2021
05.06

桝谷英哉のよもやま講座 チャンネルデバイダーの基本回路 その3

音らかす

抵抗分割

この連載記事の始めのあたりで、梯子にたとえて抵抗分割の原理について説明をした。二本の抵抗を使って電圧を希望の値まで減衰させる方法がある。

第11図のハイパスの場合、CHをZ1としてRHをZ2と考えると、INに入った電圧がOUTへ出て来る折にZ1/Z1+Z2まで減衰する事は御存知の通りである。

ところが−3.01dBとなると、日頃マニアは簡単に周波数特性±3dBなどと判ったような事をおっしゃるが、−3dBとは、一体どの位減衰したのかがお判(り)になっていない。耳年増だからである。

実験から音が−2dB下がったら、音量が小さくなったなと感知出来る数値だと覚える。何故かと聞かれても、筆者は耳の医者ではないのでお答え出来ない。とにかく2dB音が下がったら下がったと判るのである。1dBだと、普通音量が小さくなったとは判別出来難いのだ。

-−3.01デシベル。交流信号電圧を測る単位デシベルは、米国ベル電話研究所が考え出した単位。ベルでは単位が大きすぎるので1/20(=deci)がついた。

20logA理科系の人ならそうか、ですむのだが、文科系だと学校では一応教わったのだが忘れてしまっている人が多い。

log(対数)と聞いただけで解らないという反応が出る。こそんな事は解らなくても音は判るとおぅしゃる方はそれで良いのかも知れないが、判らないよりも解った方か良いし、同じものを作るのなら理屈か解っている方か何かと便利である。

10を2乗すれば100、3乗すれば1,000。これなら判る。だったら10を何乗すれば500になるのだろうというのが対数なのだと理屈抜きてとりあえず理解する。昔は関数電卓もコンピューターも身近になかったので大変だったが、これらの文明の利器のおかげで難かしい理屈を考えなくても、電卓のキーから〔500〕〔LOG〕と入力するだけで2.69897と答か出る。10の2.69897乗が500だと理解するだけ良い。2.69897なんて数値を暗記する必要などさらにない。パーソナルコンピューターにもLOG関数があるが、マイクロソフト社で勘違いがあったらしく、こちらのLOGは本来LN(自然対数)なので、 ?LOG(500)とやると500の自然対数6.21461が出る。LOGは本来10を底とした常用対数なのに都合が悪い。

仕方がないから、LOG(500)を10の自然対数で割らなければ500の常用対数にならない。そこで?LOG(500)/LOG(10)で答2.69897が出る。数字になれるために?LOG(500)の500を2、10、100など色々入れ替えてみる。コンピューターがいかに便利かが判る。このキーを押せば理科系だろうと文学士だろうと答は必ず出る。数学がそこまで身近になったのだと思えば良い。

その昔、筆者がコンタックスⅡaとローライフレックスTを使っていた頃は写真術という言葉があった。天候の具合、撮映場所などに応じて絞り、シャッタースピード等を判断するのに、電気露出計など内蔵されていなかった。したがってある程度の写真術を心得ていないとまともな写真は映せなかったのである。

現在、コンピューターのお蔭でほとんどすべてのカメラがバカチョンになり、カラープリントの普及と品質向上に伴って、誰にでも奇麗な人はより美しく、そうでない人もそれなりに映る時代になった。

数学も、面倒な計算式を使わなくても、ボタンーつて答一発。電卓のお蔭で暗算が下手になったと良くいわれる。それで良いと思う。その昔大阪から江戸へ歩いて旅をした。今新幹線で3時間。それを一か月かかって歩いて旅の出来る人はそうたくさんいない。体力が落ちたと思う必要はない。それが時代の流れなのだ。

コンビューターのお蔭で数学が身近になった。オーディオ回路の理解に必要な計算を億劫かる事はない。

−3.01dB、先にデシベルは20logAと書いた。だからこの−3.01を20分の1すると−0.1505だから10−0,1505はいくら、とコンピューター(関数電卓で充分)でキーを押すと0.70713と出る。

つまり元の信号電圧を0,70713倍(=1/√2)まで減衰させると−3.01dBになる事が判る。ものの理屈に馴れる一つの方法である。

第12図、何度も見た抵抗分割回路である。(a)は素子が純抵抗だから周波数の大小にかかわらずすべての信号が−3.01dBになる。

第12図

デバイダーに使われるフィルターは、所定の周波数で−3.01dBになるようにすれば良いのだから、図の右側のような考え方をすれば良ろしい。そんなに難かしい事ではない。

