2021
03.29

6CA7PPパワーアンプの製作 製作/調整編 3

音らかす

NF量の決定

NFBの適正量を決めるのに次のような方法を考えましたので、参考までに述べてみます。Heathから便利の良いものが出ています。同じものを上杉佳郎氏にお土産に差し上げたので、先生が、電波科学の1970年3月号に詳しく述べておられますから、参考になると思います。このResistance Substituteを使って、NFB量をいろいろに変えて見ました。第5表が、その数値です。最大値が、31dBで、これ以上深くすると発振してしまいます。第11図が、その状態をオシロで観察したものです。もちろんこの時には位相補正は全部外してあります。

5表

NFマージンは10-15 dBとらなければ、アンプが不安定になりますので、本機の14.5 dBにNFB量を決めたわけです。

つまり、30 dBのNFBで発振しますから、それから15dB差し引いたNFB量を最適と判断したわけです。

オシロの写真は少々波形の高さが不揃いですが、NFBが深くなるに従って、波形が低くなりますので、その都度ボリュームを上げたのですが、うまく合いませんでした。

位相補正

これで各部の位相補正をすれば、出来上りですが、まずー番有効な、クロスオーバ~型と呼ばれるC-4、C-5を入れます。値が小さい程、好結果が得られるようです。チタンコンデンサの3pFをシリーズにつないでありますが、先程のカップリング・コンデンサとクロスしているのに御注意下さい。第12図の②がその状感です。リンギングも大分小さくなり、真中当りが大分直線に近づいたようです。

12、13,14図

次に、C-8(30 pF)をアースに落とすと、波形がさらに滑らかになります。さらにC-2のところへまず100 pFを入れた上で、C-9の50pFを入れ、その後C-2にもう50pFを加えて150pFにします。図でおわかりのように、大分きれいになりました。C-9を100 pFにすると、もっと滑らかになるのですが、このコンデンサはスピーカ・ターミナルとパラレルになっていますので、アンプを不安定にする恐れがありますので、あまり大きくしない方が良いと思います。第13図がその3結の時の仕上りの波形です。完全に近い程補正がとれたようです。ウルトラリニアにすると、第14図のように、左の肩が少しばかり張って来ますが、これ以上無理をするのは止めました。アンプを不安定にしてまで波形をきれいにしてもあまり意味はありませんし、方形波と出て来る音とは別の問題で、オシロを眺めて楽しむ為のアンプではありませんので、このあたりで良いと思います。もし、どうしても気になる方はVR-5を少しまわして、NFBを0.5dB位浅くすると、ずっときれいになりますが、ダンピングファクターが10.5位まで落ちるのは止むを得ません。

多分御承知と思いますが、馴れない方の為に、NFB量の測定の仕方を説明します。スピーカ・ターミナルに、16Ω、20W以上の巻線抵抗、又は、ニクロム線をつないでNFB回路をはずし、入力からl kHzのサイン波形を入力に入れて、その時の出力をミリバルの20 dBの目盛に合せます。もちろん,発振器のアッテネータを加減するわけです。

正確に20 dBを指したまま、NFBのリード線をつなぎますと、メータの読みが、スーッと落ちます。この時落ちた目盛量(dB)がその時のNFB量です。

このままスピーカにつなげば、立派に音を出すわけですが、まだACバランスがとれていません。方法としては、入力を入れて、V3とV4のグリッド(P-5)のところで交互にミリバルでドライバ段の出力を測り、両方を合わせるのが一番正確なようです。

安定度、特性を調べる

これで全部終ったわけですが、音を出してみる前に、念の為、その特性と、安定度を調べてみます。一度音を出すと、つい安心して思わぬ不備な点を見のがしてしまい、後になって音がひずんでいるのに気が付く事がよくあるものです。折角、苦労して作ったアンプです。測定器のある方は必ずテストしてみましょう。

第15図は本機の3結の時の安定度テストの記録で、第16図がウルトラリニアに切り換えた時のものです。両方共、この位のテストに通れば、大丈夫です。

15、16図

パワーアンプの安定度が悪いと、もちろん、良い音は望めません。しかし、この記事は、アンプ製作マニアの為の製作教室ではありませんので、飽く迄オーデイオ・リスニングに、充分満足の行く音が出て、あまりとんでもないオンボロスピーカにつないだ事まで考えに入れて、無負荷で0.5μFまで安定なものにする努力はしませんでした。どうしても、安定度について、重箱の隅をほじくりたい人の為の最も合理的な測定法があります。まず、出来上ったアンプを、手持のスピーカにつないで、100 Hz、1kHz及び10kHzの信号を入れてみます。もちろん、スピーカから、かなり鋭い音が出る上に、このテストをあまり大きな出力で、長時間やっていると、必ずスピーカのコイルを切ってしまいますし、第一、耳ざわりですので、レベルはあまり上げない方がよろしい。そしてこの時の波形を、アンプのスピーカ・ターミナルから取り出して、オシロで見てみます。余程具合の悪いネットワークを使っていない限り波形の乱れは見られないはずです。そこで、この出力端子に0.lμFのコンデンサを並列に入れて見ます。それでも発振しなければ、そのアンプの安定度は合格です。

