2018
03.04

2018年3月4日 不覚

らかす日誌

昨日、不覚を取った。

新しいブルーレイ・レコーダーが届いたのは先週半ばであった。2011年から使っていた現行機の調子がおかしい。やたらとディスクを

「これ、傷物のディスクですからダビングできません」

排除したり、録画ずみのディスクを再生しようとすると

「これ、見覚えのないディスクです」

と再生を拒否して知らん顔をしている。

「そろそろ限界かな」

と考えた。ご存じの通り、我が家のレコーダーは酷使される。我が家の分に加え、3人の子どもの世帯、そればかりか友人のO氏が所望するもの、仲良くなった子持ちのパパ、ママへのプレゼントと、休む間もなく働き詰めである。

「疲れた。そろそろ引退させてよ」

と訴えてもおかしくはない。
と思って新しいレコーダーを買ったのである。

パナソニック 1TB 3チューナー ブルーレイレコーダー 4Kアップコンバート対応 DIGA DMR-BRZ1020

45200円。ずいぶんと安くなったな、と思いつつ、amazonでポッチンした。

仕事をしているようなしていないような毎日ではあるが、平日を完全に私事に使うのは何故か気が引ける。届いたレコーダーは開封もせずに昨日、土曜日を待ったのであった。

レコーダーを新しくするにはそれなりの準備がいる。これまで使っていたヤツに、まだディスクにダビングしていない番組が残っていたのである。横浜や四日市の子どもたちから頼まれたもので、連続アニメが多いから、

「ディスク1枚分の量になるまでこのままにしておこう」

というのがほとんどである。だから、これらを新しいレコーダーに移さねばならない。

「簡単にできるさ」

そう考えた私は、我が家で遊んでいるHDDを持ち出した。容量は1テラバイト。こいつに古いレコーダーから番組を移し、新しいレコーダーにムーブすればよろしい。なにしろ、パナソニックのレコーダーは(たぶん、他のメーカーのレコーダーも)、USBで接続したHDDとの間で、録画した番組をやりとりできる。だから、古いレコーダーからHDDに移し、そのHDDを新しいレコーダーに接続すれば、作業は簡単である。すこし時間を食うのだけが短所といえば短所である。

そう考えた私は昨日朝から、古いレコーダーからの番組吸い出しにかかった。いや、その前に、接続するHDDの中身を空にし、容量に心配がないようにした。

すべての準備作業が終わり、新しいレコーダーをラックに入れてアンテナやテレビと接続したのは午後3時頃であったと記憶する。きちんと番組を受信していることを確認し、設置設定、リモコン設定など、必要なことはすべて済ませた。

「さて、HDDをつなごう」

繋いだ。画面でUSB接続のHDDを使う設定をした。

「さて、録画番組を取り込むか」

まず、録画一覧を表示するボタンを押す。内蔵のHDDには何も入っていない。設置したばかりだからまだ録画したものはないので当然である。その横に、USB-HDDのタグがある。そこに移動した。

「ん? このHDD、何も入ってないぞ。ひょっとして設定を間違えたか?」

あれこれ試すが、何ともならない。このような時は問い合わせるにしくはない。パナソニックは

0120-878-365

パナは365、である。覚えやすくて重宝する。

「ということで、接続したHDDになにも入っていないんだけど、どこか設定を間違えましたかね?」

私の問い合わせに、応答マンは冷然と答えた。

「お客様、新しくHDDを接続すると、レコーダーは必ずHDDを初期化します。そのような仕様になっており、お客様の番組は初期化と同時にすべて消えております」

「……」

ナヌー

である。朝から苦労して重ねた準備がすべてパー。いやそれよりも、璃子や嵩悟が楽しみに待っているアニメがすべてパーである。啓樹や瑛汰が楽しみに待っている「西郷どん」の6回目から8回目がパーである。

「あんた、そんなこといったって、繋いだら勝手に初期化されるなんて、何でそんな勝手なことをするんだ? 私みたいな被害者がたくさん出るじゃないか!」

申し訳ございません、とは応答マンの常套句である。常套句だから、ちっとも感情がこもっていない。
いや、この際、そんなことはどうでもよろしい。応答マンの人物判断をしているのではない。

「何でそんなトンでもない仕様にしているのかね?」

「はい、著作権の問題と、技術的な制約からでございます」

私、この解答にカチンと来た。こいつ、俺を素人だと思ってなめてる!

