2012
12.25

2012年12月25日 厄日

らかす日誌

今日は厄日である。

年も押し詰まって12月25日。この時期には、欠かせない年中行事がある。

年賀状

だ。

私は一時虚礼廃止を唱え、賀状はいただいても、こちらからは欠礼するとの挙に出たことがある。2、3年もすれば賀状が一通も来なくなり、私から始めた虚礼廃止の輪が広がり、やがて全国から虚礼が消えうすのではないか、と夢想した。そもそも、必要な相手には常日頃から連絡を取っており、そのような人には賀状など必要なく、常日頃連絡を欠かしている方には、正月だからといって虚礼を実行することもないではないか。
そんな決断だった。

ところが、来る、何年たっても来る。元日、3日、4日と、賀状が束になってくる。

「ああ、日本人は虚礼から抜け出すのは無理であるか」

実は、向こうのパソコンに、賀状の出し先として私が登録されており、自動的に印刷しているだけかもしれないが、ことは大げさに嘆いた方が面白い。
そう経緯で、やむなく復活した賀状だ。12月もすでに25日。今年の賀状を作らねばならない。

作業は昨日から始めた。もちろん、パソコンを使っての作業である。やるとなれば、

「出しておけばいいんでしょ」

なんて味も素っ気もない賀状はいやだ。相手が読んでくれるかどうかはともかく、私のこの1年、次の1年を相手に届けなければならない。
といっても、

「子供が生まれました」

 「家族仲良くやってます」

などいう写真を主体にした賀状は、作りたくても作れない年代になってしまった。お届けできるのは、私が書く文章のみである。

今年は何を書くか? いちばん苦しい作業だ。が、これは昨日、半日を費やして終えた。よし、コンテンツはできた。あとは、それをハガキにプリントするだけだ。単純作業だ。午前中いっぱいかければ、何ということもなく終わるであろう。

と楽観して今朝を迎えた。

作業にかかったのは、午前9時過ぎである。

「えっ、今日は平日。朝からそんなことやっていいの?」

などと、つまらぬことをご心配めさるな。我が家は自宅と事務所が同居し、目覚めて5歩歩けば事務室に入る。事務室にいる以上、これも立派な仕事で通じる。
それに、だ。東京の本社にいても、これほど押し詰まってくると訪れる人もほとんどなく、やらねばならぬ仕事も見あたらなくなる。自宅から東京の会社に1時間ほどかけて身を移し、ひたすら年賀状を書いている、というのが、この時期の世の常識ではないか。

というわけで、朝から作業を始めた。
異変が訪れたのは、ハガキをプリンターにセットし、印刷を始めてすぐだった。
1枚目は、何のこともなく印刷されて出てきた。ところが、2枚目は白紙のまま出てくる。プリンターによると、紙詰まりが起きているという。

 「印刷されなかったハガキはちゃんと出てきてるんだから、紙詰まりなんてあるわけないだろう!」

だれだってそう思う。私もそう思った。
排出された未印刷のハガキを取り除き、ボタンを押す。すると、再び白いままのハガキが排出され、紙詰まりの警告が出る。
たまには、正常に印刷されたハガキも出てくるからややこしい。何がどうなったか分からないまま、20枚ほど印刷が終わると、もう10時半だった。

おかしい。プリンターに異変が起きている。
メーカー(この場合はキヤノン)の相談窓口に電話をかけた。さんざん待たされた挙げ句、電話口に出た係員の指示に従って給紙ローラーのクリーニングというものを行った。
終わってハガキをセットする。1枚目は正常に印刷された。しかし、2枚目は討ち死にした。3枚目、4枚目も追い腹を切った。

「ダメだよ、やっぱり印刷してくれない」

「はあ、そうでございますか。ご自宅でおやりいただける対策としてはその程度しかなく、その場合は修理にお出しいただくか、お買い換えいただくしかなくなりますが」

という係員の話を、素直に聞き流せる人はどれほどいるのだろう。私は、聞き流せず、頭にカチンと来た。

「あのね、あなた、時期を考えてしゃべった方がいいよ。年末だよ。年賀状だよ。今日までに出したいと年賀状を印刷している最中に起きたトラブルで困っている客に向かって、『修理したら』はないだろう。このプリンターを修理に出したら、年賀状はどこで印刷するの? これから修理に出したら、明日には修理済みで戻ってくるのか? 1月の中旬にならないと戻ってこないよな。だったら、年賀状はどうしたらいいの? 間に合わないだろう。買い換えろというのは分かる。私もそれしかないかと思う。でも、修理って、この時期に勧めることか? 時期を考えずに用意されたマニュアル通りにしゃべっていると、客が爆発するぞ!」

といきりたったところで、怯えたプリンターが

「勘弁して下さい。年賀状だけは、何とかこなしたあとで壊れますから」

といってくれるわけでもない。
電話を切り、何度も印刷を試みた。ハガキを1枚ずつ入れてやれば正常に印刷する。しかし、2枚重ねて入れるともうダメだ。私の脅し方がやさしすぎたのか、平気な顔で白紙を吐き出す。

1枚ずつしか印刷できないプリンター。これなら、プリントゴッコを使った方がいい。そちらの方が手書きの味が出ていい年賀状になる。

さて、どうしたものか。考えているうちに昼食時間になった。となると、今日で残っているのはあと半日。

「新しいプリンターを買ってくるわ」

昼食を終えるとすぐに通い慣れた家電量販店に走り、やっぱりキヤノンのMG6330というプリンターを買ってきた。1万8800円。
プリンターの最需要期だから高いのではないか、と危惧していたが、思いの外安かった。資本主義の原則である需要と供給の原則はどうなったんだろう? なんだかよく分からない世の中だ。

飛ぶように自宅に戻り、プリンターを入れ替える。同じメーカーのプリンターとはいえ、微妙なところで操作が違い、なれるまでに小一時間。200枚ほどの賀状の印刷を終えると、もう外は暗くなっており、妻女殿の声が聞こえた。

「お風呂、わいてるわよ」

賀状作りに追われて何もできなかった1日。

ああ、今年も足早に過ぎ去っていこうとしているなあ。