03.19
最高級プリアンプの疑問に答えて
馬鹿丁寧だと思われるほど、詳細に述べたつもりですが、そのために、始めて本格的なプリアンプをお作りになった方が非常に多く、特にプリアンプについては、昨年12月号に発表して以来、100人近い方々から御質問のお手紙や立派なプリアンプが出來たという嬉しいお便りを戴きました。
事細かに文章につづるという事は、冗長(に)なり易いし、読み辛いものになってしまうもので、すべての方々に極端に言えば、電気についてほとんど予備知識を持ち合わせておられない方々にでも、手軽に、最高級のプリアンプを作れる製作記事なんてものは、不可能に近い事だと思います。特に、充分な測定器をお持ちになっていない方々にとっては尚更の事に違いありません。御質問などお便りを戴いた方々には、必ず二三日中に御返事を差し上げましたがそれらの御質問を取りまとめて、誌上で御回答申し上げるのが、読者への親切。アフタービス(After care)(多分「サ」が抜けている)と言うことかも知れません。そこで、今回は以前に発表しましたプリアンプと、パワーアンプとの両方について今月と来月に分けて、まとめて見たいと思います。
念のために第1図にその回路を載せておきます。
【入力回路】
オーディオリスナーのために設計したプリアンプですので、Phono入力は1本しか付けてありません。いろいろきいて見ると、1台のターンテーブルに2本も3本もアームを付けて、切換えテストするのも、なかなか面白いと言う事です。なかには、アームが2本以上付いていると、プロフェッショナルに見える、という説もあるそうです。
ちょっと話が横道にそれますが、マニアと言う言葉は、実は気違いのことでクレプトマニア(Kleptmania)(正しくはKleptomania)とは盗癖のことを言います。そのマニアがトーンアームを2本も3本も並べて喜んでいるわけです。音楽は一度に一曲しか聴けないもので、1本で良いわけですが、これも楽しみの一つ。そこで、どうすればノイズを少しも増やさないで、Phono入力を2つ以上にするかについて、考えてみます。バックナンバーの実体図を良く見てもらえば、一点アースをとるのに、どんな工夫がしてあるかがわかります。この一点アースの法則をくずなさないで、入力ピンを増やさないと、必ずハムが出ます。
私は、ハム、ノイズが大嫌いで、普段のボリュームの位置で、カートリッジをディスクから持ち上げた時に、スピーカのサランネットに耳をくっ付けて、夜半に何も聴こえない事を前提にしています。
AUX入力が余っているはずですから、これをPhono2にするわけです。第2図のようにアースラインの取り方に気を付けて下さい。そのかわり、入力インピーダンスは47kΩ一定です。レコードを聴くのが目的ですので、30kΩとか100kΩに切り換えていろいろ実験するのが楽しみの方は、別に実験用アンプを作って下さい。
【イコライザ用CR類】
精密級抵抗、コンデンサの入手が大分むずかしかったようです。幸い星電パーツの岡部氏がなかなか協力的で、いろいろ苦労をしてメーカーと話し合ってくれた御陰で、今では地方の方々にも簡単に入手できるようです。4.7kΩなんぞ理研電具には全然在庫がないそうですので、数人の読者の方々からお叱りを受けましたが、マッキントッシュC-22で一番重要な部品ですので、是非2%級を使って下さい。それだけの事はあります。
【初段管】
アンプの箱を指で叩くとスピーカから、カンカンという音が出るが、というお便りが大分ありました。これは、12AX7のグリッドが振動を受けるからで、その解決法は、第3図のようにゴムのパッキングを入れて、ソケットをシャシから、少し浮かせて、ショックアブソーバーを施せば止まります。女学生用の靴下止めに使う幅の広いゴムバンドを切り抜いて自作します。
しかし、ソケットの金具とシールドケースが、シャシと電気的につながっていないとハムが出ますので、ご注意下さい。
菊型ワッシャーを必ず使うようにして下さい。
【モニタ・スイッチの音もれ】
