2021
03.22

6CA7PPパワーアンプの製作 1

音らかす

3回にわたって。“プリアンプの製作”記事を編集室にお渡ししたとき、“メインアンプはどうされるのか”というご質問があったのは、むしろ当然のことだと思います。しかし、その頃私の装置はダイナキットのマークTV(Ⅳの間違いだと思われる)がかなり優秀な音を出してくれていましたし、ラックスのMQ-60などを持ち込んで、比べてみたのですが、やはりマークⅣのほうが、良い音だってことを、一緒に立ち合った方々も確認された事実からみて、ダイナコのA-470の出力トランスの良さに、たよっていたのかもしれません。

その上、内心、私ごとき駆け出しがあれこれ回路をひねくってみても、そんなに立派なパワーアンプが出来るかどうかという、いささかの不安もあったからです。

従って、貿易屋のくせに舶来嫌いの私が、商用で渡米したおりに、キット2台分、4万数千円で入手し組立てて以来6年間、飽きもせず、ダイナミット(キット?)・マークⅣの音を聴いていたわけです。

その間に、マッキントッシュMC-240、MC-275やマランツ#8Bの音に接するたびに、明らかに音が違うことはわかっていながら、何10万円もつぎ込む気になれず、そのアンプを愛用していたわけです。

もちろん、自動車を1台買っても、60万円あまり要るわけですが、上記3台のどれをみても、“材料費がせいぜい5〜6万円から7〜8万円ぐらいなものに、何10万円も投資する阿呆にはなりきれなかった”というのが、本当の理由で、機種の良い事はわかっていても、買う気になれなかったわけです。

といって、自作してみて、少なくとも、ダイナキットとマランツ#8Bの中間ぐらいの音が出せるかどうかの、自信があったわけでもなかったので、つい、そのままにしていたのかも知れません。

プリアンプと違って、パワーアンプとなると、その音の善し悪しは(もちろん、回路設計も非常に大切ですが)出力トランスのクォリティーと出力管の性能で決まることは、本誌の読者はすでに、十分ご承知のことと思います。はたしてダイナコのA-470くらい、あるいは、それ以上の出力トランスが市販品で入手出来るかどうか、ということになりますが、この点では、音楽雑誌などに、あれこれ書いておられるオーディオ評論家先生に、だまされたような気がします。

これら、世界的に有名なパワーアンプにしても、“魔法”を封じ込んでいないかぎり、現在の日本の電子工業の水準からみて、国産品が劣るはずはない、と思いながらも、トランスそのものについて測定したことも、カバーをはずしてなかをのぞいたこともない私には、やはり銅の少ないわが国では、トランスだけは、まだ問題があるかも知れないと、内心感じていたくらいです。

友人と雑談しているうちに、ふとこんなことをもらしたわけです。

『プリアンプの最高級品は、作りあげたのに、パワーアンプを手がけないのは片手落ちですが、うちにダイナキットがあるので、何も無理して作ることもないような気がするので……』

そのとき、跳ね返るように声がかかりました。

『貴方が作ったアンプなら、私がわけて戴きますよ』

前にも書きました、ラックスMQ-60を、重いのに、私の家まで比較のために、持ってきてくれた人です。そのときのダイナキットとの比較テストで、少々ガッカリしたその人は、毎日レコードを聴くたびに、頭の中がスッキリしなかったそうです。この方は、ある紡績会社の社長さんで、10数万円ぐらいわけなく出せる人ですが、私の考えと同じで、常識はずれの値段に金を出す気になれなかったそうです。

そのときは“一応、出来上がったら相談します”ということで別れました。私は“6万円ぐらい材料費がかかるでしょうね(実際には4万5000円ぐらいでできました)”と申し上げたことを記憶しておられたらしく、翌日、私の会社におこしになって、“材料費の半分を先に渡しておきます”ということになって、ますます、ひっこみがつかなくなりましたが、