「ちょっと待ってくれ。USB接続のHDDと本体の間では、録画した番組を行き来させることができるようになっているよな。それは著作権上の問題はないわけだ。それなのに、レコーダーの寿命が来たので新しいレコーダーに録画番組を移動させて鑑賞しようとする。そのどこが著作権上の問題になるわけ?」

「パナソニックのレコーダーが50年も100年も持つ丈夫なものなら、そんなことをする必要はない。しかし、我が家のレコーダーは7年にして寿命を迎えようとしている。だから買い換えて、録画済みの番組を新しいレコーダーに移そうとした。そのどこが著作権を侵害するんだ?」

「技術的制約だと? あのね、パソコンの間では、他のパソコンに繋でいたHDDを私のパソコンに繋いでも何の問題もない。ファイルの読み出し、書き込みは普通に出来る。もちろん、すでに記録されているファイルが消えてしまうことなんか絶対にない。パナソニックだってパソコンを造っているじゃないか。パソコンを造りながら、レコーダーではパソコンでは当然の技術が使えない? そんな馬鹿なことが起きるの? パナって、そんなおかしな会社なのか?」

ここまで論理的に詰められれば、ほとんどの人は答えに窮するであろう。この応答マンも窮してしまった。

「お客様、申し訳ありません。のちほど上司からご説明を差し上げますので、しばらくお待ちいただくわけにはいかないでしょうか」

待った、じっと待った。
待っても、失われた録画番組が戻ってくるわけではない。そちらの方は、まず嵩悟に

「ごめん」

コールをし、何とか後処理をした。
詰まらぬ仕様を、ユーザーに知らせもせず(いや、説明書を隅から隅まで読めばどこかに書いてあるかも知れないが、そんなことをする人は皆無であろう)、突然録画済み番組を勝手に消してしまうような仕様を採用したのはなぜか。
怒りは残ったが、好奇心も沸き起こっていたのである。

電話が来たのは夕食時だった。
説明によると、こうした仕様を採用しなければ、録画番組を記録したHDDがあちこちに動き回り、たくさんのレコーダーに接続されて番組を見られてしまう。それは著作権保護の上から問題である、との主張が、主にテレビからあったのだという。

規格を決める連中とは、実に詰まらぬことに気を回すものだ。
そんなことをするぐらいなら、ディスクに焼けばいいのである。焼いたディスクを友人、知人に貸せばいいのだ。レコーダに接続しているHDDを取り外し、それなりの重量があるものを持ち運ぶのは面倒である。ディスクに焼いてしまえば、そんな苦労はないではないか。
同じことを、ずっと簡便な手法で実現できるのに、

「こんな使われ方をしたら著作権上の問題が発生する」

などと目くじらを立てるアホウども。法律家とは、多分その類である。

そして、このアホウな仕様はどうなったか。
なくなったのである、このアホウな仕様が! ある特殊なフォーマットに適応しているHDDなら、他のレコーダーにつなぎ替えても勝手な初期化は始まらず、従って録画済みの番組は消えないというのだ。

「で、そのHDDは手に入りにくいの?」

「いえ、いま売られているHDDはほとんど対応しているようです」

ということは、私が不覚を取ったのは、古いレコーダーを使い続けたことにあるようだ。

それにしても、そんな仕様変更、どこかでアナウンスされたのか? 少なくとも私は見たことも聞いたことも読んだこともない。

注意1秒怪我一生

まったく、油断も隙も見せてはいけない世の中ではある。