2018
11.25

2018年11月25日 戦争の犬たち

らかす日誌

固い本から少し脇道にそれて、「戦争の犬たち」(フレデリック・フォーサイス著、角川文庫)を読んだ。

これ、確か20年以上前に一度読んだ本である。当時、私の周りはフォーサイスブームで、知り合いの多くが彼の本を手にしていた。私も負けてはなるものかと、書店に並ぶのとほぼ同時にハードカバーで入手し、むさぼり読んだ記憶がある。
それだけにとどまらず、貸しビデオ屋からビデオテープを借りだし、映画も見た。昔懐かしい作品である。

それを再び、しかも文庫本で読んだのには訳がある。
現在、8000本を越えるに至った我が映画コレクションを整理すべく、毎日夕食後、秩序立てて鑑賞に励んでいることは、「らかす」を読み継いでいただいている皆様のご記憶のどこかに引っかかっていると思う。たまたま「せ」から始まる映画を見ていて、「戦争の犬たち」の順になったのは、確か2,3ヶ月前のことだ。

ジョン・アーヴィン監督、クリストファー・ウォーケン主役の、実に面白い映画である。「処分」の項ではなく、「保存」の項に入ったのはいうまでもない。
アフリカ西海岸の独裁国の大統領を亡き者にする傭兵の活躍を描いた映画は、かつて一度見たにもかかわらず、全く新鮮に楽しむことが出来た。
この独裁国に眠る地下資源を狙い、クーデターを起こして現職大統領を殺し、傀儡政権を作って巨万の富を得ようという企業に雇われた5人(6人だったか?)の傭兵。仕事を請け負ったシャノンはかつての傭兵仲間を招き、表だっては動けない中で武器弾薬を手に入れ、船積みして独裁国に向かう。計画通り独裁者を殺し、この企業が用意した後継者に政権を引き渡す寸前まで行く。やはり今の社会は、薄汚い手を使っても利益を上げる企業が利益の上に利益を積み重ねるのだろうか?

余りの面白さに、もう一度本を読みたくなった。横浜に戻ったついでに本棚を隅から隅まで探したが、あるはずの本がない。どこに行ったか? 誰かに貸したか? ひょっとしたら息子が持っていったまま返さないでいるのか? 大量の漫画本は横浜の家に置きっぱなしにしているくせに、私の本を仁の書棚に入れている?

ま、仕方がない。見つからないものはないと諦めて、いつものようにAmazonで古本を入手した。

「文庫本なら、どうせ1円さ」

と思っていたら、とんでもない。上下巻に分かれた文庫本は、いまでも上巻は418円。根強い人気があるらしい。しかも絶版になっているらしく、上下巻セットだと1963円などというとんでもない価格がついている。角川さん、つまらぬ本を大量に出すより、こんな根強い人気がある本を新版で出し続ける方がよろしいのではないでしょうか?

ま、それはこの際どうでもよろしい。
かくして我が家に届いた「戦争の犬たち」を先週から読み、今日下巻を読み終えた。いやあ、これも面白い!

「へー、そうだったか」

と意外な感じがしたのは、上下巻で600ページほどの中で、独裁国の首相官邸に攻め込む場面は、わずか50ページほどしかないことだ。つまり、この本の6分の5には戦闘場面や乱闘場面は登場せず、もっぱらクーデターを仕組んだ企業の行動、傭兵として雇い入れられたシャノンたちの準備振りを描くのに費やされている。

傭兵の立場で、正規ルートで武器や弾薬が手に入るはずがない。ではどうすれば入手出来るのか。武器弾薬の流通は国が監視する。国が正式に輸出を認め、輸入を認めなければ動かすことは出来ないのである。普通に考えれば、戦争を生業としているとはいえ、一般人でしかないシャノンの手に入るはずがないものを手に入れねばならない。それも大量に。

そのノウハウが次々と繰り出される。スペインの官憲をだまし、ユーゴスラビア(そんな国が、かつてありましたなあ)政府から、正規ルートでバズーカ砲を船積みする。兵器売買の裏社会を描いて興味が尽きない。

フォーサイスは、その前に書いた「ジャッカルの日」(この映画は、「シネマらかす」で書いております。まだお読みでない方はこちらをどうぞ!)で得た金をつぎ込んで,独裁政治で悪名を売っていたギニア共和国でクーデターを起こす計画を進めていたといわれるから、このような裏社会には詳しいのだろう。イギリスの新聞がすっぱ抜き、フォーサイスが立てたといわれる計画が「戦争の犬たち」の筋書きに酷似していると指摘したが、フォーサイスはノーコメントを貫いているそうだ。また、フォーサイスのクーデター計画は、スペインで武器弾薬を船に積み込もうというところで発覚し、実現しなかったそうである。

それはそれとして、このクーデター準備段階を映画が大幅にカットしたのは、おそらく映像化しても盛り上がりに欠けるからだろう。活字では読者をぐいぐいと引っ張っていけるのだが、映画だとそうもいかない。映画というメディアが持つ限界だともいえる。
ま、本を読まない限り、映画でも充分に楽しめる。まだご覧になっていない方は、是非レンタルビデオ店に足をお運びいただきたい。
また、本の方を未読という方は、Amazonで古本をお買い求めいただきたい。絶対の推薦本である。

2020年の東京五輪に続いて、2025年には大阪万博が開かれるのだそうだ。こんなに何でもかんでも日本に来るということは、オリンピックも万博も

「是非我が国で」

と考える国が減っているのだろう。ブームは去りつつあるのに、その空気が読めないとんまが

「これで金儲けしてやるぜ!」

と一人はしゃいでいる図を思い出した。

ひょっとして、このあたりが日本繁栄のピークか? 次々と出てくる日本企業のスキャンダル、それも、日本製品の信頼を支えていた技術部門でのスキャンダルが相次ぎ、縁の下で日本経済を支える地道な仕事を受け継ごうという若者が激減して

「であれば、労働力を輸入しよう」

という法案が国会で審議されている現状を考えると、そんな気がしてくる。

ま、東京五輪にも大阪万博にも、私は足を運ばないことだけは確かである。

あ、そうそう、私の読書は再び「固い本」に戻る。今机上にあるのは「新世紀デジタル講義」(立花隆など著,新潮社)である。これから入浴して、まず浴槽で読み始める計画である。