2021
08.08

ソリッドステート回路用 ユニバーサルパワーサプライの1

音らかす

真空管アンプと違って、トランジスタ回路の方は、その駆動電圧が比較的低いために、試作、設計が割合気楽に行なえるものである。極端な言い方をすれば、電池を使ってでも或る程度の実験は出来る。

しかしながら、電源電圧が必要である事には変わりはない。したがって、トランジスタを使って何かをこしらえて見ようと思えば、たとえそれが1.5Vであろうと、60Vであろうと、一電源、二電源を問わずそこに必ず電源がいる事になる。

それが一つの完成したものであり、信頼出来る製作記事として発表されたものを、そのまま同じ部品を使って、回路も全く同じものを作る場合には、まず電源部から作って行けば、その回路を順番に作って行きながら、その都度同機の電源部を使って点検して行けば良い事になる。

中には、トランジスタやICを飛ばす恐れがあるので、スライダックスを使って、除々に電圧をかけるように指示した記事もある。

私共、記事を書く者には、いろいろな実験を行なう必要上、スライダックストランスは必要品であるが、アマチュアの人々には、それが必需品かどうかは疑間である。

しかも、スライダックストランスはあくまで交流電圧用のものであって、回路に必ず使われる直流はとり出せない。だからスライダックストランスを使っても、やはり直流電源回路は必需品という事になる。

これは何もオーディオ回路に限らず、暇つぶしに、ICを使って電子ブザーでも作ってやろうか、てな事で、ICメーカーの発表する回路例を頼りに試作しようと思ったとする。いきなり電源部から作っていったとして、もし、電圧が足りなければ、もう一度パワートランスの買い直しから始めなければならない。

これはほんの一例であるが、トランジスタを使って何かを作るためには、電源がなければならないもので、そのために『直流安定化電源』なるものが市販されているのであろう。

筆者も、アンプなどの試作に必要を感じて、あちこちのメーカーからカタログを取り寄せて見て驚いたのであるが、どれもこれも、びっくりする程高価である。最近非常に要求度の高くなった二電源のものという事で、菊水電子のPOW35-1だと、±35Vまでとり出せるようになっていて便利がよいので、値段を調べて見たら¥125,000、とてもアマチェアに手の出せる代物ではない。しかも最大1Aまでしかとり出せない。¥50,000以下のものだと、一電源しかとり出せないで、100mA以下のものが多い。

オーディオアンプなどに比べてはるかに需要が少ないという理由はともかく、これはメーカーが儲けすぎているわけではなく、これらの市販品がすべて、定電圧、定電流に設計されていて高級品となると、フの字型(第1図参照)特性を持っているために、このようにびっくりするような値段になるのだ、と思われる。しかも、アンプ等によるマスプロダクションによる生産と違って、手作りと言えるほど丁寧に一台ずつ作られるものであるためにやむを得ない。

第1図

部品などの生産工場での、品質管理ならともかく、私共アマチュアが、アンプなどを試作するときに使用するのに、市販品のような定電圧、定電流の必要は全くない。仮に、このように安定化された電源を使って、例えばイコライザアンプの試作をして見ても、それを、プリアンプ本体に組み込む時にそのプリアンプに十数万円もかかる安定化電源を組み込む事が出来ないとなると、何のために試作機を安定化電源て駆動したのか、全く意味のない事になる。

市販品になけりゃ、手前で作りゃ良い、というわけで、ここに述べる万能型電源を作る事になった。

回路及び部品について

ソリッドステート回路の進歩にともなって、先に述べたフの字型特性回路を始めとし、真空管時代には考えられもしなかった定電圧、定電流回路が、いろいろな刊行物に発表されている。ICを使ったものから、100W級のパワートランジスタを使ったものまで、その回路例を並べるだけでも、本誌10ページ以上になる位である。

先程に述べたように、最終製品としてのアンプなどに使われるものと同程度の安定度があれば充分で、アマチュア用には無意味な精度のあるものを作って見ても仕方がない。どうせそのアンプを使用する条件である家庭での商用100V電源が95V~107Vとかなり開きがあり、しかもその電圧値が刻々と変わるからである。

重箱の隅ををつつくという言葉がある。まん中に穴が空いていたのでは、何のために、爪楊子なんかを使って、克明に掃除したのかわからない。

日本には計量法の中に、上皿てんびんの四隅テストなる項目があった。第2図がその説明である。

第2図

てんびんがテコの原理の応用を使ってこしらえたものであるかぎり、支点から一番遠い隅に物体を置けば必ず読みが狂うものである。

はかりでものを測る時には、まん中に置けばよい、と私は思う。勿論こんな法律はアメリカやヨーロッパにはない。こんな検査を通ったとしても、軸受けの材質に、すぐ経年変化が起こるようなものを使ってあったとしたら、何のための四隅テストなのかわからない。

こんなに厳しく法律でテストしたはかりを使っていながら、日本の毛糸に色のバラツキが多かったり、洗濯ですぐに色の出てしまうものがあったりするのもおかしな話ではある。

重箱の隅をつついてばかりいるのも考えものではなかろうか。

したがって精度よりも、むしろレギュレーションが良くて、2A位までとり出せるもので、表題に述べたように、一電源、二電源の両方に使用出来しかも6~60Vまで6V刻みに、いろいろな電圧を得る事が出来るものの方が良ぃ。2Aもあれば、通常のパワーアンプの回路では、そのフルパワーまでのテストが、テストベンチで行なう事が出来る。

