08.01
モノシリックICによる前段直結差動プリアンプの1 1
サブアンプという発想の上に立って作り上げた、クリスキット ミニP-1の性能が予想外に良く、16cmスピーカ駆動用としても、申し分のないものが出来上がった。始めは、今回述べるプリアンプも、あくまでもサブアンプという事で、間に合わせ的な回路のものを考えていたのであるが、同型のパワーアンプの方が、クリスキットP-35に近い音質という事で、ウルサ型の方々に、おほめをいただいたとなると、それに合わせたプリアンプは、ただ、小型で安価な実用機というだけでは、釣り合いが取れなくなってしまった。と言う訳で、電波技術の編集室にお願いして、一ケ月原稿を飛ばして貰い設計を出発点に戻し、本格的なプリアンプが備えているコントロール部を設け、試作機も4台、回路を変えたり、部品配置を動かしたり、おかげでシャーシの製作を依頼した鈴蘭堂の坪木さんに “もう変更はないのでしょうね” と少々嫌味を言われた位である。
お蔭で、当初予定していたのより、はるかに良いものが出来上がった。自分でも手を焼いている程の懲り性も、時には役に立つ事があるものだ。
出来上がりは、カット写真に見られるように、コンパクトで(95×195×235mm;つまみ、ゴム脚を除く)前に述べたパワーアンプ ミニP-1と同じ大きさの、ワリカシ、カッコイイ、プリアンプにまとめる事が出来た。
〔回 路 篇〕
思ったより高性能だったミニP-1と、バランスがとれたものという事になると、
①出来るだけノイズの少ない事(出来あがったもので調べたら、クリスキット マークⅥカスタムよりSN比が良く、少々オンボロのコーンスピーカでも耳をくっつけないと、何も聴こえない位である)、ICとは誠に良く出来たものであると思う
②テープモニターも出来る事
③クリスキット マークⅥカスタムで好評だったローブースト スイッチを1段だけ付ける事
④RIAAが出来るだけ正確な事
⑤2電源アンプに有り勝ちなオン・オフ時のノイズが耳に聴こえる程出ない事
⑥始めてハンダごてを持つ人にも、短時間で作れる事
⑦テスタなしでも作れる事(つまり位相補正や調整が一切不要であり)したがって
⑧誰れが作っても同じような特性のものが出来る事
⑨ミニP-1とのパランスを考えて、出来るだけローコストで作れる事
⑩音質上、及びRIAA、SN比などの特性維持のために要する高級部品は、マークⅥカスタムと同じものを使う事
⑪デンオンなどのムービングコイル型カートリッジなどにつないだ時、ステップアップトランスを使わないで、直接鳴らす事が出来て、しかもその時のノイズレベルがスピーカに耳をつけなければ聴えない程小さい事(ローノイズICのおかげで、この点は問題なく出来た)
以上は、我ながら無理な注文を並べたものである。次に順を追って説明する。
プリアンプ用IC
各メーカーから、 いろいろなIC(Integrated Circuit)が発表されているが、その内、メーカー製のチューナ、テープデッキ用プリアンプとして使われ、定評のあるμPC33C(NEC)を採用した。第1図にその外観(写真2)及び、内部構造を示しておく。
こんなに小さな部品の中に、びっくりする程、沢山のトランジスタ、ダイオード及び抵抗が入っている。これでステレオ用2チャンネル分のアンプが出来るのだから、文字通り驚きである。
例によって、この内部構造だけだとアマチュアには何が何だか解りにくいと思われるので、プリアンプとして必要な部分のみ、片チャンネル分ひっぱり出して、私が書き直したのが第2図の等価回路である。これまた全段直結差動アンプで、最も基本的な回路の一つである。私にとっても、 P-25以来手馴れた回路である。
ICとしてコンパクトに作り上げる事を考えてQ1~Q4を使って、2段の差動アンプにしてある。Q5の石は、自分でプリント基板の上にトランジスタ等をくっつけて行くのだと不要なのだが、ICがこわれないようにというレベルシフト(level shift)の働きをしており、そのエミッタからの出力信号がQ6のドライバーの石に入り、ダーリントン(darlington)接続してあるQ7及びQ8で構成されているコンプリメンタリー出力から、信号を送り出す仕組みになっている。
イコライザ段
