2021
07.22

全段直結完全コンOTL-OCL Chriskit P-35M ソリッドステートパワーアンプの2

音らかす

製作について

(1)電源部

シャーシ組み立て図で解るように、本機の電源部は、アンプ回路から完全に隔離されているので、この部分は、シャーシから取り外して行なうと作業が大いに楽である。(写真1参照)

このサブシャーシには、電源トランス、フィルタコンデンサ、整流用ダイオードブリッジなどが取り付けられるようになっているが、この板だけシャーシから取り外してボルト止めをすると、やり易い。

パワースイッチ、ネオンランプ、メータ用6.3Vパィロットランプ等へ導く配線は、電源部用サブシャーシのみを組み立てた状態で行なうと、後で狭い所へ線を張りまわす必要がない。

パワーアンプ用信号基板に印加するVccの2電源、±31Vの配線は、基板の方に取りつけても、電源部に先に配線しても、どちらでも良い。

メータ用アンプヘの±12Vは、メータアンプ基板へ先に配線しておいた方がやり易いようだ。

これ等の配線の折、本機のシャーシが、フロント部及びリヤーパネルがシャーシ組立図で解かるように、適宜前後に倒れるようになっているので、すこぶる配線が楽である。前後面を倒す折には、雑誌を四、五冊重ねておいてその上にシャーシの中央部をのせると蝶板を完全に開く事が出来る。

(2)メータ回りの配線

回路図及び、実体図を見れば、不明の点は一個所もないと思われる。特に注意する事は、メータ基板のアースにつながる各アースラインが、ホンジャックのアースポイントを経て、電源部のアースポイントに確実につながっている事である。もし、メータ基板のアースが、 シャーシのアースから浮いていたら、うまく働かないばかりかICを飛ばしてしまう事があるので注意を要する。ホンジャックのアースポイントは、一応フロントパネルにアースされているが、シャーシとの蝶板のところが、常に電気的につながっているとは限らないので、アースラインは確実に、電源部へ自ビニール線でアースされている必要がある。

(3)メータ用アッテネータ

抵抗分割用の部品が割合多く、ややっこしいので、間違いをさけるためと配線の容易さを計るために、ロータリースイッチのプリント基板型のものをアルプスに持注した。(写真2参照)SRM・ M25Pは、メーカー納め用のパーツで、 アマチュア用には市販していないという事だったので……

ロータリースイッチは、プリント基板の箔面の方から、ハトメ穴を通して取りつけられるのであるが、例によって、これ等12個のハトメが電気的に基板につながっているという約束がないので、取りつける前に、ハト目の穴をふさがないように注意しながら、第4図に示したように、ハト目のまわりを箔の方へ少量のハングで確実にハンダづけしておかなければならない。

第4図

アッテネータ用抵抗、半固定抵抗はすべて、プリント基板(1974-6 374)(第5図参照)に取り付けられるので間違うことはない。このように部品をすべて取り付けてから、ロータリースイッチのピン(12本)を箔面の方からきっちりと差し込んで、部品側で、ハト目に確実にハンダづけする。

第5図

(4)メータ用基板

先に述べたμP C33Cは、2電源用の増幅用集積回路で、14本のピンのすべてが、完全にハンダづけされていなければ、電源印加の時トラベ(「ブ」の誤り)ルを出すので注意が必要である。また第7ピンにつながれている−12V端子は、放熱のために、箔の比較的広い面積につながっており、その面にある穴を使ってシャーシヘ、スペーサー止めをするのだが、−12Vの電圧がかかっているので、ファイバーワッシャーを使って、スペーサーと電気的に絶縁されている必要がある。取り付けてから、テスタを使って、 ショートしていないかどうかを必ず確かめる。さもないと、電源を入れた途端にICをこわす事もあるので注意を要する。レジストコートを箔面にほどこすと、商品価値は上がるかも知れないが、ハンダづけの折いろいろ試して見たら、コーティングしていない方がやり易く、確実なので、わざと緑色コーティングはしなかった。

(5)ホンジャック

よくプリアンプにヘッドホン端子のついたのがあるが、 これは全くの邪道で、一般に8Ωのインピーダンスを持つヘッドホンを、出カインピーダンス数キロオームないし数十キロオームのプリアンプにつけるためにはヘッドホン専用のアンプを内蔵する必要がある。

この事はそれ等のプリアンプの回路図を見れば解かるように、すこぶるお粗末なヘッドホンアンプがついているものである。ひどいのになると、安物の小形アウトプットトランスを使ったりしたものもある。モニター以外に使いものにならない、 テープデッキのホンジャックは、その良い例である。

その点、本機のヘッドホンジャックは、スピーカ用と全く同じアンプ回路を使ってあるので、今までこの種のヘッドホンアンプを通して使っていたヘッドホンが、見違える程生き返ったような音になると思う。

