2023
04.16

79.9㎏!

らかす日誌

体重がとうとう80㎏を割り込んだ。本日入浴前、全裸で体重計に乗ったら79.9㎏! 快挙である。
なにも、体重減を目指して糖質制限を続けているわけではない。前立腺に巣くったがん細胞を兵糧攻めにするのが狙いである。だから、体重が落ちるのは副作用、副反応である。
薬なら

「そうですか。だったらこの薬の服用を止めて下さい」

という話になるのが副作用、副反応だが、こんな副作用、副反応ならもっと激しくてもいい! と私は思う。

無論、明日はリバウンドして80㎏を越えるかもしてない。現に、私の体重はしばらくの間、81㎏を中心に上下を繰り返していた。だから基準値が1㎏下がっただけになる可能性は十分にある。でも、だ。なーに、糖質制限は続けている。基準値にはこれからも下がり続けるはずである。ポッコリお腹とは無縁なスマートな私が戻ってくるはずである。

考えてみれば、私が自分の体重を意識したのはこれが3度目である。
最初は高校3年の時だ。当時の私は柔道部のキャプテンで、身長は182㎝あるものの、体重は72〜73㎏程度に止まっていた。柔道が強くなるため、できてばもう少し体重が欲しい。だが、食べても食べても増えない。ま、そんな体質なんだろうと諦めていた。

それがある日、何の気なしに鏡を覗くと、何だか顔がむくんだうように膨れている。ん? 体調は何処も悪くない。なんでむくむ? それとも鏡が歪んでいるのか? あるいは目の錯覚か?

体重計に乗ったのは、多分学校での身体検査の時である。体重計に乗ると、それまで73㎏止まりだった針がそこで止まらず、スーッと75㎏を指した。

「えっ、俺が75㎏!? そうか、やっぱり見間違いではなかった。俺、体重が増えてるんだ!」

もっとも、だからといって柔道が強くなったという思い出はない。

2度目は名古屋に単身赴任していた時だ。それまで料理などしたことがない男の単身生活。当初は毎日3食、外食で済ませていた。ところが、それでは済まなくなった。
それでなくても、家庭が2つに分かれれば費用がかさむ。その上3食外食では、家計が持たないことに気が付いたのである。やむなく、朝食と休日の食事は自炊することにした。したかったのではない。そうするしかなかったのである。

独り暮らしの夕食は鍋料理が楽である。白菜、ネギ、ニンジン、エノキダケ、豆腐……、食材を切る。それに加えるのは、高価な牛肉は敬遠し、安い豚のバラ肉が多かった。全部を鍋に放り込み、コンロに火を点ければそれで終わり。あとは煮えるのを待ってポン酢で頂く。食べ終われば雑炊を作る。こんなに楽な料理はない。

困ったのは、野菜、中でも白菜の処理である。たった1人で食べるのだ。1玉では大量に残る。4分の1でも、8分の1でも、1人用には多すぎる。次に鍋料理をするのは少なくとも1週間後だから、残りが出れば食べるまでに痛んでしまう。もったいない。
と考える、生来ケチな私は、8分の1玉買ってきた白菜を1度の夕食で食べきろうとした。白菜をそれだけ使うのだから、勢い、ほかの食材も増える。鍋の7割を食べると、お腹がパンパンになる。しかし、まだ鍋には残っている。ここで箸を止めたら捨てるしかない。それはもったいないだろう。
挙げ句、鍋料理の締めは雑炊だ。少しでもいい。雑炊も食べなくては……。

という食べ方をして、食事が終わると身動きが取れなくなり、30分ほど横になって消化を待つことが数度重なった。そんな時、会社の健康診断があった。

「大道さん、増えたね。はい、83㎏」

83㎏!

度肝を抜かれた。朝日新聞に入って以来、身長182㎝、体重73㎏の長身、スリムさで周囲のやっかみを招き寄せてきた私ではないか。それが、何? 80㎏の大台を軽く突破して83㎏だと!

そういえばあの頃、2人の娘が口々に、

「お父さん、お腹が出て格好悪い!」

といっていたなあ。
いや、娘の批判などどうでもいい。私は己が許せなかった。この私が、中年太り? それは世の女性たちの期待への裏切り行為ではないか!

鍋料理をして

「もういいわ」

と思うまで食べたら、

「お百姓さん、ごめんなさい}

といいながら、残りは勇気を持って廃棄することにした。もったいないが、私は中年太りと闘わねばならない。そう、私は闘ったのである。
結果は敗戦続きではあったが。

自分で節制するだけでなく、妻女殿には

「テーブルに載せる料理を減らして欲しい」

とお願いした。それまでの夕食の膳には6、7品が並ぶのは当たり前だった。生来貧乏性の私は、並べられれば総て胃袋に納めなければ済まないような気がする。だから、並ぶ料理が減れば体重は減る、と踏んだのである。

それだけの対策をとっても体重は高止まり続けた。ズボン腹回りはドンドン膨らんだ。いま私がはくズボンのウエストは91㎝である。おお、かつては79㎝だったのに!
こうなれば、これしかない。開き直りである。

「いやあ、歳を取れば基礎代謝が落ちるから、食べる量を減らしても体重は落ちないんだよね」

「統計によると、高齢者は少し太り気味の方が長生きするんだそうだ。ブクブク太っているわけでもないし、ややお腹にだぶつきがあるとはいえ、私は理想の体型をしているのではないか?」

という歴史があって、今回、そう、数十年ぶりに体重が80㎏を下回った。腹回りの贅肉をつまみながら

「おお、なんだか薄くなったような」

とニンマリする私は、やっぱりナルシストであるのかな?