2021
06.13

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その11 プリアンプのアクセサリー 1

音らかす

前回まで、プリアンプについて、理論的な面から、その性能などについて考えて来た。勿論それで、技術的なことがらについてのすべてを語りつくしたわけではないが、別に連載したアンプの製作記事に、かなり詳細に、その都度述べて来たので、例えば、プリアンプは球か石かという問題についてもそちらの方も参照してもらいたい。

そこで今回は、プリアンプを使用するという側からもう一度見直して見たい。

アクセサリーについて

市販品のプリアンプには、一般に、キット、完成品を問わず、パネル面にコントロールとかスイッチが、デザインの面もその大きな理由であろうが、ところせましと並んでいる。市場にこれだけ商品が出まわっていると、メーカー同志(「同士」の誤り)の競争上、カタログに、あれこれマニアやアマチュアが気に入りそうな事を書き並べる必要もあって、こんな事になってしまったのだと思われる。

そこで、一つそれ等のアクセサリーの中で、全く不必要と思われるものなどについて、一体何故そんなものがつけられるようになったか、を考えて見る。

①ミューティングスイッチ
およそこれ程馬鹿げたものはない。本来、ミューティングスイッチは、 FMチューナ及び短波受信機に使われるものと、録音スタジオなどのコントロール機器の為に考えられたものである。御承知のように、FMチューナで選局する際にダイアルを回して行くと局間ノイズが大きく出て、耳ざわりなものである。これをミューティングスイッチで殺してしまうという、誠にすばらしい発明である。したがって、プリアンプについているものとは、全然性質の違うものなのである。

一方スタジオなどで、録音をしている際に、バックグランドミュージックを流していたとする。ナレーション(narration)が始まると、ミュージックのレベルが下げられる。この時にはミューティングコントロール(ボリュームと連動して、除々に下がって行くようになっている)はなくてはならぬアクセサリーである。元にもどしたときに、以前と同じレベルに正確にもどさなければ、録音及び放送の時に100%モジュレートされないで、録音オーバーや、出力オーバーという事で、トラブルが出る。

これを家庭で音楽を聴く時に応用させようと考えた、オーディオ機器のデザイナーが、あまり頭の良くなかったのか、或るいは頭の良い奴が、少々お脳の弱いマニアを編そうという商魂だと、私は思う。

電話が掛かった時に便利だ、と言う人がいる。ボリュームコントロールで音を落としたら、元の音に正確にもどらない、とおっしゃる。大体もどれば良いのじゃないのかね。機械に頼らなければ、元にもどったかどうか解からないような耳だと、それこそどうってことはない。

使わなくても、あったって邪魔にならない、とおっしゃる人があったら、ちと勉強し直していただきたい。普通このミューティングスイッチは、入力側に設ける事が多い。入力インピーダンスは高く、出力は低くの原則にあるように、入カインピーダンスの高いところにはクロストークが大きくなって誘導雑音を引き易い。

不要なアクセサリーをつけて、音をにごらせたり、SN比を悪くするのは愚の骨頂。

②ファンクションスイッチとモードスイッチ
アメリカ製のプリアンプのファンクションスイッチ(Source SelectorSwitch)には、馬鹿みたいにその切り換え接点数が多い。半分以上が全然不要のものである。テープヘッド入力がその良い例である。多い方が良いと思うのは欲求不満のあらわれである。

多くても、使わなければすむ、という事であれば問題はないのだが、いたずらに回路を複雑にするだけで、大したメリットはない。複雑な物程高級品だと思っている人々を喜ばす以外に、あまり存在価値はない。

モードスイッチ(Mode Switch)もあまり複雑でなければ大して害にならないが、もって行く場所にも問題はのこる。しかも、モノ(Monaural)と呼ばれるブレンド(Blending)スイッチは、いちじるしく音質をそこねるので使わない方が良い。回路中に存在するCとかLの影響(コンデンサや、 コイルばかりでなく、ミラー効果、線間容(「用」の間違い?)シールド線の容量、抵抗によるコイルの働き等を含めての意味)が、それぞれのチャンネル別々に働き合っているので、それをまぜ合わす事は、あまり感心しない。特にトーンコントロールの次段でブレンドするのが、最も音質に悪影響を与えるものである。`

ステレオ装置でモノーラルレコードを聴く時も、モードは、ステレオのままの方が音が良い。実験してみるとすぐ解かる。

③トーンコンドロール
CR減衰型、NF型を問わず、トーンコントロールは音をゆがめるものであるかぎり、良いわけはない。クリスキットマークⅥの製作記事で詳述したので、 ここで再度述べるのは避けるが、特に高域や低域で上がりっぱなしは、はなはだしく音質をそこねるものである。低域はローブースト(低域で上がりっぱなしにならないように工夫したもの)以外に方法がないが、高域の方は、スピーカのところまで話が進んだ時に述べるが、ネットワーク、アッテネータの使い分けで、音質を補償する方が、合理的と言える。

④ラウドネスコントロール
第27図が或るアメリカ製の超一流ソリッドステートプリアンプについているラウドネスコントロール(Loudness Contro1)の回路である。フレッチャマンソン(Fletcher Munson)氏のカーブで知られている人間の耳の音圧に対する反応に応じた音質コントロールをしようと、いう考えである。しかも回路図で解かるょうに、すこぶる簡単な回路で、部品もごくわずかで済む。言ってみれば、わずかなコストでしかも誤差の大きい部品をごまかし的につける事で、大きなカタログバリューが出る代物である。

第27図

カセットデッキのドルビーと同じで今頃になって賛否両論が出ているのを見ても解かるように、いずれも、そんなに簡単な事で大きなメリットを期待する方が間違っている。ラウドネスを入れたときの、あの嫌なブーミーな音がうまくないために、通常は殆どの方がOFFにしているのも当然の事と言える。始めからOFFにする事が解っていても、商品価値から見ればつけた方が良いのかも知れぬ。