2020
06.20

サーカスが来ると、どうして子どもに見せたくなるのだろう?

らかす日誌

昨夜、

シルク・ドゥ・ソレイユ 彼方からの物語」(CIRQUE DU SOLEIL: WORLDS AWAY)

という映画を見た。アメリカの映画で、2012年に公開されたものである。
我が家ではいまも、ボツにすべき映画を探索する私の闘いが毎夜が続いており、あいうえお順でやっと「し」に進んでこの映画にぶつかった。数年前に録画したままお蔵入りしていた映画なので、いったいどんな中身なのか、まったく予備知識を持たないままでの映画鑑賞である。

いや、驚いた。のっけから人間業とは思えないアクロバットの連続である。それも実録なのだ。中国の格闘映画によくあるような、特撮によるアクロバット映像ではない。身体が空中に浮く演技では、演技者の身体を吊すロープがくっきり映し出されいる。それでも、この映像は、演技は、思わず唸ってしまうほど凄い。

人間業とは思えないとはいえ、所詮人間の演じることである。空中ブランコなど、スポーツとは認められていないものを除けば、体操競技や新体操、アーティスティックスイミングなどの一流選手の中には、この映画の登場人物たちよりも個々の演技では上回る人がきっといる。
そんなことをまったく感じさせないのは、ストーリー仕立ての演出の妙だろう。スポーツが鍛え抜いた技を競うものであるとすれば、この映画は鍛え抜いた技を多彩に用いながら、あくまで観客を楽しませるショーに仕立て上げられている。

例えば、垂直の壁に直立、つまり大地から見れば90°の角度になって立ち、敵味方の戦闘を演じる場面がある。これが舞台で演じられていれば、観客はヘリコプターから戦闘場面を見下ろしている気分が味わえる。登場人物の身体は腰の部分をロープで吊されているのだが、直立した壁の上にすっくと立つ姿は、地上に建っているのと何ら変わらない。そして、戦闘場面だから、飛ぶ、身体を回転する、攻め寄せる、逃げるなどの動作が実に自然に進む。

徐々に角度が急になるボードの上での戦闘場面もある。しかも、これは身体を支えるロープなしの演技である。角度が一定以上になるとボードから杭が出てきて、それを頼りに演技者は動き回る。人が、まるで台の中で釘にあたって飛び跳ねているパチンコ玉のように見える。

90分ほどの時間、次々に現れる妙技にすっかり見とれてしまった。一言で言えば、極めて洗練され、現代的な演出をこらしたサーカスである、とは思うのだが、何となく

「いうこと聞かないとサーカスに売っちゃうからね!」(日本における、子どもに対する親の脅し文句の定番。最近は聞けなくなった。そうえいば、日本のサーカス団も目にしなくなったなあ)

「社会主義体制の優位性を演技を通じて世界に知らしめるのだ!」(旧ソ連のボリショイサーカスって、きっとこんな感じだったんだろうなあ)

という、どこかわびしい感じがつきまとう「サーカス」に比べて、こちらはずっと垢抜けている。カタカナ言葉は嫌いな私だが、

「すごいエンターテインメントだなあ」

と唸ってしまった。サーカス(「曲馬団」と書こうかと思ったが、この言葉を知らない人もいるだろうと思って、これもカタカナ言葉を使っている)も磨けばここまで光り輝くのか。

ネットで調べると、「シルク・ドゥ・ソレイユ」はカナダの演技集団である。常設公演と巡回公演を並行して進めており、一事は日本にも常設小屋があったらしい。巡回公演は数え切れないほどやっているようだ。知らなかった。

それにしても、である。
サーカスが来る、と聞くと、どうして

「子どもを連れて見に行かなくちゃ」

と思ってしまうのだろう? 私は連れて行った。確か名古屋にいたときだから、いまは40代半ばの長男が幼稚園か小学生、長女が4歳前後ではなかったか。ということは、次女はまだ影も形もないころである。場所は名古屋港の近くだったと思うがはっきりした記憶はない。新聞で

「〇〇サーカス!」

の広告を見た瞬間、家族で行くことを決めていた。なぜなのか?

親のいうことを聞かぬと、このようなサーカスに売り飛ばされるという恐怖感を子どもに植え付けるためか? 多分、違う。

この世の中には、常人には不可能な奇跡を表現できるお化けのような人々がいるという現実を子供たちに突きつけるためか? これも違うような気がする。

お前たちも厳しい修行に耐えてこのような至芸を身につけなければならないよ、という教育のためか? 恐らく、違う。

サーカスが来た。見せてやらねば、というのはきっと、生きているって楽しいことなんだよ、というメッセージを子供たちに届けたいという思いなのではないか。

私も子どもの頃、サーカスを見た記憶がある。動物の曲芸、空中ブランコ、綱渡り。そうそう、球形にしつらえられた金属製の網の中で、オートバイが3次元の世界を走り回る出し物もあった。次々に繰り広げられる演技は、口をポカンと開けて見とれているしかない摩訶不思議な世界だった。現実とはとても思えない夢の世界。「サーカス」と聞くと、どこからともなく沸き上がってくるワクワク感は、あの時仕込まれたに違いない。

子供たちにワクワクして欲しい。だから、サーカスを子どもに見せたくなる。きっと、私の子ども時代にその根っこはあるのに違いない。

そのサーカスを、想像もできないほど洗練し、超一流のエンターテインメントに脱皮させたのがシルク・ド・ソレイユなのだろう。だから、テレビの画面から目が離せなくなったのだ。
機会があれば、皆様も是非レンタルショップで借りるなどしてご覧いただきたい。

いや、いつにも増して不細工な文章になってしまった。お許しあれ。