧がQ6、Q7のシュミット・トリガ回路に導かれ、これで方形波に変えられます。Q6とQ7がシーソー式に働いて、スイッチングするわけです。この波形も同じようにQ8のエミッタ・ホロワ出力となって、サインウェープとは別のアテネータを通って、方形波出力ターミナルから取り出されます。このスイッチングが早い程、方形波の立上がり、立下がりがシャープになり、本機では50ns(ナノセコンド10~9)以下で、アマチュア用には申し分ありません。