2021
03.02

作りやすくて性能のよい 12AX7×4、12AU7×2 ステレオ・プリアンプの製作 2

音らかす

【トーン・コントロール部】
メイン・ボリュームのあとに本機の特色の一つであるトーン・バイパス・スイッチ(S-3)があります。

市販のアンプをあれこれテストしてみたが、トーン・コントロールをわざわざ切り換えスイッチにして、中点なりディフィートなりフラットと表示してあるのに、再生周波数特性がフラットになっていないものが多いように思われます。そこで本機はディフィートよりむしろバイパスという考えで設計しました。

私は原則としてトーン・コントロールは使わない主義です。高中音のバランスは各スピーカ・ユニットによってアテネータで調節することにしています。システムになっているスピーカは各メーカーがそれぞれバランスをとっているので、なおさらトーン・コントロールは不要で、コントロールしなければ音がおかしいのはスピーカが悪いか、リスニング・ルームのせいです。

どうせバイパスするのだから、トーン・コントロール回路はもともと私には不要です。しかも趣味で音楽を楽しむためのアンプです。パネル面がのっぺらぼうというのもすこし淋しいので面倒だったがつけることにしました。ただし、今まで本機を含めて3台作ったプリアンプでは、過去5年間にトーン・コントロールを入れて聴いたのは、広沢虎造の森の石松のレコードのときだけです。このレコードはカッティングが悪いので、デコボコ道を走る自動車のタイヤの音を消すためです。だから回路も部品のかずの少ない、しかも組みやすいBAXWELL回路を採用しました。

VR-5とVR-6はどちらもD1MΩ2連です。Dカーブは第6図に示しているとおり、ボリュームの中点で左の方が全抵抗の10%になっているもののことで、BAXWELLの条件がボリュームの中点を堺として上下がそれぞれ1:10になっているものに合わすためですが、残念ながら現在入手が困難です。4号機を5年ばかり前に作ったときには、コスモスさんが別注で応じてくれたのですが、人手が大変なこのごろでは無理かもしれません。筆者もやむを得ず中点が20%位になっているA形2連ボリュームを使いました。これとてもJISではボリューム類に20%のプラス・マイナスを許容しているのであまりあてになりませんが、気になる人はC-12対C-13、R-20対R21およびC14対C15の比が1:10のかわりに1:5になるように、つまりC-12を400PにR-21を20kΩそしてC-14を0.004にすればよい。どうせバイパスしたほうが音がよいのだし、トーン・コントロール回路は周波数特性をゆがませるものでもあるので、この回路はパネル面の飾り位に思っていただければよいと思います。

VR-4は左右両チャンネル別々に半固定したもので、トーンを入れたりバイパスしたときに音の大きさが変わるのは不愉快だからレベル・コントロールしたまでで、気にならない人はこれも省くことができます。R-21を20kΩにした人はゲインがとれすぎるので、V4の球を12AU7にしたら、ゲインは下がるし、ひずみの点でも、すこしは有利になった。

V5、V6はともに12AU7、ひずみをすこしでも少なくするためです。この段にかけてあるプレート〜カソードのNF抵抗を可変にしたのは、全体のゲインをコントロールするためで、メイン・ボリュームを中間に持ってきたときに、適当な音量になるようにセットするためで、ついでに左右のゲインのバランスを調整することができるので便利です。ただし、一つ問題があります。NF量をかなり大きくとっても発振することはないが、ずっと低域まで周波数特性がのびることになります。筆者の試作機も5Hzまでフラットにのびていました。どうせ耳に聞こえないので差し支えないが、気になるのでC-22を0.05μFにとりかえておきました。この値は1/2πRC=Fで決まり、メイン・アンプの初段管のグリッド・リークの抵抗値で計算すればよいのだが、初段管の内部抵抗もあるので、できればオーディオ発振器とミリバルを使って実測しながら30〜40Hzあたりで落とすとよいでしょう。本機は30Hzで3dB落とすためにC-22 を0.05μFに変えてあります(メイン・アンプはダイナキットのマークⅣで、初段管が7119で、グリッド・リークは470kΩである)。

【モード・スイッチ部】
モード・スイッチを常識外に一番後ろに持ってきたのは、別に特別な理由はありません。カットの写真にあるようなパネル・デザインに合わせるために一番後ろへ来てしまいました。したがって回路には配線を省いてあり、カートリッジや、スピーカ・テスト用に適当に切り換えられるようにするのがよいでしょう。