1番端子から6番へ戻すNFBの回路には、イコライザ段ではRIAA素子を入れてあり(E. Q. Network)、フラットアンプ用には680Ω(R-16)と33kΩ(R-1)の2本で、 フラットなNFBを掛けてある。
この等価回路と第3図の全回路図と合わせて見れば、回路の仕組みが解り易いと思う。(全回路図中点線でかこった部分がプリント基板であることは言うまでもない)。
RIAAの方は、回路インピーダンスの関係で、 クリスキットマークⅥカスタムに使ったものと同じ値の抵抗、コンデンサは使えないので、抵抗を1/5に変え、コンデンサを5倍するだけで周波数特性は全く変わらないところから、本機に採用したわけである。だから測定の項で述べるように偏差が±0.2dBにおさまっている。
R-16(680Ω)を小さくすればする程、NFB量が増えるので、最大許容入力は増えるが、その分だけゲインが落ちるので、あまり感心しない。
(プリント基板上の部品番号は、回路図に入れると煩雑になるので、IC等価回路の方に入れておいた)
フラットアンプ
フラットアンプの方は、周波数補正が不要なので、680Ωと33kΩとによるフラットなNFBが掛けてあるこのICは裸のゲインが80dBとかなり大きいので、NFBを掛けた後でも36dBのゲインがあり、少々大きすぎるため、VR-6(B100kΩ)によって加減してある。このレベル調整用半固定ボリニームは、フラットアンプの前に入れても良いのだが、SN比のためには、本機のように後段に入れた方が有利である。
クリスキットマークⅡ(「Ⅵ」の誤り)カスタムの時にも述べたが、標準的な出力を持つムービングマグネット(Moving magnet)型のカートリッジであるグレースのF-8Lとスピーカに、普通の能率を持つもの、例えばJBL LE175DLH+LE14Aとか、ナショナルHH45+パイオニアPM500+コーラル12L-1などのものを使った時のレベルは、イコライザ段で40dB(100倍)、B型パランスで1/2と落ちた時に、50倍のゲインが残り、それをフラットアンプで2倍かせいだとして、100倍。パワーアンプのゲインが30倍あれば、3,000倍(70dB)になる。この計算によると、市販品のプリメインアンプのプリアンプ部のゲインは、どれも少々大きすぎる感がある。だから、大低の場合、プリアンプのボリュ‐―ムを9時の所迄まわしたら音が大きすぎる場合が多い。
本機では、このVR-6(B100kΩ)(フラットアンプの前に置く場合はB50kΩより大きいといろいろ問題が残る)を加減する事によって、フラットアンプのゲインが0から33.7 dB(48.5倍)迄、加減出来るので、イコライザ段の37 dB(72倍@1,000Hz)と掛け合わせると3,500倍(70.8 dB)ものゲインがとれるので。ムービングコイル形のカートリッジも、ステップトランスが不要なのである。
テープモニター
本機を小型化し、コストダウンを計り、しかも作り易くするために、テープモニタースイッチはクリスキットマークⅥカスタムに比べていくらか簡単にしてある。と言っても市販のプリメインアンプのそれと違って、テープレコーディングアウトプット端子には、このスイッチを回さないと信号が出て来ないようになっているので、テープにレコードなどから録音をする時に、始めに針の音が入ったりする事がない。
全回路図、及び実体回路図(第6図)には、テープ録音モニターをしない時の状態を示してあり、ファンクションスイッチのウェーファーⅠの0番ピンから来ている線が、モニタースイッチのⅠ-0に入りそこからⅠ-2を経てⅡ-2へつながり、そこからⅡ-0へ来て、バランス用ボリューム(VR-4=B50kΩ)のホット側(①番ピン)へ入るようになっているのが解る。
ツマミを右へ回して、モニターにすればシャーシの内側から見たスイッチの矢印は左く(「へ」の誤り)動くので、ファンクションから来た線はI-1へ移り、シールド線を通って、REC.OUTPUTへ出て行き、テープデッキヘ信号が送られて、そこで録音された音が、デッキの出力側から、本機のTAPE入力へ入り、VR-3て高音に適当にレベル調整されて、モニタースィッチ(S-2)のⅡ-2へ入り、そこに出る矢印を経てⅡ‐0へくる。そこからバランスポリュームヘシールド線がつながっているから、先の説明と同じように、アンプの信号に入って行さ、増幅されて、パワープンプヘ送られる。