『まだ設計も出来上がっていないのですから、出来上がってから……』

『例の、貴方の設計のプリアンプのお蔭で、前のアメリカ製プリアンプを売りましたので』

ということで、とりあえず材料費の半分を、あずかってしまうことになりました。内心、えらいことになったとは思いましたが、いまさら、引っ込みもつかず、結局、作る事になったわけです。途中、あれこれトラブルが出てきて、本誌でおなじみの井草篤正氏にアドバイスを受けましたので、紙面をかりて、お礼を申し上げたいと思います。

やっと出来上がって、電気特性もなかなか上等で、友人に渡す前にいちどヒアリングテストのために、ダイナキットと比べてみたら、“アット驚くため五郎!” びっくりするほど、良い音になりました。こんな良い音が、自分で作れたとなると、“何もダイナキットで我慢していることはあるまい” ということで、自家用にもう2台、ワンセット作りましたので、電技編集室からの記事の依頼が、お引き受けできたわけです。

パワーアンプについて

パワーアンプに必要な条件は、プリアンプとかなり違うところがあります。プリアンプについては、私のアンプ論として、詳しく述べましたので(電波技術70年12月号)、ここではパワーアンプについて、一応まとめてみたいと思います。

【最高パワーとは】
パワーについては、RCAのオルソン氏の説がたびたび引き合いに出される通り、家庭用には1〜5W位で十分大きな音が出ると、述べられております。最近のようにスピーカの能率が良くなって参りますと、なおさら、そういう事になります。私の経験から、1〜5Wで良いとすれば、その3倍位の余裕のあるものでなければ、パワーぎりぎりのところでひずみ率も上がってくるし、のびのびとした音は期待出来ないと考えております。これは、いろいろ実験してみた上でも言える事です。そこで目標を15Wに決めました。

【出力トランスの決定】
15W出力に、15W級のパワートランスを使ったのでは、これもまた、のびのびとした音は期待出来ません。電気特性ではかなり良い数値が出ても、やっぱり、何となく音がつまった感じで、音のにごりも大きくなるようです。折角、名3極管を使いながら、音のつまった感じのするMQ-60も、恐らく、このパワートランスの所為だと思います。60にしろ、38Fにしろ、商品となると、いろいろ制約があっての事だと思いますが、自作するとなると、そんな制約は無いわけでありますから、思い切って最高級を使いたいものです。そこで私は、LuxのOY36-5を選びました。50Wクラスのアンプ用ですので、十分余裕はあります。

ところが、一つの問題があります。このトランスの一次側インダクタンス大きく変化する上に、直流アンバランス許容値が、1.9mAと、非常に少ない事です。測定器が完備している方々には、問題はないかも知れませんが、そのためにオシロを買い込むとなると、これまた数10万円。それなら、最高級のアンプを買った方が、合理的。そんな場合のため、残念ながら、比較テストをやったわけではありませんので、音質的にはどうなるかについて、述べるわけには参りませんが、一応、同等品と思われるものを第1表にのせておきます。ご覧のようにスタガー比もとり易いし、位相補正にもあま苦労しなくて済む上に、値段も半値ぐらいです。

第1表

【S/Nについて】
今までの記事に、あれこれ述べてありますが、プリアンプに繋いで、パワーアンプだけの電源を入れてのテストでは、ハムも、抵抗ノイズも、ショットノイズも、完全にゼロになりました。ミリバル(トリオ106F)での測定値は、残留雑音0.35mVでした。プリアンプの電源を入れて、ファンクション・スイッチをPhonoにしますと、わずかですが、抵抗ノイズが聴きとれます。オープンサーキットでは、パワーアンプだけでも、サーッという音は出て来ますが、オープンサーキットでパワーアンプを使用する事は全然ありませんので、問題なし。

ともかく、余程の事が無い限り、メインアンプから雑音は出て来ないものです。その変(代)わり、後で述べますようにソリッド抵抗みたいに安物のパーツでは、ノイズはやはり免れません。

