2021
07.25

管球式プリとソリッドステートアンプ用 アッテネータの製作 1

音らかす

本来、アッテネータは測定器に使われる用語で、アンプの音量を加減するのには、ボリュームコントロールと呼ばれる可変抵抗器が使われるのが本筋ではある。

しかしながら、市販アンプの販売競争が激しくなって来るにつれて、メーカーも、あの手この手を使って、見てくれの良さを競争するようになり、ボリュームコントロールにクリックストップを付けて、あたかも、スイッチ切り換え式アッテネータと思わせるよう趣向をこらしたものも出回っているようである。

バランスコントロールにも、中点にクリックストップが付いているのもあるようだが、これとても、測定してみたら、左右3dB以上レベルに差があった事から見て、何の為のクリックストップなのか解らないが、使う側から見れば、特に電気に弱いマニアにとっては、その手ごたえが一つの魅力であるのかも知れない。フィーリングというやつである。

オーディオアンプは測定器ではないのだし、カートリッジからスピーカに到る迄、それにプログラムソースであるレコードも含めて、左右完全にレベルが合っている事はまずない。その上リスナーがちょっと首を振っただけでも、ステレオの音像の中点は動くものである。

とは言うものの、これも趣味であってみれば、あれこれ工大してみるのも楽しみの一つである。特にそれが、自作のアンプであるだけに、メーカーものでは得られない工夫も、大いに楽しいものである。

そんな要求に答える為だと思われるが、BTS規格のディテントボリューム、コレクトボリュームなどが市販されているようだが、これ等は本来オーディオ用ではない為に、すべて22ポジションになっている。普通ボリュームは、その全回転角度が300°になっていて、パネルデザインもそれに合わせてあるもので、 ここんとこへ上記の22ポジションを持って来ると、15°余る勘定である。これは22ポジションと、その間隔が21に分かれ、ワンポジション15°だから315°になるので当然の話である。

その上、その抵抗値の刻み方に少々問題があるものが多い。これとても、本来がオーディォアンプ用ではないので、いたし方のない事だと思う。

そこで今回は、管球式と、トランジスタのアンプに使用するアッテネータの作り方について述べる事にする。

管球式アンプのアッテネータ

見出しに、管球式プリアンプと書かないで、アンプ(「管球式プリ」と書かれていますが……)と書いたのは、このアッテネータは、何もプリアンプには限らず、管球式パワーアンプをマルチウエーに使う時のアッテネータにも使用出来るからである。

ボリュームコントロールと違って、スイッチによる切り換えになっている為に、1段毎にあまり音量が変わったのでは非常に使いにくい。と言って、あまり細かくやったのでは、回した時の音量変化が不足であり、プリアンプの場合、最後にスムースにしぼり切る事が出来ない。

そこで考えられるのが、一段毎に何デシベルづつ減衰して行くか、という事である。正直な所、この計算には2週間余り、ディジタルスライドルール(シャープコンペットPC-1001)のボタンを押しまわった位で、何々(「なかなか」間違い?)決め難い。

そこで、一番音量がスムーズに変化すると思われるコスモスのRV30YG(A500kΩ)を正確なゲージを使って15°づつ回して行って、ディジタルテスタ(岩通VOAC707)で正確に測定して行く事で、 ワンステップ−1.7dBづつに下げて行くのが一番A型ボリュームに近い事が解った。

クリスキットの3%ローャルティで買い込んだ測定器類を、私の記事の愛読者に還元する事が、ローヤルティの最も合理的なつかい方だと思えば、 こんなに高価な器具を買い込んで、こんなに面倒くさい作業も大して苦にならない。趣味とは全く有難いものだと、つくづく思う。

−1.7dBとは電圧比に直すと0.82224265倍であるから、その数字に500kΩを掛けると411kΩになる。第1図で解るように、アッテネータの二次側には−1.7dBに減衰された信号が取り出せる。次に、この411kΩに再び0.82224265を掛けると338になりそのポジションで更に−1.7dBになる。同じようにこの計算を20回繰り返すと−32.4dBで最後の1段で音量がゼロ、つまり無限大に減衰する。

第1図

この計算の結果が第1図の左側になり、それをグラフに表わすと、第2図のようなカープが描かれる。

第2図

そこで、 この数値をメーカーが標準値として製造している抵抗値の内、最も近いものを選んだのが第1表の右側に並んでいる数値である。下から順番に加算して行くと、ほぼ第1図の左側の数値に合っている事が解る。

第1表

抵抗値が決った所で、スイッチであるが、21接点となると、アマチュア用市販品には見当たらない。そこで、富士通、岩通、アルプスの三軒から見本と価格を取り寄せて、最も適当と思われるアルプス製のものを、ユナイトに依頼して特注させた。

このようにして作ったアッテネータの部品一覧表を第2表に示しておく。モノーラルのもので、マルチウエイの管球式パワーアンプに使えるものとしてA100kΩに相当するものも、アマチュアには便利だと思ったので、一緒に用意させた。お役に立つと思う。

