04.10
オーディオリスナーのための高性能プリメインアンプ プリアンプ部回路編 3
ファンクションスイッチ
このスイツチ(S-1)は、テープモニタ_スィッチ(S-2)とっながっていて、両方とも押しボタンスイッチです。この前の管球式の時に星電パーツがアンケートを取ったら、70%までがトーンアームを2本使っているので、Phonoは2本必要だという結果が出ました。このスイッチは押しボタンであるために、もう1本入力を増やす事はわけないと思います。
モニタスイッチも前回と同様に、入力側にテープ入口をつなぐ事により、ファンクションをTAPEに合わせるとテープデッキからの音が入るようになっています。
普通は少しでもコストを下げるために、テープモニタースイッチだけによつて、テープのプレーバックを聴くようになっており、その時にはファンクションスイッチが何処を指していても、テープが鳴るようになっている不自然さが嫌だったものですので、 こんな回路にしたわけです。
テープヘッド入力がないのは、実験すればわかるように、テープデッキのヘッドからシールド線を使ってプリアンプにつなぐ方式では音質が悪く、ノイズが大きくなるからです。ヘッド用には、 これと同じプリント基板を使って、デッキ内蔵のプリアンプを使えるのが一番良いと思います。もちろんその場合は、RIAAの変わりに、NABのネツトワークにとり代えなければなりません。
トーンコントロール部
1石によるCR減衰形です。私が好んでこの型式を使用するのは、バイパスした場合を前提としているからです。先に少し述べましたが、マッキントッシュC-22はNFB型であるためかバイバス出来ない構造になっています。理由は、“ボリューム中点でフラットな周波数持性が得られるからだ”とありますが、計ってみて確認出来ましたように中点での特性はかなりうねっています。
あれだけの高級機の事ですから、バイバススイッチを組み込む事も出来たと思うのですが、あえてそれをしなかったのは、スイッチでバイパスする時と戻す時に、クリック音が出るからだと思います。
ヒースキット中の最高級機AA-15及びAA-29は共にNFB型ですが、バイバススイッチが付いています。スイッチを押すとあまり大きくはありませんが、クリック音が出ます。ヒアリングテストによると、この両者共バイパスした方が、コントロールを中点にしているにもかかわらず、はるかに音がすっきりとします。AA-29の方では、耳ですぐにわかる程ハイが落ちるようです。
第8図が本機のトーンコントロール特性です。マッキントッシュを含めて市販品の管球式、 ソリッドステートのプリアンプで調べて見たのですが、中点でも、どれもこれも狂っていました。これではRIAAカーブがどうの、周波数特性がフラットのといってみても、頭かくして尻かくさず、という事になります。
この回路では、1石しか使用していませんので、イコライザ1段のように直流帰還によるバイパスはかけられませんので、回路図のようにVccを抵抗270kΩ(R-203)で落して、Q2のベースにバイアスをかけてあります。33kΩ(R-201)、47kΩ(R-202)で分割したのは、この方が270kΩ(R-203)の値をそんなに大きくしなくても良いからです。エミッタにはバイパス・コンデンサ100μF(C-203)を入れないと、この段でのエミッタ抵抗が大きいために、セルフ帰還がかかってしまいますので、±10dB以上のコントロールを行なうだけのゲインがとれなくなります。その代わり、コレクタ抵抗3.9kΩ(R-205)はかなり小さく出来ますので、歪の点では大いに救われます。
CR類は計算と実測で決めたのですが、低音の方はバイパスした時と大分違って来ます。CR減衰型の特徴でしょう。
100kΩ(VR-5)の半固定は、バイパスによるゲインの違いを揃えるためである事は前回のものと同じです。この段では、コレクタ電圧がQ1bの時より高くなりますので、2SC458L GCでは持ちませんので2 SC1000を使いました。これもローノイズ級です。
10k Ω(R-208)は、高音と低音のコントロールをそれぞれ分離するための抵抗ですが、値が小さくなる程、ボリュームの中点でカープがフラットに近過ぎますが、高低音のコントロールが、それぞれ干渉し合う事になります。
出力段
トーンコントロールの後に、バランスコントロールB50k(VR-8)を経て、出力段に入ります。
モードスイッチは全然使わないものですし、クロストークを悪くする以外に意味がありませんので、省略しました。
回路構成はイコライザ段に良く似ていますが、この段では、ゲインをとるより、大きな信号が入って来ますので、最大許容入力の方に重点をおかなければなりませんので、定数は大分変わっています。
NFBはRIAAの時と違って、フラットに戻せば良いので、半固定抵抗B100kΩ(VR-9)と10kΩ(R-310)だけです。
この段の裸のゲインは2段で43.5dB(150倍)ですが、NFBをかけると、B100Ω(VR-9)を0Ωにまわした時に38.5dBのNFBがかかりますので、(43.5dB−38.5dB)=5dBのゲインとなり、100kΩ最大値にまわすと、(38.5dB−19=)19.5dB(19の後に「dB」が抜けているようです)、中点では(38.5dB−24.5dB=)14dBのゲィンになりますので、この段では5~19.5dBのゲインがとれ、使い勝手の良いプリアンプと言えます。
しかし、歪の点では14dB以下、つまりB100kΩ(VR-9)を50kΩ以下にした時の方が良い事は申すまでもありません。この半固定抵抗を0Ωにまわしても、発振の心配は全くありません。不思議な事に、この半固定抵抗を50kΩ以上にして、NFBを減した時の方が、音が少々濁るせいか、真空管により近い音になるようです。オーディオとは摩詞不思議なものです。