モニタ・スイッチをモニタ側にまわした時にスピーカからわずか音がもれて来ると言ってこられた方が3人ありました。測定器をお持ちの方は市販品のプリメインアンプで測定して見られるとわかりますがどれでもいくらかはもれるものです。
特に、本機はメインソースからテープアウトへは出来るだけもれない(−46dB以上)よう設計してあります。つまり、レコードからテープに取(録)る時に、テープを数フィート録音状態で空送りしますが、その時は、モニタ・スイッチは入れないでおき、ディスクに針が降りて、二三回まわって、音が出る寸前でモニタスイッチを入れます。そうすれば、レコーデットテープには何も雑音が入らないで、スムーズに音楽が始まります。この時に、テープアウトの側に音がもれていると針が降りる時のプツンと音がテープに入ったり、レコードの外側には割合ノイズがあるもので、その音がテープにもれ込むと、後で、そのテープを掛ける度に、ポツン、ザーと言う音が出てから音楽が始まります。
ついでに言っておきますが、レコードを掛ける度にボリュームをしぼっておいて、音が出始めてからボリュームを上げる人が随分います。かえってガリオームにする原因を作るだけで、スピーカの保護とは全然関係がありません。私の部屋は12畳ありますが、普通の音で鳴らしている時が平均150〜300mW。カンチレバーが折れる位激しく針先にブラシを掛けた時でも、100mWは出ていません。ボリュームはやたらにまわさない方がよろしい。この事を御回答申し上げた時、世田谷区の川田義明さんからとても丁寧なお詫びお礼状を戴きました。紙面を借りてお礼申し上げます。他人に親切にする事は、実に気持ちの良い事ですし、その親切に心からお礼を言われるのはもっと楽しいものです。
【アースラインについて】
普通プリアンプを作る時に、かなり太いアース母線をひっぱりそれにアースを落とすものになっているようです。特に、プリント基板の管球式プリアンプにはハムがつきもののように思われています。本機の場合そんな太いアース線を使わなくてもハムは来ません。気になる方は、B電源及びヒータ用のアースラインは30芯位の線を使うと良いでしょう。それより少々細くても大丈夫。そのかわり実体図通りアースして下さい。一点アースポイントは、プリント基板の上から見て左側に3㎜のボルト・ナット菊型ワッシャーを使って、スペードラグにより、シャシのA板にもうけます。実体図に書いてなかったため、かなり大勢の方々から御質問を受けました。
【チャンネルバランス用ボリューム】
12月112号(「号」は不要!)頁に述べて置きましたように、このボリュームがガリオームになった方が、私を含めて3人ありました。これはご面倒でも、取り換えるより方法はありません。いろいろな方に尋ねてみましたところ、私のを含めて3個は当たりが悪かったのか、今のところ他の方々は大丈夫のようです。特にスイッチを入れてから二分以内にまわすのが一番いけないと思います。真空管の動作が落ち着くまで、グリッドリークが多少多くなるからかも知れません。
【出力段について】
部屋が狭くて、アンプをのせる棚が不自由だから、トーンコントロールと出力段を省略したいという方が意外に多かったようデス。トーンコントロールについては、前回に述べました通り完全に省略出来ますが、出力段は省く事は出来ません。ご承知の通り、プリアンプとパワーアンプは何がしかの長さのシールド線でつなぐわけで、そのシールド線には何がしかの容量を持っているものです。ひどいのになると、昭和電子製のものを実測した事があるのですが、当たり470pFというのがありました。かなり良いものでも50〜70pFはあるもので、この容量で、信号線からアースに落ちるとなると、ハイカットフィルタになってしまって、高音不足になる事はもう常識になっています。
