02.28
私と朝日新聞 3度目の東京経済部の41 帰国の2
〈ポーランド = あれこれ〉
ワルシャワの町を見る暇がない。取材で人に会いに行く車の窓からながめる程度。だからワルシャワという町については何もわからない。分かったのは車の多さだけ。歩道に乗り上げて駐車し、その車道側にまた車が止まり、あちこちに渋滞の列が出来ている。究極の混乱状態だ。
Annaさんは
「これ以上車が増えては、どうにもなりません」
ポーランドの自動車販売台数は、いま年間37万台程度。毎年20%、30%増えている。
(解説)
日本の自動車販売台数は、年間650万台程度。ポーランドの国土面積は32万3000平方キロメートルで日本の約5分の4。
つまり、25%しか広くない日本で、毎年ポーランドの18年分の自動車が売れている。その数少ないはずの車が首都ワルシャワに集中しているのだろう。
中欧の旅も今日で終わり。あと11時間ほどすれば、やっと気が抜ける。気を抜くと、疲れが一度に来るかな?
(解説)
ふむ、お主も外地では緊張するか…… 。
外に出る。本日は霧。道理で、36階の部屋の窓から外を覗いても何にも見えなかったはずだ。窓一面ミルク色で、景色も何もない。どうしてこんな不思議な窓を作ったのかといぶかっていたが、霧だったのか。
(解説)
あんなに密度の濃い霧は、東京ではまずお目にかかれません。
寒い。肌着代わりにTシャツを着ても、まだ寒いほどだ。それなのに部屋の中の暖房温度が高いから、中にはいると汗をかく。外に出ると冷える。しかも空気は乾燥している。風邪をひく条件が整っている。ポーランド人は風邪に強いのかな。
(解説)
と書きながら、風邪もひかずに帰国した。してみると、私はポーランド国民か?
こちらの人はおしなべて犬が好きである。ホテルやレストラン、デパートなどに、平気で犬を連れてくる。それを回りが気にする風もない。
昨日朝一番で訪ねた投資会社の事務所には、4、50㎏もあるシェパードがいた。もちろん部屋の中での放し飼いである。大きな体でほえられると、さすがに気持ちが悪い。しかし、襲いかかる様子はなく、主人にしかられるとひっこんで黙っている。通訳嬢は、そのシェパードとはもちろん初対面なのだが、頭をなでていた。
そういえば、ハンガリーでは、犬を散歩に連れてゆき、糞は処理しない国だった。気候が乾いているから、1日もすると乾燥してしまうのだそうだ。マジャールスズキの人は、
「こちらにはいい犬がいる。安い。もう少し簡単に日本に輸出できるようになればいいのだが」
と話していた。やはり、規制は価格の高騰を招く。
(解説)
犬の本を2冊買った。
「デキのいい犬、わるい犬」
「相性のいい犬、わるい犬」
どちらも文春文庫で、著者はカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学心理学教授のスタンレー・コレン氏。
まだ読んでないが、「相性のいい犬、わるい犬」は犬を7つのグループに分けている。我が愛犬シェットランド・シープドッグは、グループ7「頭のいい犬」に分類されておる。やはり、飼い主と飼い犬は似るか……。
ちなみに同書は、シェットランド・シープドッグを飼っていた有名人として、アメリカの第27代大統領ウイリアム・ハワード・タフト、第30代大統領カルヴィン・クーリッジ、男優ジーン・ケリーの3人を挙げている。
また、「頭のいい犬」以外のグループは「友好的な犬」「防衛心の強い犬」「独立心旺盛な犬」「自信のある犬」「安定した犬」「穏やかな犬」。
あなたの愛犬はどのグループ?
これから犬を飼うならどの犬がいいか?