第17図に本機のゲインと、実効出力と、最大出力のグラフを示します。

第17,18図

S/Nの測り方にはいろいろあるようです。カタログ等に、カッコ良く書く為には、無信号の時にスピーカ・ターミナル端子にミリバルを当てて残留雑音電圧を測り、最大出力の電圧、つまり、そのアンプの最大ワット時の電圧を測り、残留雑音電圧を分母にとり、最大出力電圧を分子にする方法が有ります。これは全く意味の無い測り方ですが、カッコ良い数値が出ます。本機の残留雑音電圧を測って見たら、プリアンプにつないで、プリアンプの電源を入れないでおいた時(パワーアンプの残留雑音電圧だけを測るのですから)、 ミリバルは、先月号に書きましたように、0.35mVを指しました。本機のウルトラリニアの最大出力は16Ωで49Wですから、その出力電圧値は28Vです。そこで

の式がなりたち, S/Nは1:80,000、つまり98dBという事になります。ときどきアンプのカタログ等で、S/N80dBとか90dBなんて数字を見かける事がありますが, これはこの方法で表わしたものですから。あまり意味がありません。

いずれにしても、残留雑音が0.35mVという事は、スピーカのサランネットに耳をくっつけても、ほとんど何も聞えない状態です。本機はこの位のS/Nをかせぐ為に、初段管をシールドしたのです。試みに、シールドケースを外して、6267を指でつまんでみました。ミリバルは、いっペんに振りきれてしまい、レンジを変えると27m Vと出ます。もちろん、 この状感では、スピーカから5メートル離れた所でも、かなり大きくブーンと聴こえます。もし、聴こえなければ、耳の医者に行くか、オンボロウーハーを取り替えるかしなければなりません。

周波数特性は、 240 kHzまで測定してみたのですが、グラフにするのは大変ですので、一応100 kHzまでの、周波数カープを第18図に示しておきます。

このような測定器によるテストは、あくまで数値的なもので、そのアンプをスピーカについだ時に出て来る音については、残念ながら何も語ってくれません。もちろん、測定器によるテストは無視するわけには行きませんが、やはり、最後の決め手はヒヤリングテストによる他はありませんし、アンプというものは、測定の為に作るものではなくて、音楽を聴く為のものである事を思えば、これは当り前の事です。

残念な事に、プリアンプの時、ヒヤリングテストに使ったマッキングトッシュMC-275がなくなってしまいましたので、いろいろなところに持ちまわリテストをやってみました。その御意見を総合して言える事は、まず、音の濁りが全然感じられない事で、これはひずみの少なさから来るものだと思われます。高域から低域までの音の伸びは、OY36-5の良さを裏付けたものだと思います。トランジェントが良かったせいか、JBL・LE8Fと呼ばれる、シングルコーンスピーカの音が、まるでホーン型スピーカでも鳴らしているように、ゴキゲンな音を楽しめました。

これで優秀な特性を持つアンプが出来上ったわけですがプリアンプと違って、出カトランス付パワーアンプは、NFBの問題があり、その量をはじめ、全体のゲイン等の関係が非常にデリケートなものです。本稿を参考に、全然新しい回路を設計する場合以外は、あくまで、回路もそのままに、出来れば部品配置もあまり違わないように製作しなければ、NFB量、位相補正等も初めからやりなおしになります。抵抗は、全部RM-1/2(R-11のみ1W型)の±2%級を使った方が、電圧分布もとり易く、左右2台のアンプの特性、ゲイン等が揃いますので、好都合だと思います。

このアンプの測定及び調整に使用した測定器は第19図の通りです。なお、ひずみ率の測定は、ひずみ率計がHeath Companyより発送通知はあったのですが、航空運賃が大分かかりますので、船便でとりましたから、1カ月位すれば手元に届くはずです。入手次第、前号のプリアンプと共にそのひずみ率を測定して、本誌にスペースを借りて発表するつもりです。

例によって、御質問がありましたら、編集室か、直接下記にお問合せ下されば、出来るだけお役に立ちたいと思っています。

Christopher H Masutani

P.0.Box 31, Kobe(〠651-01)

コラム

前月号でサブソニック・フィルタについて考えを述べましたので、今回は第4図を中心として、サブソニック・フィルタのCRの定数について述べましょう。まず、

C1=0.02μF、C2=0.02μF、R1=1.5MΩ、R2=470kΩと仮定しますと、左側からみるC2はロールオフ周波数より高い周波数に対しては、インピーダンスがゼロに等しくなりますので、R1とR2はパラレルになりますから、その合成抵抗値Rは

になります。従って、この回路の左半分で−6 dB減衰する周波数は

となります。同様に右半分のロールオフ周波数は約17Hzになります。(コンデンサの交流に対する抵抗は

で求められますから、Fを17Hz、Cを0.02μFとすると、インピーダンスは17Hzで470kΩになります。従って、bのように書き直した回路のR2を470kΩとすれば、電圧が1/2になることがわかります。 (つまり6dB減衰したことになります)

このようにサブソニツクフィルタを2段にしますと、約20Hz位のところで, 1オークタ~プ当り12dBに減衰しますから、この場合には40Hzから落ち始め、17Hzで−12dBという計算になります。なお、第4図にはC1C2とも0.01μFR1R2470kΩのときの計算例を示しました。)

4図