2021
03.09

音を求めるオーディオ・リスナーのためのステレオ・プリアンプの製作 回路編の3

音らかす

【トーン・コントロール・ユニット】
トーン・コントロール・ユニットは、まったくといって良いほど不要の回路です。トレブル、バスのつまみを6等分にまわして測定してみましたが、どの線をとってみても、あまり感心しません。もちろんのことですが、どんなに苦労してみても、30〜10,000 Hzの間でフラットにはなりませんでした。メーカー物も2、3同じようなテストをしてみましたが、パネルにFLATと書いてあるのに、フラットにはおよそ程遠いカーブになった物が良くあります。

本機の場合も、一番部品の少ないBaxwellの回路を利用した上に、CRに精密級を使わなかったためかもしれませんし、同じBaxwellでも、N.F.型だと、少しはましになるかもしれませんが、バイパス・スイッチ(S3)により回路からはずすのに、N.F.型だとどうしてもクリック音が出たり、それを消すのにスイッチを別注したり、兎に角、配線が複雑になり、音質の点から、あまり望ましくありませんので、この回路にしました。

トーン・コントロールで音をひずませないとき(「き」は不要?)、良い音が出て来ないのは、カートリッジが悪いか、メインアンプがでたらめか、スピーカがまずいか、リスニングルームがうまくないかのどれかです。周波数特性がどうのと文句をつける人が、トーンコントロールで音をひずめて(ひずませて?)聴いているのは、まったくナンセンス。

従って、トーンコントロールはまったく不要なのですがビキニの女の子のおヘソみたいなもので、やっぱりあった方が良い。ノッペラボーのパネルは、どうもと思ったのでつけたわけで、特性の悪いのは始めから承知でつけてあるかわりに、バイパス・スイッチ(S3)を入れると、完全にバイパスしてしまい、V4のグリッド、つまりVR5のレベルセット用半固定抵抗が、アースしてしまいますのでトーンコントロール回路は完全に死んでしまいます。

前回のは高音用、低音用にそれぞれDIMのボリュームを使ってありましたが、今回は、部品入手の都合で、AIMに変えたために、R22を20kΩにしましたので、ゲインがとれすぎましたから、V4は12AU7に換えてあります。これもどちらでも一向にかまいません。12AU7の方がひずみの点でも、大分良いのですが、どうせ曲りくねった回路ですので、たいした差はありません。ヘソなどなくても良いとおっしゃる方は、この回路を省くとよいと思います。そうすれば作り方が簡単で、前に述べたインピーダンス変化の問題が大いに減り、何千円か節約できますので、一石二鳥の感があります。

VR5のB500kΩの半固定抵抗は、トーンコントロール・バイパススイッチ(S3)を入れたり、切ったりした時に、音量が変わらないようにセットするためのものです。このセットはオシロで方形波を見ながら、トレブル、バスの両方のつまみを中点と思われるところに、機械的中点ではなく、音質がフラットに近づくところに合わせてから、ボリュームを絞って行き、バイパスした時に方形波の大きさが1000Hzで同じになるところで、セットするのが一番正確に、しかも簡単にできます。耳で合わせようとすると、なかなか大変です。しかし、トーンコントロールを入れた時に、大きさが変わっても平気の人は、適当にセットすれば良いでしょう。

【バッファーユニット】
バッファーユニットと呼ばれる出力段は、12AU7 2本で構成されており、非常に深いN.F.がかかっていること以外に、別に、これといって特徴はありません。簡単な回路だけに、その特性は非常に優れており、V5のグリッドにサインウェーブを入れて、C-22の出口のところで周波数特性を測ってみたら、50,000Hzまで完全といって良いほど、素直なカーブが得られることがわかります。

