03.23
6CA7PPパワーアンプの製作 2
回路について
上記に述べました一つ一つの条件に従って、ある程度満足すべき特性を目標に、回路の組合せを考えて見る事にします。
プリアンプは別として、パワーアンプの場合、舶来の一流品の回路をそっくり真似て作るのは、OTLでない限りあまり意味がありません。例えば、よく引き合に出されるマランツ#8Bなど、割合真似のしやすい回路ではありますが、出力トランスに同じものを使えない限り、イミテーションを作ってもうまく行きません。特に、これら外国品の場合、トランスの特性は全然公表されていない上、取扱い説明書等にある回路図の電圧はあまりあてにならないものが多いのをみても、当然の事だと思います。
従って、私達が今まで見慣れて来たいろいろなアンプの良いところだけを検討した上で、一つのアンプに構成して行く事になります。
パワーアンプの性能を左右する部分のうちで、一番大切なのは出力トランスだと思います。
いくらマッキントッシュが良いと言っても、それに使用している出力トランスは、残念ながら入手出来ませんし、舶来恐怖症の私の事ですから、国産の中で一番上等だと思われるLuxのOY36-5を選んだわけです。あれこれトランスを実際に使用してみて、データをとるのが一番良い方法に違いありませんが、無理な話ですから、今まで読んだいろいろな記事を総合的にみて、このOYシリーズのなかから選びました。どうせ1〜5W以上は不要なのですから、OY15-5でも良いのかも知れませんが、余裕を十分持たなければ、のびのびとした音は望めませんので、値段は少々張りましたが、あえて本機にこれを選んだわけです。
出力管に予定しています6CA7の最適負荷抵抗は、3結の場合5kΩ、ウルトラリニアは6.6kΩですので、ラックスへ6.6kΩを特注しようかと思ったのですが、この辺はあまり大きな影響もなさそうだという事で、標準品のOY36-5に決めました。ウルトラリニア専用に使う場合は、6.6kΩの方が良いと思います。もちろんその時は、NFB量が多少変わりますので、ほんの少しですが、調整の状態が変わると思います。
この記事をもとに自作する時に、このOY36-5には少々問題があります。周波数特性を十分広くとった所為か、NFBをかけた時の位相補正がクリティカルで、その上、DCのアンバランス分が、1.9mAと非常にせまい事です。実のところ、私も、少々、このトランスには最初大分手こずりました。一度その癖をのみ込んでしまうと、割合補正は楽なのですが……。
そこで測定器が揃っていない時には、第1表の代替品の一覧が参考になると思います。断っておきますが、私は他のトランスは実験していませんので、特性及び補正の要領は大分変わるかも知れませんが、クリティカルという言う点では、大いに楽だと思いますし、値段も半分くらいになります。
次に出力管ですが、私は6CA7という球が好きで、この球に初めてお目にかかったのが1958年です。アメリカのZiff Davis Publishing Company社から出ている年刊誌に、第1図の回路が載っていた時です。ウルトラリニア結線、当時自作するようになるとは思っていませんでしたから、その後間もなくダイナコ社とマランツ社から同種のアンプが出ているのを知り、コストパフォーマンスの大きいダイナキットマークⅣを選んだわけです。
1図
出力回路は、ウルトラリニアと3結のどちらが良いか、大分迷ったので、結局スイッチで切り換える事にしました。しかも、このMullard250の回路は、今からみるとずい分古いもので、セルフバイアスは音の伸びの点で大いに問題があります。2本のペアーで100mVも流れる回路に、セルフバイアスはあまり感心しません。この優劣の差は普通の耳ではっきり聞きわけられます。そこで固定バイアスにしました。
話をわかり易くするために、第2図に本機の回路図を示します。
出力段の切り替えは、もちろん電源を切った時にしか出来ませんが、ヒヤリングテストのためのアンプではありませんので、問題はありません。しかし、大電流と、かなり高圧の直流が流れるため、普通のロータリー・スイッチではうまくありません。私はたまたま市場で見つけたLuxの2442-Aを使用しました。125Vで3Aも通せるので、十分余裕があります。