電源部はラックスの3A40Bを使用しました。ヒータを全部シリーズにして70数ボルトで直流点火したのは初めてです。配線が簡単で具合がよい。けれど6本の球のうち1本でもヒータが切られたら全部消えてしまう。個人用だからよいのだけれど、マッキントッシュの回路を調べたら3本ずつ2列にシリーズ点火してありました。2本がしかも1列に1本づつ同時に切れることはまずないかもしれません。わざわざこんなことを書く理由は、いまかりにどれかの球が切れたとします。全部の球が冷えてしまうのでプレート電流が流れなくなります。すると全部の球のプレートに一斉に335Vの直流が当たることになります。一向にかまわないのだが、フィルタ・コンデンサがトップのものを除いて全部350WV用であるから、パンクするかもしれない。しかもトランスの2次側が全部流れなくなって加熱すると、ヒューズがとぶ前に煙が出て来たら大変です。人に尋ねたら、12AU7のヒータ線が切れることがあるかね、という返事。万一切れたらと思ってトランス・メーカーとコンデンサメーカーに尋ねたら、トランスの加熱の方は余り心配ないが、コンデンサの方は初段だけでも450WVにしなければならないということです。260V×1.1414で378Vです。電源の変動等で上がることもあるというのが説明でした。コンデンサ・メーカーは、戦後の製品ならともかく、350WVのものなら500Vかかってもそうたやすくパンクすることもないし、万一こわれても、プシュンと音がしてショートしてしまうので、ヒューズが飛ぶだろう、という結論になりました。残念ながら3A40Bではヒータ電流を150mAしか流せないので、2列のシリーズにはできないがまず心配ないということにして、とにかく現在健全です。電圧ドロップ用抵抗のワット数は、オームの法則にしたがって、たとえば、99V−71V=28Vとして、その電圧低下分だけをE=IRに当てはめると28V=X×200Ωになるから、Xは0.14A(140mA)となり、電圧掛ける電流がワットであるから、0.14×28で3.92ワットになり、5WVの抵抗を使えばよいことになります。12AX7および12AU7のヒータ電流を150mAとしても同様の計算ができます。私の回路に使ったホーロー抵抗に誤差があったので、150mAのかわりに140mAと計算されたのかもしれません。

フィルタ・コンデンサは、ヒーターの方が合計400μになれば充分で、終点を71Vにしたのは1本あたり、11.8Vにするためで、正しくは、12.6V×6=75.6Vだけれど、12Vより少し下にするのが私の好みだからです。

【シャーシの製作】
写真Bがシャーシで、一寸変わっています。あくまでも作り易く、チャネル・セパレーションをよく、両チャネル共用の一点アースにするためにこんな格好になりました。配線の項に述べるようにラグ板に主要部品をとりつけA—B—Cとし、シャーシ本体の向かって左にある広いスペースの上下に背中あわせに金具を使ってとりつけます。ゴタゴタしたシャーシの中にハンダ・ゴテをつっこむやりにくさが全くありません。Dの板には真空管、フィルタ・コンデンサ、入・出力ターミナル、ヒューズとトランスがつき、Eの板にはスイッチ類、ボリューム、パイロット・ランプがとりつけられ、これも本体とは別に配線でき、それぞれが終わってから本体にボルト・ナットで止めて組み立てます。

アルミ板はブリキと違ってなかなか曲げにくいものです。いろいろな方法はあるだろうが、道具なしにやる一つの方法として、L形の切れっぱしを使う方法があります。

第7図のように、テーブル(作業台)の端にアルミ板を2本のL形鉄材ではさんでCクランプではさみ、NTカッタの商品名などで市販されているナイフでL形鉄材にそって軽く2、3回切り目を入れておいて、切り目(ケガキ程度)を外側にして押し下げるときれいに曲がります。切り落としたいときには何回も上下に曲げればポキリとわけなく切れます。板金作業で最も困難なことは、組み立てたときに寸法にあちこちくるいが出てひずみになることです。ひずみにならないようにするためには、Bを6枚同じ寸法で作り、それに合わせてAを切れば、別々に寸法をとってやるよりは、正確にいくものです。本職の板金屋もよくこういう現物合わせという方法で製罐するらしい。D、Eを外側に曲げてあるのは、アルミの場合、タップを立ててもすぐに馬鹿穴になるから、ボルト・ナットで止めやすく丈夫にするためです。寸法はラグ板、スイッチ、ボリューム、トランス等を考慮して適当な寸法を割り出します。参考までに私の寸法を第8図に示します。