第2表

スイッチの寸法も参考迄に写真1に示しておいた。

写真1

抵抗の取り付けは写真2のように順番にハンダづけをすると、思ったより簡単に出来上がる。

管球式パワーアンプでマルチウエーにしておられるアマチュアの方のリスニングルームを訪れる度に思うのだが音質(「音量」の間違い?)を変える為に中、高音のアンプのボリュームを動かすと、今度はもとに戻すのに一苦労。殊にB型のポリュームを使っている場合、その回転角によってちょっと回しただけで、かなり音量が変わるので、なかなかもとに戻しにくい。こんな時に、スイッチによるアッテネータだと、何段目が自分の好みの音だと記録しておけば、何処へ回そうが、すぐに元の音量に戻るので非常に便利である。

市販品のチャンネルディバイダにはボリュームが付いている場合が多いのでいたし方ないが、ディバイダを自作される方は、ディバイダにボリュームを付けないで、パワーアンプに入カアッテネータを、設けた方が、いろいろな特性上ではるかに便利であるので、ついでに付け加えておく。

21ピンもあるロータリースイッチに抵抗を20個も(二連の場合は40個)取り付けるのだから、多少、作業は複雑ではあるが、写真3のように、ボール箱の縁などに、抵抗を順序よく突き刺しておくと、順序を間違える事がないので、二連のものを作り上げるのに2時間もかければ出来上がると思う。以上で管球式アッテネータの作りの説明は終わり、ソリッドステート用について述べる。

ソリッドステートアンプのアッテネータ

ソリッドステートの場合は、前記の管球式の(と)多少条件が変わって来る。

第3図がその説明の為のものである。左側の管球式の場合はアッテネータ(ポリュームの場合も同じ)の二次側、右側の抵抗値、つまりそれを受けるアンプの入力インピーダンスが数百キロ~1MΩもあり、かなり高いのでほぼ数値通りに働くのだが、ソリッドステートアンプの場合、数十キロオーム以下の入カインピーダンスの影響を受けて、アッテネータの二次側の抵抗値が大きく変わるものである。

第3図

今、仮に、全抵抗値が100kΩのアッテネータを、入カインピーダンス47kΩのソリッドステートアンプに入れて、そのアッテネータを全開から約1/5ばかり回したとする。アッテネータの一次側は100kΩで、二次側は80kΩになっている。すると、その80kΩとアンプの入カインピーダンス47kΩがパラレルになる為に、

と大きく、その合成抵抗値が変わる事が解る。

つまり、図の一番右端に画いたように、アッテネータの全抵抗値が

20+29.6=49.6(kΩ)

で、その時の減衰量は29.6/49.6で0.597(−4.48dB)になる。

同じアッテネータを管球式のものに使用すると、その二次側の抵抗値が、アンプの入力インピーダンスに、あまり影響を受けないで、80/100=0.8(−1.94dB)しか減衰しない事になる。

そうなると、同じアッテネータでも管球式のものに使うのと、ソリッドステートアンプに使うのとでは、同じ回転角でも、−4.48dBと−1.94dBといった具合に、大きく違って来る事が解る。

第3表が、上記の計算を克明に行なって、それぞれ希望する減衰量になるように作り上げた二つの違ったソリッドステートアンプのアッテネーターである。勿論、この数値はクリスキットP-35(入カインピーダンス47kΩ)の為に計算したものであり、それより低いか、或るいは高いインピーダンスを持つソリッドステートァンプに使用する時には、それぞれの回転角により、多少の変動はあるが、33kΩ~65kΩの範囲内の入カインピーダンスを持つソリッドステートアンプには、その変動が実用上、耳で解る程大きくはないので、殆どのソリッドステートパワーアンプのアッテネータとして使用する事が出来る。

第3表

第5図は、それぞれのアッテネータを、クリスキットP-35に使用した時の入カインピーダンスのカーブである。念の為に計算と実測をしたので、参考になればと思って示しておいた。

第5図

以上のように、アッテネータを使用すると、ボリュームに比べて、その減衰量が正確であり、その位置が接点により、いつでも元の位置に戻す事ができるというメリットがあるばかりではなく、ボリュームの特性ケース内での容量(C)変化がないので、周波数特性のウネリが出る事が非常に少ないという特徴がある。

第4図

写真4がクリスキットP-35にアッテネータを取り付けた時の様子である。

プリアンプのバランスコントロールは、普通のB型ボリュームで良いと思うのだが、アッテネータにしたいと思われる方は、その全抵抗値が500kΩであるから、上記のアッテネータの代わりに、20個づつの24kΩ抵抗を使ったものを使用すれば良い。

なお、AC型を使いたい方は、アッテネータに使ったのと同じ抵抗を、逆になるように取り付ければ、第6図のグラフにあるようなカープになるので市販のAC型のものより良いバランスコントロールを作る事が出来る。

第6図