計算過程は後述するとして、図の右下の式から、CHに26,800pF、RHに1kΩを入れると、Z1+Z2のインピーダンスが1.414kΩになる周波数は5,938Hzになっている事が解る。本機の回路インピーダンスは第11図に示したように100kΩだから、このfcが5,998≒6,000Hzになっていて、B10k Ωを最大にすれば、RHは1lkΩになるので、その折のfcは599≒600Hzと変わる。つまり600~6,000Hzまで連続可変のデバイダー用のフィルター回路である事が解る。

この周波数を求めるのには、今までに述べたように、抵抗分割Z2/(Z1+ Z2)の計算によれば良いのだが、フィルター回路では抵抗により信号と(を?)減衰させる働きの上に、希望周波数を選択しなければならない。

 

この式の意味を説明する。

第12を参考にZ2/(Z1+Z2)式を考えて見る。図の(b)ではZ1がCで、RがZ2になっている事はもうお判りだと思う。理解しなければいけないという程難かしい問題ではない。ここまで判ると(1)式は自ずから判る。関数電卓かコンピューターを使えば計算も簡単である。RH(ハイパス用の抵抗値の事)に1kΩ (1,000Ω)と置いて、CHに26,800pF(26.800×10−12)(10−12とはピコファラドの単位である事は以前に詳述したのでバックナンバーを見て欲しい)を代入すると、(1)式の分母が1,414Ω、分子が1,000 Ωだから、(fc=5、938Hz)

の計算が成り立つ。つまり、約6,000Hzで−3.01(dB)になるフィルターが出来上がった。

ここで第11図を見なければならない。本機の回路ではこのフィルターにエミッターフォロアーのトランジスターがつながっているので、その入カインピーダンスを計算式の中で無視するわけには行かない。勿論、設計の折にその入カインピーダンスを100kΩと十分大きくとってあるので、実用上その値は無視して計算しても良いのだが、せっかくコンピューターで計算するのだから、正確を期すべきだ。

服を誂えるのに、どうせ仮縫いをするのだから、型紙なんぞ要らないというわけにもゆくまい。

RHには100kΩが並列に入っているとすれば(1)式のRは(RH×R)/(RH+R)で求められるので

と計算式を書き直す必要がある。コンピューターまたはプログラム電卓が無かった時代ではこんな簡単な計算でもひと汗かいたものだ。ほぼ10年前クリスキットを始めて設計した頃を想い出す。メモと鉛筆に8桁電卓を使って何度も何度も計算をやり直した。便利な世の中になったものだ。

こんなに簡単に計算が出来る時代になっても、(2)式のような計算式を見ただけで、俺には判らんと飛ばして読む。それでもオーディオには判ったような事をいう。マニアと呼ばれてよろこんでいる連中である。マニアとは通人の事でなく、気違いの事だと改めて考えて欲しい。

ところで、先月号で紹介した彦根の西村君から先日電話が入った。流石に若者だ。ゼロからやり直す事にしたそうである。大伴君に手伝ってもらってアンプの組み立てを終わったそうだ。スピーカーユニットを目下物色中なので現在まだアーデンを鳴らしているそうだが、何だかツキが落ちたような気分と聞いた。誤解してもらっちゃ困るが、筆者にとってここでクリスキットが一組売れた事をよろこんでいるわけではない。とにかく人のお役に立った事がうれしいのである。西村君が今までにどんな無駄金を費ったかという事よりも、あれこれコンポーネントをやりくり算段をして入れ替えながら、一向に満足来なかった境地から抜け出した事をよろこびたい。

理論について考えた事かなく、事音に関する問題だけにつかみどころがなかった、と彼はいう。 “評論記事はなるべく読まない事にしていたのですが……”、やはり自分の回りにある下馬評に惑わされている事だけでなく、プランド嗜好があったのかも知れない。

筆者も舶来ライターにさよならをしてかれこれ4ケ月。貴金属店のショーウインドーの前を通っても、全然興味が無くなってしまった。ステレオに比べてはるかに低い無駄使いではあるが、注入時にガス漏れかひどくポケットの中で邪魔になる程大きく重かったデュポンは今PC-8001 Mark IIを置いてある机の抽出しに入ってはいるが、そこに坐っている時ですら、ポケットにある小型で軽い国産品に手がのびるのが不思議である。漆塗りのダンヒルは2ケ月足らずでこまかいキズがいっぱいついたのに、日本航空でもらった国産品は、ルーペで見てもキズ一つない。国産品も良くなったものだ。

世界の一流品といった類いの本を書店の店頭で良く見かける。あまり興味がないので一度も購入した事はないが、原稿を書くのに少しでも知識を得ておかなければならないのて、パラパラと頁をめくって所々立読みをする事がある。

それ以外にダイナーズクラブから送って来る月刊情報誌シグネチャーに出る銘柄品の説明は必ず読むので、それら一流品と名付けられている商品についてはひと通り読む事にしている 終戦後この方輸出入に携って来たために色々な国の商品には職業的感覚で注意を払ってきた。だから、海外に出た折には出来るだけ時間をさいてこれらの銘柄品に触れる機会を作るのが癖になった。