この回路には、自作するということにたいして、一つの問題があります。第3図をご覧ん下さい。回路図から、バランス用ボリュームと、その次に来るV5のあたりを抜き出した物です。これをb図と比べてみます。bの回路は、今までいろいろな製作記事に良く出てくるものです。ご承知のように、真空管にはグリッド・リークという電圧がグリッドから、わずかですが漏れて来るものです。だからグリッドリーク (leakは漏れるという意味。アメリカ人は俗語でオシッコのことをtake a leakといいます)。

バランス・コントロール

このグリッドからわずかに出て来る直流のオシッコが、ボリューム・コントロールの中点に入って、下半分の抵抗を通ってアースします。いってみれば、このボリュームはグリッド抵抗を兼ねているわけです。ボリュームをこわして中をのぞいて見たことのある方は、ご存知でしょうが、炭素皮膜の上を、燐青銅のブラッシュでこすって行くようになっています。従って、このつまみを左右に回すと、スピーカから、カサカサという音が出て来ることになります。特に電源を入れてから、15分位はこの音が大きいようです。マランツ#7で調べてみたら、やはり同じような状態で、ごくわずかですが出て来ることがわかりました。使用しておられる方の話では、2時間位立てば、完全に消えるそうです。ダイナコのPAX3では、このボリュームに、2連の各々が図cのように半回転のみ抵抗が入り、それを通り過ぎると、抵抗値がゼロになるものを使ってありましたので、カサカサは出なかったようです。これはもちろん、ゲインを損なわないのが、大きな目的ですのでこのグリッドリークの問題解決はオマケかもしれません。いずれにしても、bの回路は、信号機にシリースに、余分のコンデンサが入ってくるので、やはりひずみの点で良いわけはありません。もっとも、普通の耳で聴いて、そのひずみがすぐに解るほどのものではありませんが、長く聴いていて、何となく音が濁った感じで、私はあまり好きではありません。

私の分も、この前に作ったものは、かなり目立ってカサカサという音が出ましたので、真空管とボリュームを取り替えたら、本機と同じく、マランツ並みのところまで減りました。バランスは、むやみにまわすものではありませんので、音を犠牲にしてまで、bのような回路にする必要はないと思います。どうしても気になる人は、点線で囲んだ部品を外して、その代わり、10kΩの抵抗をシリースに入れると、大いにこのカサカサが減ります。ラックスのMQ60には、入力用のボリュームにA250Ωを使って、それからグリッドまでシリースに33kΩの抵抗が入っていましたので、参考までに付け加えておきます。少しばかりのカサカサに拘っていたら、次に進めませんので、このあたりは読者の判断におまかせして次に行きます。

N.F.量を決める抵抗をB200kΩの半固定(VR9)にしたのは、メインボリュームを中程までまわした時に、ちょうど良い大きさの出力が出るように調整するためのもので、ボリュームをほんの少しまわしただけで、音が大きすぎるようなのは使いにくいし、前に述べた、ボリュームの2次側のインピーダンスをなるべく下げないためにもおおいに有効です。ついでに、左右の出力のアンバランスも直すことが出来るので、outputのインピーダンスが低くなり、メインアンプとの接続に何かと好都合です。いろいろ実験したり、ヒアリングテストによって比べてみましたところこのN.F.量は少し位深すぎても問題はないようです。その代わり、ここのカップリング・コンデンサ0.01μF(C17)もこれ以上の容量のものを使うと、ずっと低域にピークができるので、注意しなければなりません。このピークは可聴周波数以下ですので、関係がないと、考えがちですが、実験によれば、何となくざわめきに似た音がまじってくるので不愉快です。

3μF(C20)とパラに入れた0.1μF(C19)はあまり意味がありませんが、たいていのアンプに入っているので入れました。あっても、なくても大差ありません。しかし、3μFの電解コンデンサは、リーケージが多いので、できるだけ耐圧性の高いものを使って下さい。本機には400Vを使用しました。米軍規格(MIL Spec.)のコンデンサが理想的です。もっとも、V5のカソードに、5.5Vバイアス電圧がかかっている位ですから、あまり気にすることもないでしょう。気になる方は、電源を入れてすぐにVR9を動かしてみれば、チャリチャリという音がスピーカから出て来ますから試してみて下さい。そして、これが15分たってもまだ出るようでしたら、電解コンデンサを疑ってみて下さい。けれども、VR9は半固定で、最初に一度セットしてしまえば、動かさないものですから、いづれにしてもたいした問題ではありません。

