2023
02.01

健康でなければがんにはなれない、と思い当たった。

らかす日誌

今日のタイトルを見て、

「大道の頭は狂ったか?」

と呆れ果てた方もいらっしゃるかも知れない。がん病巣が見付かるということは、健康という世界から追い出されることではないか。健康でなければがんにはなれないとは、いったい何のことだ? バカめ!

いや、論理的に考えれば全くその通りである。しかし、なのだ。先週末から今週初めの私を考えると、そうとしか思えないのである。

28日に1つ目のセカンドオピニオンを求めに高崎まで行ったことはご報告した。その際、週明けの30日に同じ病院でMRIの検査を受けることも書いた。そうそう、31日はさいたま市まで2つめのセカンドオピニオンを求めに行くこともつけ加えた。

健康でなければがんにはなれない

とは、その日々を振り返っての感想なのだ。
何しろ、高崎の病院までは片道40㎞ほどある。往復で80㎞。これを2回繰り返したから160㎞。さいたま市の病院までは片道70㎞程だ。往復140㎞。つまり、たった3日のうちに私は300㎞のドライブをこなした。
病院に着けば、椅子に座ってお医者さんと会話するか、硬いベッドに仰向けに寝て、MRIのたてるガランガラン、ドコドコドコドコ、という音に耳を傾けているだけである。疲れるはずはない。だが、私はすでに73歳。1日平均100㎞のドライブで、何となく疲れてしまったのだ。

「ああ、健康でなければこんな長距離ドライブは続けられないな」

と感じ入ったのである。
タイトルにこめた私の思い、ご理解頂けただろうか?

さて、話を戻そう。まずは30日のMRIである。
予約によると、検査が始まるのは12時40分で、その1時間前に来て欲しいとのことだった。遅れてはいけないと早めに出たためか、10時半には到着した。

「済みません。ちょっと早すぎたようですが」

と受付を済ませる。その時、不思議な声を耳にした。

「お客様」

という声である。目を向けると、事務の女性が健康診断を受けに来た人達に呼びかけている。MRIの検査は、人間ドック・健康診断のセクションで行われる。確かに、ここに来ている人達は病を抱えているわけではない。ほとんどの人が健康体であるはずだ。だから、患者=患っている人=ではない。自分は健康であるかどうかを判断してもらうサービスを受ける代わりにお金を払う人達である。確かに、論理的にには「患者」ではなく、「お客様」である。しかし、ここは病院だ。病院で「お客様」という呼びかけは初めて聞いた。

最近の病院で時折、「患者様」という言葉を耳にしたり目にしたりすることがある。私を不快にさせる言葉だ。病院としては、お客様である患者をできるだけ丁寧に表現しようとしているのだろうが、度を過ぎた敬語は、逆に

「あんた、俺を馬鹿にしてないか? それともからかってんの?」

と思わせてしまう。日本語は難しいのだ。
そんな言語感覚を持つ私は、「お客様」と言う言葉に、すこぶる気分が良くなった。こんなところにも気を使っている病院は、きっと全てが秀逸であるに違いない。そんな思いを抱いた。

それが間違っていなかったことが間もなく分かった。

「大道さん、12時40分のご予約でしたね。でも、少し早めることができるかも知れません」

12時40分まで読書しながら待とうと思ってソファーに陣取っていた私は、そう声をかけられた。えっ、早く検査してもらえるの? それはありがたい!
そして、本当に早まったのである。検査開始は12時過ぎ。何と40分も早くMRIのベッドに乗ることができたのだ。

あなた、予約を取って行った病院で、予約の時間ピッタリに受診できたことはありますか? ましてや、予約時間の30分、40分前に診療してもらったことはありますか? 大病院は、予約時間から1時間過ぎても待合室で待っていることが多いのではありませんか? 診察が終わっても、会計できるまでに延々と待たされたイライラするのではありませんか?

そんな「病院の常識」をあっさり壊してくれたのが、この病院である。そうか、病院だって、患者のことを本当に考えれば、出来る事はまだまだたくさんあるんだ! ほかの病院も見習ってはいかがか?

MRIの機械はPhilips製だった。オランダのメーカーである。ベッドに寝ると、検査技師さんが音を遮断するイヤーパッドを付けてくれた。

「これ、音がすごいんですよ」

言葉通り、イヤーパッドを付けながらもガラガラドンドン、壮大な音が鳴り響いた。同時に、お腹のあたりが何だかホカホカしてきた。終わって技師さんに聞くと

「この機械、出力が強いんです。だから、お腹のあたりにある水分が幾分温められるんですよ」

これでがんかがんもどきかが分かるのなら、音もお腹のぬくもりも意に介さない私である。

翌31日はさいたま市の病院である。行きは下道を通ったので約2時間半かかった。予約時間は1時半だったが、12時前には着いた。昼食はカツカレー。高崎のS院長からはデンプン抜きの食事を指導されているが、米やパン抜きの外食は見つけることが難しい。ご飯少なめと注文し、さらに幾分かご飯を残した。何もしないよりましだろう。

食事を終えて12時15分には受付した。
事務の女性が寄ってきた。

「あのう、先日お電話を頂いたときに申し上げるのを忘れたのですが」

そうか、私に関心があって寄ってきたのではないらしい。まあ、それは許そう。何を忘れたの?

「セカンドオピニオンということですが、当院ではセカンドオピニオンは30分1万円ということになっております。はい、30分を越えて1時間までなら2万円ということになりますが、それでよろしいでしょうか?」

いや、よろしいかどうかと訊かれても、私には料金を決める権限はない。そうですか、というしかない。
しかし、30分1万円? 確か弁護士は1時間の相談で5000円ではなかったか。医は算術なり、か。

「それで、30分コースになさいますか? それとも1時間?」

あのねえ、私は瞬時の快楽を求めて女を買いに来たのではないのよ。私の前立腺がんについて専門家の深いお話、見解を承りに来たのよ。その話が30分で終わるのか、1時間以上かけねば納得できないかは、話してみなければ分からないでしょ?!
憤りが私の中で膨らみ始めたのは、皆様にも御納得いただけると思う。

そんな病院である。予約時間が守られるはずがない。遅れること、約30分。

お医者さんからも料金の説明があった。同じことを繰り返すと

「じゃあ、できるだけ30分コースで行きましょう」

とのお言葉。少しは私の財布の中身を心配してくださったらしい。
パワーポイントで作成したらしい放射線治療の概要をディスプレーで見せられながら、各種の放射線治療の説明、特徴を聞いた。まあ、その程度ならネットで調べれば分かる範囲である。

こちらが聞きたいのは1つだけ。
先生、あなたの前立腺にがんが見つかったら、どの放射線治療を選びますか?

「私なら、うん、やっぱり重粒子線でしょうね」

重粒子線治療にかかる費用は約200万円。保険適用なので本人負担は3割、約60万円との説明もあった。かなりの高額である。ほかの放射線治療はもう少し安いらしいが、さて、どうする?

片道70㎞を走り、1万1000円(30分の制限時間で終わったらしい。消費税込み)を支払って得たのは

「私なら重粒子線を選びます」

の一言。うむ。

さてどうしよう? と考えるのは、30日のMRI検査の結果が出てからである。がんもどきなら治療せず。がんだったら……。
どっかに60万円落ちてないか?

そして今日は朝から原稿を書き、明日は午前中取材である。健康でいるしかない私なのである。