全回路図にその詳細を示しておいた。100Ωの抵抗がほとんどのヘッドホンに適当だと思うが、ヘッドホンの能率が悪いものの場合50Ωに減らす必要があるかも知れぬ。

実体図にも、このヘッドホンジャックまわりの配線は示してあるが、なお良くわかりやすくするために、この部分のみの配線要領を、第6図に示しておいた。スピーカターミナルとヘッドホンジャック、ヘッドホンジャックとプリント基板をつなぐ線は、 シャーシの内部を引っぱりまわすので、30芯のより線を使った方がベターである。

第6図

これで配線は終るが、組み上げ調整は、前に連載したP-35と全く同じであるので、その項を参照され度い。

メータ用アンプのプリント基板は、何分あまりにも小さく、μPC33Cには14本も足が出ているので、組み立て後、テスタだけではその動作がうまく行っているかどうかを確かめることは非常にむつかしい。しかしながら、ハンダづけ不良の箇所がない限り、必ず働くので、わざわざチェックする必要はない。もしもうまく行ってなければ音出しをした時に、針が全然振れないかピンと振り切ってしまうのですぐ解かる。

それでも不安な人は、アンプが正常に働くようになるまで、メータ用アンプヘの±12Vの電圧印加の線を、電源部のところで外しておくのも一つの方法であろう。

メータ感度Opt.(オプショナル)について

Optional(任意の、という意味)の略で、1Wだと音が大きすぎる場合、それ以下の出力でスピーカを鳴らすわけであるが、その場合にも針が充分に振れないと面白味がない。そこでスイッチをOpt.にまわす。

アッテネータの基板上にあるB50kΩの抵抗は、あらかじめ1W側にまわして置く。(基板の矢印)音を出しながら、メータが、フォルテのとき0VUを指すところまで、この半固定抵抗を回わせば良い。

本機の特性音質については、 P-35と全く同じなので省略する。前項を参照され度い。

一応念のために各項目について試作品2台を厳密にテストしてみたが、特性その他は当然のことながら、P-35とまったく同じであった。もちろんのことであるが、音質についてはP-35と変わるはずがないので特に述べることはないが、本機を作ってみて、最近メーカー製パワーアンプにVUメータがついたものが多くなった理由が解かるような気がする。ステレオである限り音楽の部分部分によって左右の出力が変わる。

左側から打楽器の音があざやかに出てくれば、当然のことであるが左側のVUメータが大きく振れる。右側でべ―スが低音の響きを出すと、そちらがわのメータが振れる。音楽を聞くのとは何の関係もないはずのVUメータがまるで生きもののごとく動くのを見ているのも、なかなか楽しいものだ。

但し、P-35の折にも述べてあるが、注意しなければならない点は、C-4に20 pFが入っている事である。この値は、歪率及び周波数特性が一番良くなるところで20pFと決めてある。常に述べるように、アンプの電気的特性とその音質との関係は必ずしも比例しない(と言って、電気特性はあくまで重要で、無視してもよいという事ではないので、くれぐれも、耳(「年」が抜けている)増的誤解のないように)ので、このコンデンサの裏側に20pF~100pFのコンデンサをつける事により、自分の好みの音質に合わせる事を忘れないように。

それからもう一つ大切な事は、本機をクリスキットマークⅥカスタム以外の管球式プリアンプとつなぐときに、そのインピーダンスマッチングについて検討する必要がある。

第7図がその様子である。プリアンプの出力用カップリングコンデンサ(C.C.)の値が1/2πRC=foの公式により、本機の入カインピーダンス、47kΩを代入して、

1/2×3.14×47×103×0.22×10−6=15Hz

と計算出来る。つまり6dB/Oct.とすれば、30Hzまで大体フラットに再生することになるので、ちょうど良いわけだが、一般に、管球式プリアンプには0.05μFが入っているものなので、そのままでいくと、150Hz以下がカットされて、さっぱり低音が出ないことになる。0.22μF以上のものと取り換えるか、もし0.047μFが入っていたらその上にパラレルにの(「の」は不要)オイルコンデンサを入れなければ低音のサッパリ出ないものになる。

第7図

プリアンプの終段のプレート又は、カソード負荷抵抗については説明が長くなるので、別に連載している、オーディオ装置のまとめ方に詳述してあるので参照され度い。

なお、本機についての、改良その他注意事項は、適宜、電波技術誌上で発表する事があるので、毎月電波技術をせめて書店での立ち読みでも良いから目を通して欲しい。今後、パーツに良いものが出たりする度に、音質改良のため一部に手を加える事があるかも知れないので、あらかじめお断わりしておく。

(参考):クリスキットP-35の製作・1974年2月号、 3月号、 4月号
クリスキットP-35とMarkVIカスタムによる音のまとめ方・1974年7月号
ステレオ装置のまとめ方“インピーダンス”・1974年9月号
クリスキットMark VIカスタムの作り方・1974年4・5・6月号