回路図に、C-22が、0.02〜0.05μFとありますが、この値は接続するメインアンプの入力インピーダンスによって変わって来ます。私の場合は、初段管7119のグリッドリークに470kΩが入っていますので、30Hz位からFをカットするためには、

の公式にあてはめると、

になりますので、0.02μFを入れたわけです。測定器を持っておられる方は、2、3この程度の値のコンデンサを入れ換えて、メインアンプにつないで実測して決めるのが一番確実です。

【モードスイッチ】
モードスイッチが一番後に来てしまいました。本来ならもっと前に持って来るべきですが、このスイッチもまったく不要で、私など一度も使ったことはありません。これもパネル面の飾り、つまり“ビキニのおヘソ”です。合理的には不要なものですから、配線の邪魔にならないように、Stereo、Reverse、Channel 1、Channel 2と4接点にしました。Channel 1とは、プリアンプの左側を両方のメインアンプに繋ぎ、つまり左側のプログラムソースを両方のスピーカから出すようにしてあります。ミックスの名前で知られているブレンド・スイッチはお勧めできません。両チャンネルとパラにブレンドすると、インピーダンスが半分になってしまうし、ひずみを増す以外にメリットがありません。ステレオのプリアンプをモノで使う必要はありませんし、必要な場合には始めからモノーラルのアンプを作るべきです。

ステレオのレコードをモノで聴きたいというヘソ曲がりの人は、カートリッジのところで第4図のようにつなぐのが合理的です。それ以外はどんな方法をとっても、ひずみの原因を作ります。

配線の都合で、このモードスイッチを一番最後に持って来ましたので、これにつなぐメインアンプによっては、ちょっと問題が残ります。先程述べた、ずっと低域でピークが出来るのを防ぐのには、常識として、メインアンプの入口に第5図のように低域カット用のコンデンサを入れるものなのです。その所為か、国産品のメインアンプの入力段にこのような回路を持っているものが割合多いようです。そこで、本機のモードスイッチを動かすと、かなり大きなクリックが出るのは当然で、これを防ぐのは、ブリッジ形と呼ばれるロータリースイッチを使うのが一番簡単で、こうすれば、グリッドが宙に浮くことがないために、クリックは出ません。もし、そのスイッチがなければ、メインアンプにあるコンデンサをはずすより他に、方法がありません。このコンデンサは、不用意に入ってくる、プリアンプから漏れた、直流電圧を防ぎ、入力コントロール用のボリュームを守るための働きもしているのですが、本機のC22のコンデンサがしっかりしている限り、その心配はありません。

【電源部】
回路図でおわかりのように、本機は電源部を内蔵しています。プリアンプに、電源部を内蔵すると、ハムを引き易いとよく言われますが、シリース点火による直流ヒータ回路の上に、100μFのフィルタ・コンデンサを4本も使っていますので、組み上がったらわかるように、ハムはゼロに等しいほどの性能です。B回路にも合計414μFのフィルタ・コンデンサを経て、初段管に入るようになっていますので、リップルはまず残らないと思って良いでしょう。

ヒータは6本をシリーズにして、67Vで点火してあります。一本当たり11.5〜12.6Vを目標にして、69〜75Vの間に持って行きます。75Vを越えないようにホーロー抵抗の数値を加減します。もし、ヒータが一本でも切れたら、いろいろトラブルが起こりますので、是非実行して下さい。トラブルについての詳細はラジオ技術に述べてありますので参照して下さい。

次号に本機の政策に関する配線、その他の実際について述べる予定です。