2022
10.14

イーストウッド、いい爺さんになったな。

らかす日誌

クライ・マッチョ」を見た。クリント・イーストウッドがメガホンを持ち、主役も務めた2021年公開の映画である。私が知る限り、クリント・イーストウッドの最新作だ。

クリント・イーストウッド、すでに92歳。この映画を撮ったのは90歳のころだろう。第一線で仕事を続ける90歳。素晴らしい!

だが、残念なことに、この映画は平凡である。演出の冴えがあるとも見えないし、主役としても身体の動きを含めてキレがない。イーストウッドの映画にほとんど付き物だったアクションシーンはないし、アクションシーンを入れようにも、主役の足元がおぼつかないから無理である。下手のアクションをさせると

「おい、骨折でもしちゃうんじゃない」

と、イーストウッド本人が避けたのかも知れない。加えて、腰もやや曲がり気味である。

私も73歳になったからわかる。歳を取るとは、身体から動きの自由が溶け出してしまうことである。先日までできたことが今日はできない。真っ直ぐ歩いているつもりなのに、何故かジグザグデモ、いや、ジグザグ行進をしている。トップ・スターとして、アクション俳優として身体の鍛練を怠らなかったはずのクリント・イーストウッドにしても、やはり90歳という年齢は重荷なのだろうと思ってしまう。

晩年になり、メガホンを握り始めたクリント・イーストウッドには驚かされるばかりだった。マカロニ・ウエスタンでデビューし、悪人を遠慮会釈なく殺しまくるダーティ・ハリーで頂点に上り詰めた兄ちゃんがこれほどの才能を秘めていたのか。アカデミー賞作品賞に輝いた「許されざる者」「ミリオンダラー・ベイビー」だけではない。「トゥルー・クライム」「ミスティック・リバー」「グラン・トリノ」「チェンジリング」……。興奮させられ、涙を誘われた名作の数々。名俳優、名監督の名をほしいままにしたのがクリント・イーストウッドである。

そのイーストウッドにして、90歳の映画がこれ。やや寂しくなったとしても仕方がない。

だが、である。それでも私は、クリント・イーストウッドに応援旗を振り続けたい。
だって、90歳の、自由があまり利かなくなった身体を、動きを、全世界の人の前にさらす。老いを隠さず、老いを見せつける。これ、なかなかできることではない。

「そうなのか。90歳になっても、決行できるとってあるじゃん! まだまだ死ねないぜ!!」

私はこの映画から、そんなメッセージを受け取った。

年寄りの理想の姿を描き、私の周りで高く評価する人が増え続けているのは「ウォルター少年と、夏の休日」である。だが、あれはフィクションの世界。クリント・イーストウッドは自らの肉体を使い、老いの楽しさをスクリーンに焼き付けたのではなかろうか。

映画自体は凡作と決めつけながら、でも、

「凡作でも、これは名画だよ」

と、矛盾したことを考える私であった。