【感度について】
感度についてですが、メーカー製を見ても、いろいろな記事を見てもまちまちですが、私の意見では、フルパワーで0.5Vと言っても15〜20W位での話ですが、以上の感度を持っているのが、良いと思います。アメリカ製のアンプなどでフルパワーというのが良くありますが、プリアンプの初段管からのノイズも大きくなり、S/Nの点であまり良い設計だとは言えないようです。

普通の家庭では、1Wくらいでかなり大きな音になりますので、その出力が、16Ω負荷とすれば4Vになりますので、その時点での入力電圧が0.1V、つまり利得40倍(32dB)を目標にすれば良いでしょう。(もちろん、NFBを適当にかけるとしての話です。)

【周波数特性】
周波数特性は、どうせレコードにもテープにも、あるいは、FM等のプログラムソースにも、せいぜい20〜20kHz位しか入って来ないし、前号まで連載で発表いたしました拙作プリアンプも35kHz位から上をなだらかなカーブで落としてあるのですが、いろいろ実験してみると、パワーアンプは6〜7kHzまで、±1〜2dB位までのばしておいた方が、伸々とした音を楽しめるようです。

【使用真空管】
真空管を使用する場合は、最近とみにソリッドステート化が進んでいるようですので、あまり入手困難な球は、たとえ特性が良くても、なるべく避けるべきだと思います。何しろ、球は消耗品ですので、エミッションが減ってきて取り換えなければならなくなった頃に、ジャンク屋を探し廻らねば、手に入らなくなる時が来るかもしれません。従って、なるべく一般的な品種を選ぶべきです。また、あまり高価な、例えばKT-88等、取り換えるのにかなりの出費がありますので、業務用アンプならともかく、家庭向きには不向きだと言えます。

【消費電力】
消費電力についても、一応計算に入れておかないと、毎月レコード2枚分も電気代を食うようなアンプは、実用品とは言えません。私のようにほとんど毎日1時間位鳴らす者には、電気代も馬鹿になりません。現に、仕事で1ヶ月も海外へ出た時等、この点に留意して設計したシステムなのですが、電気代が少ない事に良く気がつきます。OTLのマルチアンプ・システムなど、電力会社の株でも買っておいたほうが良いと思います。これも、コストパフォーマンスの大きなファクターになります。

【ダンピング・ファクタ】
ダンピング・ファクタ、10以上を目標にするのが適当だと思います。と言っても、あまり欲を出して、NFBを多量に掛けすぎて、不安定なアンプにしてしまっては、虻蜂取らずになりますので、その辺が設計のコツと言えるでしょう。

【アンプの回路は】
回路についての項で詳しく述べますが、管球式アンプは生物に喩える事が出来ると思います。たとえ、非常に優秀な特性を持ったものでも、エミッション減によるバランスの崩れなどのため、大げさに言えば、毎日ほんの少しずつ特性が変わっているものです。従って、折にふれて(欲を言えば、4〜5ヶ月毎に)プレート電流、DCバランスが手軽に点検出来るものである方が良いと思います。

人に頼まれて、装置の点検に出かけた時など、ほとんどと言って良いほど、DCバランスが10mA以上も崩れていたり、プレート電流が20%も落ちているものです。毎日、少しずつ特性が落ちているために、自分では気が付かずにいるのかも知れません。プレート電流を規定値まで流し、バランスをとりなおしてみると、低音特性がいっぺんに良くなり、音の濁りがなくなって、まるでアンプを取り換えた時のように音が良くなった事を、私は度々経験しています。

【入力コントロール】
入力のレベルコントロールは、パワーアンプの場合(マルチアンプ方式用のは止む得ませんが)不要というより、ない方がよろしい。直結方式にレベルコントロールを入れた時に、プリアンプの製作(本誌昨年12月号)でも詳細に述べましたが、ボリュームコントロールを回わすと、ボリュームの出力側のインピーダンスが動いて、グリッドリーク抵抗値が変りますので、高域が落ちるのは当然です。プリアンプのボリュームを少しずつ上げてゆき、メインアンプにレベルコントロールが付いていれば、音量に合せてメインアンプの方を下げて行きます。どうです、いっぺんにハイが落ちるのがわかるでしょう。