2013
01.29

2013年1月29日 健康診断

らかす日誌

朝から健康診断に行ってきた。

「えっ、インフルエンザから回復したばかりで、健康診断?」

健康な常識をお持ちの方なら、怪訝な思いを抱かれることであろう。

私だって、こんな時期に健康診断? と思う。インフルエンザで医者の外出禁止令は解けたとはいうものの、体調は万全ではない。いまだに鼻水は出るし、時折咳もある。朝から何となく眠いのは、全身の倦怠感がまだ取れていないからであろう。
健康診断が健康を害する、とまではいうまい。が、何もこんな時期にやることはないだろう? という思いは私も持つ。

それなのに、何故、今日なのか?

私が給料をいただいている会社は、実に懇切丁寧である。私のように定年を迎えた社員を再雇用し、雀の涙ほどとはいえ給料を支払ってくれる。それでお酒が飲めたりもするのだが、再雇用には条件がある。健康、だ。そして、健康状態を証すものとして、会社は健康診断受診を再雇用の条件にしている。
つまり、健康診断の受信を拒否すれば、私は雀の涙ほどのお給料をいただけなくなり、毎日が日曜日になってしまうのだ。
ま、いまでも毎日が日曜日みたいなものではあるが、お給料がいただけなくなるのは困る。啓樹や瑛汰、それに最近は璃子に嵩悟のリクエストに応えるには、ある程度の財布の厚みが必要なのである。
私はやむなく、健康診断を受診せざるを得ない。

では、何故今日なのか?

受診しろとの通知は、すでに昨秋、私の元に届いていた。しかし、嫌なものは嫌だ。できることなら、いや、できるだけ先送りしたい。恐らく、そういう心理が働いたのに違いない。私が、その通知の存在を思い出すのは、いつも夕方すぎであった。すでに指定病院は業務を終わった後である。健康診断の予約を取ろうと思っても間に合わない。

「明日にするか」

明日になれば、また夕方過ぎにならないと受診命令に気がつかない。こうしてどんどん時期が遅れた。流石にこれはまずい、と思ったのは年明け10日すぎであった。
こうして私は、実は21日に健康診断の予約を取っていた。

 

「大道さんでいらっしゃいますか?」

どこかで聞いたような女性の声で電話がかかかってきたのは19日、土曜日の昼過ぎであった。前日、私は東京・築地で開かれた同期会の飲み会に出席、そのまま横浜の次女宅に泊まっていたから、電話を受けたのは横浜である。
でも、彼女、誰だろう?

「実は、21日の健康診断なのですが」

そうか、健康診断を予約した病院の担当事務員さんだ。桐生に来て毎回あの病院で受診してるんで、声に聞き覚えがあったんだ。で、何でしょう?

「そのう、申し訳ないんですが、私がインフルエンザにかかってしまいまして、それで、検診日を先延ばししていただきたいんですが」

申し添えておくが、私はこの時点で、まだインフルエンザを発症していない。だから、インフルエンザといわれても他人事である。はあ、そうか。世の中には、流行に弱い人もいるんだ。インフルエンザが流行ったとなると、きちんとインフルエンザになる。律儀なことである。

「いや、それは大変ですね。はいはい、分かりました。検診日は先送りしましょう。あなたがインフルエンザから回復したら、またお電話ください。その時に、次の日程を決めましょう」

こうして、今日が検診日となった。

「もう治ったの?」

今朝、彼女の顔を見て、まず聞くべきはこの一事であった。セオリー通り、私は聞いた。

「はい、おかげさまですっかり」

いや、おかげさまといわれるようなことは何もやっていないが。

「でも、あなたのインフルエンザ、感染力強いね」

 「はあ?」

 「実は、僕も21日に高熱が出てね、23日に病院に行ったらインフルエンザだって。電話で僕に移すなんて、すごいことだよ。だから、今日は病み上がりで体調は上々とはいえないけど、ま、仕方ないな」

軽妙な会話は人生の潤滑油であると私は信じている。しかし、軽妙な言葉が会話なるためには、両者が軽妙を使いこなす知性を持っていなければならない。
今日は、軽妙な語りかけにしかならなかったが……。

そういえば、見事な受け答えをした人もいた。

検尿から身体測定、胸部レントゲンと進んで、次は心電図、それに血液採取である。心電図を取る部屋に向かうと、白衣を着た女性が注射器を持ってたっていた。こういう時、私は考えるより先に口が出る。

「あなたが今日の吸血鬼?」

これも軽妙な語りのつもりである。そして、間髪を入れず、想像を絶する返事が戻ってきた。

「はい」

これ、本日のベストアンサー、である。

ま、なにしろ、インフルエンザの病み上がりとあって、数値はたいして良くない。血圧はやや高めだし、問診の医者は

「うーん、レントゲンがあまり良くないなあ」

という。

「どの辺が?」

 「ほら、この、左右の肺の先っぽの方がボヤッとしているでしょう。肺炎の恐れもあるんだよなあ」

 「なるほど。でも、私は選集の月曜日にインフルエンザを発症し、いまだに鼻水も咳も出ている病み上がりなんですよ。まあ、そのためじゃないですか?」

ふむ、と腕を組んだ医者は、やがていった。

「まあ、いいか、今日のところは」

健康診断なんて、その程度のものである。

そういえば、着衣のままの体重測定で、82.8kgであった。ということは、裸になれば81kg前後か。
インフルエンザ、ダイエットにはなかなか効くのではあるまいか。

 

明日は午後から東京へ行く。ある桐生人と、原宿の「小菊」で酒を飲むためだ。

「あんたも、桐生じゃ人の目が気になって十分飲めないだろう。東京の魚のうまい店で御馳走してあげるから、行かない?」

断られると思って誘ったら、何と乗って来た。ま、これも仕事の延長である。

小菊の女将さんの顔を久しぶりに見るのが楽しみだ。