ご関心がある向きは、是非この本をお買い上げいただくようお願いいたします。
で、娘との会話。
「お父さん。とはいっても、すべてのシェットランド・シープドッグが頭がいいというわけではないんだからね」
「そうだなあ、お父さんの子供だからといって、みんな頭がいいわけでもないからなあ」
「……」
この勝負、私の勝ち。
今日も、何となく食欲がなく、朝食は抜く。西洋風の朝飯には飽きたのかもしれない。
こちらのキャッシュディスペンサーは、一回に500ズロチしかでない。1万7000円ほどか。必要な金額を引き出すのに、3回も4回も操作しなければならない。地元の人の平均月収が1000ズロチ程度だから仕方がないのかもしれないが、こんな高級ホテルに泊まるのは海外からの客か、地元でも飛び抜けた金持ちだけだろう。そうした事情は全く考慮されていない。
目抜き通りを横断する地下道で、衣服を山積みにして売っていた。商店主の顔を見ると、どうみてもアジア系である。ベトナム人が多いとのことだ。ベトナムからここまで来て金儲けか。カネを機軸に動く社会は、こうした底知れぬエネルギーを生み出す。
ここでは、日本の給料で生活すれば王侯貴族だ。家族連れでくる日本企業の社員は、メイドを雇う。唯一の労働である家事からも解放された奥様たちは、日毎テニスにうつつを抜かす。日本人会の会合も、おおむねテニス大会だそうだ。こんな日本人の姿が、ワルシャワの人たちにどう映っているのか? この生活が忘れられず、日本の帰るのをいやがる奥様も多いとのことだ。
(解説)
王侯貴族の生活。私も一度ぐらい体験してみたい…… 。
8時20分、ホテルのロビー。10分もすれば通訳がやってくるはずだ。
仕事が終わり、ゆるんだ気分でワルシャワからウイーンに移動中に名刺入れを落としてしまった。ワルシャワの車の中、飛行機の中、ウイーンの空港からホテルまでの車の中、の3カ所しかないと思い捜索中だが、まだ出てこない。
会った人たちの名詞もたくさんはいっていて真っ青。事務所のカードキー、KDDのハローカード、バスのカード、テレフォンカードも入れていたが、これは何とかなるのでいいが。
今回の旅でなくした物の2番目。ちなみに、1番目は、ブダペストのホテルに置き忘れたシャンプーだった。
<追加>
「あとは、そのうち」
と書きながら、実はメールはこれで終わっている。そこで、5年ぶりに「あとは」を少しばかり。
ワルシャワでどうしても買わなければいけないと思っていた防寒帽を、出発日に、バザールでやっと買った。
バザールが開かれているのは、旧サッカー場。周囲やスタンドの一番上に、それこそ星の数ほど店が出ている。衣服、食料、絨毯、家電品、家具……、ないものはないというくらい、ありとあらゆるものが揃っている。何に使うのかわからないが、水道の蛇口の取っ手だけ、なんていうのもあった。
ここで店を開いているのは、ほとんどロシア系の人たちだという。どこで仕入れるのか判然としないが、とにかく、ワルシャワに商品を持ち込んで一儲けしようという人たちの集まりだ。中には盗品も混じっているのかもしれない。
このバザールを紹介してくれた日本人の駐在員は、
「日本人1人だけで行くのは危険きわまりない」
と、現地社員を同行させてくれた。
で、防寒帽である。あった、ありました。記憶はかなり薄らいでいるが、確か1つ1200円程度だった。
ここで再び、例の貧乏性が顔を出す。
私が買ったのは1つだけ。帰国後、
「帽子は汚れる。汚れたら交換しなければならない。どうして5つか6つ買ってこなかったのか……」
と反省したのである、
ワルシャワから日本への直行便がないため、帰りはウイーン―フランクフルト経由だった。便待ちのためウイーンで一泊。空港からホテルは、ベンツのタクシーである。
実は、この旅行に出る際、次女に厳しく命じられたことがあった。
「バーバリーのダッフルコート。色は赤」
つまり、その品を土産に持って来いというのである。
回ったすべての国で探した。が、バーバリーのコートは発見出来なかったため。最後の立ち寄り先であるウイーンでも探しに出た。
市内最大の商店街(街の名は知らない)を歩きまわって、やっと見つけた。バーバリー、赤、ダッフル。価格を見る。約7万円。
「なんだ、これなら、日本で買ってもあまり違わないじゃないか」
一度は通り過ぎた。
さて、ホテルに帰ろうかと歩きかけたとき、次女の顔が浮かんだ。顔が失望と怒りで歪んでいる。
「いかん、買わずに帰ったら殺される。そこまではいかなくとも、いじめられる」
その瞬間、体は自動的にUターンし、我が両足は小走り状態となった。目指すはバーバリーのお店である。
可愛い女店員が迎えてくれた。見るところ、背格好が娘と同じぐらいである。
「我が娘は、身長約160cmで、体重はあなたより少しスリムである。その娘への土産にこのダッフルを考えておるのだが、サイズを見たい。よろしければ、ちょっと着ていただけないだろうか」
と頼み込む。もちろん英語である。
”My daughter is about one hundred and sixty centimeter. And she is just a little bit slimmer than you ……”
ま、こんなところよ。でも、通じるまで数分。
買ったのはいいが、重い。かさばる。これを日本まで運ぶのかと思うとうんざりだが、買ったものは仕方がない。
翌朝。音楽の都ウイーンに来て音楽を聴かずに帰国するのももったいない話だと思い、日曜日のミサをやっている近くの教会へ行ってみた。30分ほどパイプオルガンと聖歌団の歌声に浸る。宗教心は持ち合わせていない私だが、何となく荘厳な気分になる。
この荘厳な気分に浸り続けると、キリストの奇跡も信じられるような気がしてくる。そうか、教会音楽というのは、民衆を教化する、あるいはたぶらかすために教会が編み出した仕掛けの1つなのか。うまいなあ。
そういえば、仏教のお経にしても、聞きようによっては音楽だ。数十人のお坊さんが一斉にお経を唱えているのを聞くと、節回し、部分的なハーモニーなど、ある種の音楽であることが分かる。お経の中身はまったく理解できないが、宗教的な気分になることは確かだ。
宗教というのは、洋の東西を問わず、同じような仕掛けをもって布教を図るものらしい。1つ賢くなった気がする。
フランクフルト空港。手押し車にも乗せきれないほどお土産の袋を持って移動中、重大な事実に気が付く。
「自分のために買ったものが何もない!」
免税店でウイスキー3本。日本でも最近は安くなったが、海外に出て最後に免税店でウイスキーを買わないと、クリープを入れないコーヒーのような気がするから不思議だ。