この段の設計は、マッキントッシュC-24を見本にしましたが、原機の回路では、このNFB抵抗は56kΩが入っていますので、念のために書き添えておきます。
しかし、このように深いNFBをかけますと、当然の事ながら、周波数特性が良くなり過ぎて、ずっと高域までフラットになってしまいます。過ぎたるは及ばざるが如し、適当な所で切る必要があります。このために挿入したのが、80pF(C-305)です。30pFを入れて測定してみたら95,000Hz位まで殆んどフラットになって、まだ、足りませんので、80pFに増やしました。150~200pFに増やしても差し支えありませんので、自分の好みの音にして下さい。この件での読者の御報告をお待ちしています。
管球式アンプもそうですが、カタログにカッコ良い周波数特性を書くためなら話は別ですが、あまり良過ぎるのは返って音を悪くします。クリスキットマークVでも35,000Hzで−3dB位のところで好結果が得られましたので、本機もそれと同じ位から上を切ったわけです。
プリアンプのみとして本機を使用する場合は、この出口から別のパワーアンプにつなげば良い事になりますが、どういうものが、市販品のアンプでもそうであるように、パワーアンプの入カインピーダンスはまちまちです。こんな場合、インピーダンスのマッチングによっては低域不足になったり、逆に出し過ぎて低音がしまらなかったりする事が起って参ります。
それを防ぐために設けたのが、出力段の後に来るLine outとIntegratedの切換スイッチです。Line Outにスイッチを入れると本機をプリアンプとして使用来るようになり、どんな入カインピーダンスを持ったパワーアンプにもマッチングするようになり、Integratedにすれば、本項に引き続き発表します内蔵パワーアンプにつながり、プリメインアンプを構成するようになっています。C407の値を大きくすると、低音で周波数がのび、小さくすると、その値に応じて適当なところでサブソニックフィルタの働きがありますので、それぞれの装置でヒヤリングテストで決めます。
3.9k Ω(R-305)はトーンコントロール段及びイコライザ段への供給電源電圧調整用です。つまり、オームの測に従ぃ62vを44Vに落すためのものです。
アースラインは、 トーンコントロールをバイパスした時にS/N比が最も良くなるように設計してありますので、トーンコントロールを入れると、ごくわずかですがS/N比が落ちます。もっとも、この場合でも、深夜にウーハに耳をつけて聴こえる程度で、実用上はハムゼロと考えて良い程高S/N比といえます。
電源部
先に述べましたように、プリアンプにかなり高圧をかける必要があった上に、プリメインアンプとしての設計から、電源トランスを探すのに少々苦労しました。良い按配に、山水が再びアマチュア用トランジスタアンプに使用する電源トランスのシリーズを出してくれましたので、その内RB-22を使いました。
イコライザ段とトーンコントロールに44V、 出力段に62Vかけるためには、電源は50V ACが必要ですので、25V×2を両方一緒につなぎます。面倒な定電圧回路を省くために、 フィルタコンデンサは思い切って大きく、 しかも段数を増やしました。
2SC876E(三洋)はフィルタ効果を良くするための石で、 このような回路にしますと、そのベースに入っているコンデンサ100μF(C-402)のフィルタ効果(容量)をhfe倍にする事が出来、フィルタ・コンデンサの容量を何十倍にもする働きがありますので、 リップルを取るのにこんなに便利な回路はありません。本機のバツグンのS/N比はこの仕掛けに負うところが大きかったと思います。
この石はVcboが80V以上で、コレクタ損失(Pc)が150mW以上の石なら何んでも良いのですが、実験中に不注意で石を飛ばしてしまいましたので、2SC876Eを選んだわけです。プリアンプ回路中、この石に一番多量の電流が流れますが、それでもわずか10mA位ですし、充分過ぎる程余裕がありますので、放熱用のハチマキは不用です。
以上で回路の説明は終りますが、次号からはいよいよ製作に入るための部品についての説明に続き、製作編に入ります。
〔おことわり〕
例によって、馬鹿丁寧な程詳しく書きましたが、なお不明の点がありましたら、御質問下さればお答えします。宛名は、P.O.Box31、kobe、Christopher H.Masutaniが一番早く手元に届きます。
今までに数百通のお便りを戴き、全部に回答を差し上げましたが、中にはエチケットを心得ない方がありまして、ハガキで、DCバランスとは何か、とか、これもハガキでJBL 600 Aの電源回路を解説しろ、といった質問が随分ありました。腹が立ちましたが、返事をすると約束しましたので、丁寧に回答を差し上げましたが、そんな方に限って、親切な回答ありがとうのハガキ1本すらもらえません。他人の知識をただで戴こうという魂胆かも知れません。この次からこんな質問にはお答えしませんので、あらかじめおことわりしておきます。秘書に頼んで、こんな方々のブラックリストを作らせましたので、 もし御質問を戴いてお返事を差し上げない方がありましたら、ブラックリストに載っていると思って下さい。
それから、何かトラブルが出た時には実に克明に尋ねて来られるのですが私が回答を差し上げた後、それでもうまく行かない時には再び書いて来られます。これは当然ですが、それで今度はうまくいったのでしょう、それからは梨のつぶて。
うまく行きました。有難う。のハガキ位は出すのがエチケット。
とにかく、 こちらが親身になってお世話をしているのですから、それに対しては、せめてハガキでお礼をいうのがエチケットだと、私は思います。