スクリーン・グリッド(第3グリッド)の最大定格は、第2表に示しましたように425Vで、プレート電圧の800Vに比べて半分近くしか許されませんので、1kΩの抵抗を入れてあります。この抵抗は、6CA7が寄生発振を起こして、プレートが赤くなったりするのを防ぐのにも、役立っております。1/2W級で十分です。
プレート電圧は415V位かけると、この球の3結及びウルトラリニアのフルパワーが出せるのですが、そんなに大きな出力は全く不要ですので、B電圧を下げました。出力管の寿命も永くなるので、コストアフォーマンスの点で有利です。回路図でおわかりのように、トランスには350V端子がありますので、それに繋げばもう少しパワーを上げる事が出来るわけですが、NFBが変わって来ますので、位相補正の様子も大分違って参ります。ご注意下さい。しかも、パワーを大きく出した時に、プレート電流が大きくなりますので、それによる電圧降下の点でも、310V端子の方が有利だと思います。
第3グリッドに繋がっている1kΩの抵抗も、寄生発振を防ぐ為のもので、スクリーン・グリッド抵抗と共に、ピンに直接繋がなければいけません。
カソードに妙な数値の精密級抵抗と、メーターが入れてあります。先に管球式アンプは生物だと述べました。特に出力管は消耗が激しいので、知らぬ間に、エミッション減になって、プレート電流値が大きく下がっているものです。本機は、あくまでオーディオリスナーのためのものですので、いつまでも、その優れた特性を維持するために、折に触れて、メーターの振れ具合により、監視出来るようにしたものです。ミリアンペアメーターにいつも電流を流していて、もし、コイルが断線したりすると、プレート電流に支障をきたしますので、ボルトメーターを使って、オームの法則に従い、直流を計るようにしてあります。プレート電流が、2本分で100mAとすれば、
E=I・R
の法則により、15Ωを当てると、1.5Vの電圧が生じます。従って、このメーターはDC3Vのものですが、いちいち換算するのであまり面白くないので、日置のMK-38メーターがDC3VもDC200mA等間隔目盛になっているので、3Vのメーターに200mAのダイアルを付けたものをメーカーに特注しました。
幸い、DC3Vは注文製作品種ですので、あまり面倒をかけずに入手する事が出来ました。この点をメーカーに問合わせましたところ、2個づつばらばらに注文されると、納期が2ヶ月位かかるという事でしたので、私の行きつけの部品屋に相談したら、適当な数をまとめて注文して、在庫してくれるそうです。このメーターは、6CA7に限らず、6V6、6L6、6AQ5、6AR5等プレート電流が一本当たり30mA〜80mAの出力管にはどれにでも使えますので、便利だと思います。自作の場合、グリッド・バイアスを、内部抵抗の低いテスタで一度測るだけですので、プレート電流はまったくアテにならないのが多いようですのでこのメーターを採用して、正しいプレート電流値を、いつまでも保つようにお勧めします。そのパーツ屋の名前を次に示しておきますので、往復葉書でお問い合わせ下さい。
(宣伝パーツの連絡先、省略)
このプレート電流は、フルパワーになると、50%位上がってきます。仮に、これが150mAになった時には、
2.25V=0.15A×15Ω
ですので、針はやはり150mAを指す事になります。この仕組みは、ダイナコの特許になっていますが、本機は商品ではありませんので、一向差し支えありません。(Chriskit Model 7のネームプレートが貼ってありますが、これもプリアンプのパネルに合せるための飾りで、私のクリスチャンネームをデザイン化しただけで、販売の予定は全くありません。)
出力トランスのP1、P2端子は、後で、組立ての項で述べますように、陸軍端子を利用したDCバランス用のターミナルに繋がっています。こうしておけば、ウィリアムソン法で簡単にDCバランスが、シャシの上から、ある程度正確にとれます。
グリッド・バイアスは電源トランスの40Vの端子からマイナス電圧を採りだして、これも、電圧値、バランスが両方とも、シャシの裏蓋を開けないで、外から調整する事が出来ます。