12.15
2008年12月15日 私と暮らした車たち・その19 中休み
「私と暮らした車たち・その17 ゴルフワゴンの2」で、かつて漫画アクションで読んだコラムを紹介した。
車の塗料で一番安いのは白。一番高いのは黄色で、コストは4倍違う、というヤツである。
この一節に、浜松市の柴田博之さんから、
「それは違う」
というご丁寧な指摘をいただいた。柴田さんはしばた新聞のライターである。
柴田さんのお許しをいただいたので、原文を掲載する。
塗料の金額というのは、実は「白」という大雑把な範疇では括れません。
例えば、一口に白といわれても色目、というか、元の顔料によって「緑系の白」とか「青系の白」「赤系の白」など様々な「白」が存在します。もちろんこのことは「白」に限った話ではありません。青にもありますし、黄色、緑、赤などにも「~系統の○○色」というものがあります。また、その顔料の由来によって鉱物系と化学合成顔料とあります。その顔料の由来によって、値段は様々です。同じ「白」だからといって緑系の白と青系の白とでは値段はかなりの差が出ま す。一概に白だからといって安いというものではありません。
「白」という色は色そのものの性質として「隠塀力」が強い為、塗りやすいという性質はありますが、逆に不純物の色が目立ちやすいという特徴もあります。自動車の生産ラインでは見学もされたようですのでご存知でしょうが、1台1台スプレーガンの塗料を入れ替えて塗る為に、温風乾燥の際に他の色の塗料のミストが混じりやすく、このためどうしてもスカッと抜けた「白色」にならないのです。トヨタではこの「抜けた白」にする為に空気循環式の温風乾燥機に大掛かりな 濾過器を塗装ラインに導入して「抜けた白」を実現したと聞きます。このように塗色だけで「高い安い」を語るのは、どうも見識が低い といわざるを得ません。別に安堂さんを責めるわけではありませんが。
先ほどの隠塀力ということでいうと難しいのが「赤」です。
赤には一般的に「酸化鉄」を顔料として使います。「赤錆」ですね。ところが、赤といういう色は「透過色」でもあるため下地の色が透けて見えてしまうのです。これを避けるため重ね塗りをすると赤錆の色が強く出てしまい「血」の色になってしまう結果になります。日本車に限った話ではないのですが、赤い色に ちょっと「どす黒い赤」色をたまに見かけるのはこのためです。
フェラーリに代表される「鮮やかな赤」はどのように出すのか。
あの赤は顔料の粒子が細かいのもあるらしいのですが、それ以上に下地処理に手間をかけているのが効いているのだそうです。つまりは一般的な灰色の下地色の うえにそのまま重ねるのではなく、「一度ピンク色の塗装を施してから」その上に赤を塗り重ねる。こうすることによって鮮やかな赤を作っているのです。
こんな感じです。一概に顔料の金額の差だけで塗装の金額を云々するのはちょっと……、と思ったので少々書かせていただきました。確かに黄色は顔料が高 いということがあるのかもしれませんが、それ以前に「ぜんぜん染まらない」色(つまり下地色が透けてしまう色)なので、丁寧に根気よく塗り重ねてあげない と鮮やかな黄色になってくれないのです。塗料だけでは車の塗装というものは語れません。下地の仕上げや工程の手間のかけ方によって随分仕上げの異なったものになってしまうのです。
たとえば、ヴィッツの黒とセンチェリーの黒は、塗料としては同じものを使っていたはず(色番号が同じなら)です。でも両者は工程がぜんぜん違います。ヴィッツならば下塗り防錆の上に中塗り・仕上げ塗りの3コート塗装でお終いでしょうけど、センチェリーならば中塗り工程以降、仕上げ塗装を3回行う事に加え、その工程の間に手研きによる塗面の仕上げ工程をはさみます。
以上である。
いつもながらの専門知識に敬服した。
でもねえ、頭の片隅に残っている漫画アクションのコラムを金科玉条としていた私の立場はどうなる?
とも思ったが、ここは正確な情報を読者にお届けするのが筆者の責任と考え、柴田さんからのメールをそのまま掲載した。
とはいえ、転んでもただでは起きないのも、私の特質である。柴田さんに、メール転載のお許しを願うメールで、こんなことを書いた。
なるほどな、と納得しました。ただ、私が漫画アクションを読んだのはアラセブン、つまり1970年前後なのです。当時の白は抜けが悪いというか、そんな色だった記憶があります。綺麗な白だな、と思ったのは、個人的にはトヨタのソアラから。というわけで、70年前後の白は、たいして技術的にも煮詰められていなかったため、コストが安かった、という可能性はないでしょうか?
これに対して、メール転載をお許しいただく文面とともに、次のようなコメントが寄せられた。
さて、仰るとおり、確か初代ソアラの時分に、「大規模な空気濾過装置」を設置したというように聞きました。ですので、その頃から「真っ白」な白い塗装がで きたと聞き及んでいます。その前となるとよく知りません。技術史的にも、まだまだ黎明期にあったということはあるでしょう。それ以上の事に関してはごめん なさい。知りません。
ふむ、ということは、あの漫画アクションのコラムもまんざら嘘ではなかったのかな?
ということで、今回は連載の中休みとして、訂正なのかどうかよく分からない文章をアップすることにした。できるだけ正しい情報をお届けしたいという筆者の思いをくみ取っていただければ幸いである。