2021
06.16

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その12 パワーアンプその1-1

音らかす

プリアンプとの接続について

この二つはシールド線で接続すれば良いと、簡単に決めてかかると間違いが起こる。ここにも一つの物理的現象が存在する限り、その法則について、一応の知識を持つ必要がある。

私が、あれだけ口をスッパクして、プリアンプの出力用カップリングコンデンサ(Coupling Capacitor)について述べて見ても馬の耳に念仏。ラックスのCL-35に、クリスキットP-35をつないで使っているのだが、どうも音が硬いと不満を持つ人がときどきある。私の記事の書き方が悪いのかな? と思う位である。

第29図のような回路を考えて見る。C.C.が0.05μFあったとする。そしてこの回路に60Hzの言号を流した場合に、「どんな現象が起こるだろうか」と考える。考えたくないは、この先を読むのを止めれば良い。そして「俺はマニアなんだから、そんな理屈は知らなくったって、オーディオは楽しい」と思っていれば良い。

第29図

『ステレオ』誌の1974年10月号長岡鉄男氏による『使いこなし診断室』のところを読んだ。あるマニアのオーディオ装置についての記事である。その男馬鹿でっかい音で聴くのが、楽しみだとあった。内心はやはり家族は勿論、隣近所に気兼ねしていると見えて、嵐の日が好きなんだそうである。嵐の日に会社が引けると、時には早退して喜々として、我が家に飛んで帰る。少々大きな音を出しても、まわりがやかましいので、 こたえないというのがその理由である。これも楽しみの一つ、私ごとき者がとやかく言う筋合いはない。

けれど、『お互いさまですから』ご近所に迷惑をかけてもかまわない、という東洋人的道徳をふりまわすにいたっては、ほうっても置けない。文字通りマニアである。

こんな人たちが、回路理論について少しでも興味を持つようになれば、少しはまともに音楽を聴けるようになるに違いない、といつでも考えている。

コンデンサの話。また道草を喰った。

コンデンサに交流を流すと、リアクタンス(reactance)が起こり、一種の抵抗が存在する。その値は、

の計算で求められることは、何度も書いた。

この式に、60Hzと、0.05μFを当てはめて見ると、

になる事が解る。

同図の下にある減衰回路(アッテネータ)を、書き直すと、一番下のようになる。一番上の回路のC.C.が、0.05μFで、それに60Hzが通ったとすると、上の回路も、下のも同じ事になる事は解ってもらえると思う。つまり半分に減衰されたわけである。60Hzを半分に減衰すれば、その周波数の信号レベルが半分になる事は誰にも解る筈である。

低音が半分に減ったら、低音が出ないのは当たり前。「それでは、何マイクロのコンデンサを使えば良いのですか」とお尋ねになる。お便りをいただいて、「そんな事あ、自分で計算しなさいよ」とも言えず、一つ一つお返事を差上げるのだが少々面倒くさくなったので、紙面を借りてお答えする。

通常音楽で、音としてはっきり聴こえる周波数は40Hzだと言われている。そこで40Hzまでフラットに再生して、そこから下を切るためには、オクターブ当たリ−6 dBとすればで((「で」は不要)約半分にして置けば良いから、その数値で計算すると、

(47,000は回路インピーダンス)

と計算出来るので「プリアンプの出力用カップリングコンデンサは、少し余裕を見て、0.22μF以上なければ低音不足になりますよ」と何度も言っているのである。だから現在入っている0.05μFに並列に0.22μFのコンデンサを入れれば良いと答えると、だったら、CL-35のどのコンデンサに並列に入れれば良いのですかと来る。そんな事あメーカーに尋ねて下さいよ。

中には、「そんな事をして、CL-35の特性が悪くなりませんか」とおっしゃる人がいる。正直言って、こんな手合にクリスキットの良さは解ってもらえなくても良い。

低音は一応この位にして、今度は高域特性について考えて見る。つまり、シールド線その他の線間容量(Stray Capacitance)がどんな風に高域に影響をあたえるかという話である。

第30図がその説明である。今仮に、シールド線の線間容量(S.C.)が30pFあったとする。

の計算で解るように、この300 pFに対して500k Ωのリアクタンスを持つ交流の周波数は1061Hzであるから、それを図に当てはめると、その周波数の回路インピーダンスが半分になる。したがって交流電圧が半分になり、オクターブ当たり−6dBとすると、それより高い周波数はもっともっと、上の方へ行く程おちるので、高域がさっぱりなくなって、音がこもってしまう。

第30図

良く切り換えスイッチを使って、何台ものプリアンプと、パワーアンプを切り換えている人を見かける。

本人はカッコ良いつもりなのだろうけれど、切り換えスイッチを入れるとシールド線が前後二本ずつ要るので、線間容量が2倍になるばかりでなく、切り換えスイッチの内部の線間容量は思ったより大きいものである。

切り換えスイッチにより、アンプの鳴き合わせなどで、そんなに大きな違いが解らない場合が多い.これは、切り換えスイッチや、ゴチャゴチャに入り混った結線により、すべてのアンプの特性が劣化しているからである。

今、どのアンプが鳴っているのか、ぴたりと言い当てる事はむづかしいもので、ワンセットずつ切り換えスイッチを入れないで、正しく結線して比較すれば、アンプによる音の違いは解り易い。

こんなのに限って、数十万円も(「する」が抜けている?)コンポーネントを2セット以上持っていてカートリッジが十何個。何も青江美奈を聴くんだったら、どうって事もないのかも知れないけれど。

この事も同じステレオ誌 ‘74年10月号の使いこなし診断室』(金子英男)に出ているので、詳しく読むのも参考になると思われる。