08.17
ヒースキットの電子電圧計を考える 2
出力部
出力段は第1図右側上部で、差動アンプで増幅された電圧が、Q9とQ10のベースに入ってくるところから始まります。この2つの石はエミッタ・ホロワで、DC電圧測定時には、その出力が直接メータを振らせるようになっています。2つの石は先程述べたQ8とQ11とにそれぞれ直接つながっているわけですからその動作は前の2つと同じようにというか、つまり比例して動作することになります。
VOA切換スイッチをACボルトに切り換えると、Q9とQ10のエミッタにはもちろんACボルトが出てきます。本機のメータはDC200μAですので、エミッタから出てくるAC電圧を、そのままメータに入れるわけにはいきません。したがって、D1~4のブリッジ形整流器によって、直流にかえたものをメータに送り込みます。R17はAC電圧メータの校正用で、これはDC電圧用のR18と同じ働きをします。DC、ACともそれぞれ水銀電池など、その直流電圧値の比較的正確なもの、およびすでに校正されたメータ類を使って、メータの読みを正しくするための校正用です。
オーム(Ω)用校正半固定抵抗も同じ原理で、オームの法則通り、抵抗値を変えることによって、電圧を動かすことはご承知の通りです。その校正は精密抵抗などを使って行なうように指定されています。
電源供給部
電源は家庭用ACライン電気および18Vの乾電池により行ないます。D6とD7は両方ともツェナー・ダイオードで、D6は9.1V、D7は13Vで、共に電源部のレギュレーションを良くするために使ってあります。D6はかなり高価なものですが、測定器などの場合、供給電源がふらつくと正しい測定ができませんので、 レギュレーションを良くするためにはどうしても必要です。その結果、トランスの2次側、およびバッテリの18Vが、回路へのB+供給には9Vまで落とされます。
回路図でお解りのように、ACライン・コードにはアース線がもう1本余分に出ていますが、これはアメリカ、ヨーロッパの場合UL(Underwriter′s Laboratory)規格があって、家庭用に使用する場合でも、このUL規格が適用されますので、安全のためについているのですが、日本の場合、壁のコンセントにアース・ポイントがありませんので、使用できません。が、別に問題はありません。したがって遊ばせておくことになります.
各回路およびその部品の働きはこれでだいたいの説明は終りますが、 2、3書き落したところがありますので、ちょっと説明を加えます。それは、AC電圧測定の折の周波数特性の調整用トリマ・コンデンサ(C2)および(C4)です。方形波をこの電圧計に入れて、その波形をオシロスコープで見ながら最も頻繁に使用する各周波数のそれぞれの波形が完全に方形波になるように調整できるようにしてあります。といっても、本機はオーデイオ用ミリバルとはその使用目的が違いますので、それ程厳密な考え方は不必要だと思いますので、詳細は省略します.
私共アマチュアがハイファイ・アンプの測定をしたり、自作アンプの調整等を行なうのに、一番の問題点は、測定器だと思います。メーカーの研究室や、一部のプロの方々のように、何十万円もする機器を使用することはまず考えられません。といって、私の経験ではこれらアマチュア・グレードの測定器はどうしてもその精度に信頼がおけないものです。特に測定器は、できるだけ頻繁に校正をしなければその精度はあまり信頼できないものです。
本誌によく執筆されている武末数馬氏なども、アンプの測定にあたって、計器類などをよく校正するように述ベておられますが、一般アマチュア用測定器はそう簡単に校正はできない場合が多いようです。といって、いちいちメーカーに送って校正しなおしてもらうのもあまり実用的ではありません。その点キットから自作する場合、先に詳しく述べたように、回路の構造が解っているわけですから、いつでも、必要に応じて比較的簡単に校正ができるわけです。
マランツのパワー・アンプなどにもちゃんとメーターがつけてあって、素人でもプレート電流や、DCバランスが合わせられるようになっているのもこの例と同じだと思います。日本製のパワー・アンプにはほとんどこんな考慮は払われていません。測定器においてはなおさらです。だから、私はいつでも測定器はキットを使って自作しているのです。もちろんそれ以外に、キットの場合、品質の割りに安価で入手できるのも大きな理由ではありますが……。その上、電気の勉強もできるので一石二鳥です。
しからば、特別な器具や道具だてがなくて、信頼性のおける測定器がキットから自作できるか、ということになります。
本機の場合、63ページもある説明書があって、非常に解りやすい英語を使ってあり、その回路および部品の働きの説明はもちろん、組立てについて1工程ごとに実体図つきで説明してありプリント基板、ハーネス等を活用して電気のことがあまり解らない人々にでも、間違いなく組み立てていけるようになっています。
電圧計のように、その切り換えスイッチが回路図で解るように、かなり複雑な動きをするのですが、うまく立体構造になっていて(第7図参照)すらすらとできあがっていくのも楽しいものです。
私も時々製作記事を書いていますように、自作派でパーツ屋を歩きまわって部品を集めてまわり、いろいろ工夫をするのが好きなたちですが、それだけに大量製品の強みがよく解ります。金型なり、冶具を十分活用して、大工場で大量生産したもののように、なかなかうまくいかないものです。
本項が今まで真空管のみにたずさわっていて、ソリッドステート回路に不馴れな方々が、 トランジスタなどを理解されるのに、何かの役に立てば幸いと思います。(図面類は、HeathCompany のご好意によります。
以上、ラジオ技術 1971年7月号