元々凝り性で、何かに興味を覚えるとのめり込む癖がある。戦後間もなくコンタックスII aを買った時の事である。1956年頃だったと記憶している。大学出の初任給の7倍位の値がついたこのカメラ、少々馬鹿けた出費だったが、世界の一流品である。大きな期待があった。抜群の解像力のはずがいま一つ。何度テストを繰り返した事か。その内に内部構造を見たくなって分解した折に小ネジをなくしてドイツヘ手紙を出したら、間もなく送られて来たネジに手紙がついていて、絶対に自分では分解しないで欲しいと書いてあった。

その後、結局満足出来ないているうちに、ライカの方が良いような気がしてⅢfにズミクロンf2をつけて買い込んだ。二年足らずの間の事である。コンタックスII a(ゾナーf2)が当時¥78,000、ライカIIIf(ズミクロンf2)が¥82.000。

女子高校卒の初任給でキャノンA-1が買える現在から考えるといささか非常識な買ものである。マウントの違う二つの35mmレンズ交換式カメラを持っていた事を今になってふりかえると、非合理極まりない話だ。私とした事が……この欲求不満、両方共手放して、キャノンVI一L(キャノンノf.1.8)に入れ替えるまで続いた。

筆者が一流品とか銘柄品とかいわれている商品に不信感を持つようになったのは多分この頃からであろう。そんな事以来、品物を購入するたびに徹底的にいろんな角度から吟味してからじゃないと手を出さなくなった。それでも評判につられてくだらないものを買って後悔する事か良くある。品物選びは難かしいものだとつくづく思う。

また道草を喰った 本題に戻ろう

(2)式により、RH及びCHがわかっていて、色々な周波数に対する減衰量(A)を求める事が出来た。ハイパスフィルターの希望カットオフ周波数を求めるのに、この式を使ってコンピューターにプログラムしておいて、機械に試行錯誤をくりかえさせてRHをはじき出す事も不可能ではない。相手は機械である。何度計算をやり直させても文句はいうまい。けれどこんな事をしていたら、コンピューターにつき合つているこっちの方がくたびれる。

数学はあまり得意ではないが、数学とは有難いもので、(2)式から、第11図の回路定数のうちRHを求める式に書き直す事か出来る。

この式のうち、チャンネルテバイダーに使われるフィルターの減衰量(A)は、カットオフ周波数(f)(正しくはfe=カットオフで表わされる)−3.01dBに置かなければならない事は前述の通りで、−3.01dBを普通の数値に直すと0.70713(=1√2)になる事もすでに説明した。

電子工学系の試験を受けるわけではないので、これらの式を暗記したり数学分析をする必要はない。だから、自分が専門誌に解説記事を書くのでないかぎり、ものの理屈として理解しようとするだけで十分だと思う。自信をもって良い音を作るためには、ものの理屈を無視する事は禁物だ、と繰り返しておこう。

とにかく(2)式と(3)式で減麦量とRHを求める事が出来るが、これだけではフィルター回路の設計は出来ない。

勿論、先に述べたように、(2)式をコンピューターにプログラムして試行錯誤をやるよりは(2)式を書き直して、CHを求める式を作った方が答を出すのに手っ取り早い。何度もいうように数学とは大学入試のためだけにあるのではない。利用する気になれば、立派な実用価値があるものだ。どんなに優れたマイクロコンピューターでも、馬鹿にとっては、ゲーム遊び用のおもちゃにすぎないのである。

もし、ここに述べるような計算式がなく、8桁の電車だけしかなかったとしたら、クリスキットの回路設計はすべてカットアンドエラー方式による手探り作業に頼る以外に方法かなかったであろう。管球式の2A3のシングル、6C A7のプッシュプルならいざ知らずソリッドステ~卜回路が目覚しい進歩を遂げた今日、計算を無視して性能の良いオーディオアンプは作れないのである。 (2)式からCHを求める式

この様に、(3)、(4)2つの計算式をプログラムすれば、フィルター回路に必要なC—R素子を求める事が出来るが、抵抗、コンデンサーで入手可能な数値に限定がある。だから、計算により求めた数値に都合よく合った部品が入手出来ない事もある。そんな時のためにfcを求める式も合わせて示しておく。参考になれば幸いである。

これでハイパスフィルターに必要な数値が全部揃った。筆者含めて文科系の人間は、製作記事の中でこんな計算式にぶつかると、そこんところを飛ばしてしまうクセがある。それでもステレオの音の良し悪しは判る、とその人達はいう。これは文字通り耳学問で、こんな事をいって通人ぶっているうちは、絶対に満足出来る音には巡り合えないと知るべきだ。     つづく

プリント基板部品配置図