このような考えから回路図(第3図) に示すようなものが出来上がった。第1表がその部品一覧表である。

第3図

第1表

この回路が出来上がった時点で、日頃ソリッドステートアンプでいろいろお世話になっているNECの応用技術課の方々に見せた途端に、パーツセットが揃い次第わけて欲しい、と5人の方々に頼まれた。このように、全く実用に徹したものは、市販品には見当たらないからである。

アンプでも同じ事が言えるが、商品となると、商策上の制約、カタログバリュー、高級品らしい見掛け上の性能などの理由のために、クリスキットマークⅥカスタムの項でも述べたが、市販品にはなりにくい、という問題がのこるのであろう。

電源トランスから、上下それぞれ5本ずつの中間タップが出ていて、それにセンタータップが加わっている。勿論こんなトランスは市販品にはない。日頃クリスキット用トランスを作ってもらっているところに頼んで、特製したものである。一次側に95、100、105Vの端子が出してあるが、これは地域により、比較的電圧の高いところと、常に100V以下といったところが多い実状に合わせたものである。

交流をブリッジ整流すると、その時の直流電圧は、×√2=1.414倍になるものだが、トランスの巻線抵抗、ダイオードの順方向抵抗等が働くので:本機の場合は、交流24Vの時に30Vの直流が得られ、約1.2倍になっている。

トランスの一次側に入っている電源スイッチを入れると、スタンバイ(Stand By)になり、右端のアウトプットスイッチが切れている限り、ボルトメーターは所定の電圧を指すが、フロントパネルヘのアウトプット用バナナプラグ用ソケットには電圧が出ないようになっている。これは、回路のテストなどを行なうときに、不意に最大定格以上の電圧が印加されるのを防ぐのに必要である。スイッチは、日本開閉器のSP-2022を使った。サトーパーツあたりのものの3倍位するがスナップの歯切れが良く、小型で、デザインも良くその上、電流容量も大きいので、少しぜいたくだと思ったが採用した。永年使うものである。部品がこわれたために使えなくなるのは不愉快だ。

トランスの二次側が4.5~23V ACまで5段に切り換わるようになっているので、二電源では6V刻みに、一電源では12Vステップで出力電圧が切り換わるようになっている。

このスイッチは、アルプスのY型ロータリースイッチでも使用できると思うが、電流を流しながら切り換える事も考えて、接点の丈夫な上に、パネルにうまく納まるように、東光のIFS-2Uを使用した。こうすればOUTPUT用のスイッチも同じ列に並べる事が出来るので、非常に使い易いものになる。アルプスのY型ロータリースイッチの倍位の出費になるが、永い間使用する道具である事を思えば、わずかのコストアップは当然だと、私は思う。

アースラインを切り換える事によって、本機を二電源、一電源に方式を切り換えるためのスイッチがもう一つ要る。電圧0Vのアースラインといえども、一度出て行った電流は必ずアースヘもどって来るので、このスイッチは品質第一に選ばなければならない。その上、使い易さと、パネルデザインの意味もあって、同じく日本開閉器製のSP-2012を使用した。

整流用ダイオードは、パワーサプライとしての、レギュレーションの良さを考えると、その電流容量にかなり余裕をもたせたものでなければならない。そんな意味から、5B2のように、プリッジをモールドしたものはさけた方が良いと思う。NECの6B4MTは最大電流が5.2A、逆耐圧が280Vであるから、本機の連続使用には充分すぎる位の余裕がある。(写真1参照)

コンデンサは、クリスキットP-35で立証済みの、マルコンの1H472を使用した。後に性能について述べるが、リップル交流電圧は1mVと、かなり低いので、本機を殆どの回路テストに使用できる。これは材料節約のためにプラスマイナス各一本ずつでも良いかも知れないが、テストするアンプなどの回路の過渡特性、スルーレートなどのためにやはり、二本ずつ使って、総計18,800μF位は必要であろう。

この時の残留交流ノイズの1mVの波形をシンクロスコープでとらえたものが、写真2である。山の数が読み易いように感度を上げたために、線が太くなっているが、下側の写真に山が6つあり、上側には12コの三角波が出ているところからみて、両波整流後のリップル分の残留であると思われる。

写真2

最後にメーターであるが、始め日置のMK-38を使用する予定でいたが、同社が、アマチュアマーケットに重点をおいていないせいか、石油ショック時にベラボーに値上げして以来一向に下げないので、クリスキット用に特注で作らせたわけである。性能が大して変わらないのに何百円のものならいざ知らず、一個当たり2倍以上も高価なものを使う事に抵抗を感じたわけである。20kΩ/V位のテスターよりはるかに精度も高いし、テスターのように直流、交流両用で、しかも電圧、電流の両方を測ったり、ついでに抵抗値まで測るものと違って、30V DC及び2A DCのみを読み取れば良いのだから、信頼度はかなり高い。カット写真を見れば解るが、Chriskitのマークも入っているし、デザインも悪くない。目盛りも読み易いように工大した。