しかも、出力段を省くとなると、バランス(VR6)の出力側から直接にシールド線を出さなければならなくなります。回路的には第4図を見ればわかるように、R1とR2ガ(が?)シーソー式に値が変わります。バランス用のB型ボリュームの時には、R1とR2との変化がリニヤーになるためまだましですが、A型を使ったボリュームから直接シールド線で取り出した時の事を考えると、ボリュームが中点の時にR2がR1の約1/4になり、その変化量がリニヤーでなくなりますので、とんでもなく周波数カーブが動く事になります。395pFは極端に悪いシールド線ですが、わかり易くするために、そのシールド線を使ってテストして見た結果が、第5図のようになりました。出力段はこれを防ぐための働きが大きいので、絶対に省略出来ません。
【出力段のNFB量】
本機のイコライザ段の原型であるマッキントッシュC-22型は、同社のパワーアンプが全般にかなりゲインの少ないためか、イコライザ段で、裸の利得が65dB、NFB量が22.5dB差し引き42.5dB(電圧比135倍)もとってあります。その頃には、パワーアンプの入力感度が1.3V以上のものはザラにありましたが、最近はフルパワーに要する入力が0.5V位が標準になっているようですので、本機のゲインには余裕があり過ぎるようです。従って接続するパワーアンプによっては、出力段のNF抵抗B200kΩ(VR9)をゼロに近いほどまわさなければ、ボリュームコントロールがとても中点までまわせないような事も考えられます。現に私の場合も、3〜4月号の筆者設計のパワーアンプのゲインが大きすぎたため、VR9をB30kΩにとり換えなければならなかったほどです。
このP—G NFBの場合2段NFBですので、この抵抗をゼロにまわし切っても発振はしません。高域不安定についてもいろいろテストして見ましたが、音質を少しでもそこねるようなトラブルは全然ありません。
出力段カップリング・コンデンサ回路図には、0.02〜0.05μF(C22)とあります。この点については、かなり詳しく御説明したつもりなのですが、やはり低音不足だというお便りが2、3ありました。手紙でお尋ねして見るとご使用になっているパワーアンプの入力インピーダンスが100kΩ以下のものなどとわかりました。低域のカットオフ周波数は第6図(a)の公式で決まります。例えば、上記のように、パワーアンプの入力インピーダンス(R1)が100kΩとし、それにカップリングコンデンサ(C3)を0.02μFに入れたとしますと、
約80Hzで電圧が半分(−6dB)になってしまいますので、150Hzより下はかなりカットされてしまいます。これでは低音が出るわけはありません。その上、使用スピーカのfoつまり低域カットオフ周波数が、口径が小さくなるほど高くなりますし、箱の寸法、部屋の大きさ反響の具合、などによって大きく変わるものですから、単に2πRC分の1という風に決める事は出来ません。メーカー製のプリアンプの場合は0.05μF位のところに決めてあるようですが、本機の目的はあくまでその数値は自由に選び、自宅のリスニングルームにぴったり合わせるのが、そのたてまえだと思います。
上記のような条件に合わせた最低音まで出さなければならないのですが、それ以下はカットしておかないと、低音のしまりがなくなったりひどい時にはウーファーがフカフカと目に見えて動く事すらあります。私の場合、ラジオ技術の1970年8月号に発表した本機のオリジナルが出来上がった当時から、あれこれ数値をとりかえて見て、ヒアリングテストも合わせて、やっと第6図(b)のようなサブソニック・フィルタと併用して落ち着いたようです。第6図(c)はその実測値です。仕様ウーファーはコーラル12L-14を自作の箱に入れたもので、読者の場合もそれぞれの装置に合わせて、この数値を決めて下さい。
【モードスイッチ】
前回の記事に、回路図からモードスイッチが省略してあり、しかも実体図にミスがありましたために、随分沢山の方から御質問を受けました。なかには、記事に述べてあった通りクリック音で心臓を悪くするような音がした(台東区山田浩様)方もおられたようですので、第7図にその回路図と実体図を入れておきます。このようにモードスイッチを入れると、全然クリック音は出ません。簡単に取り換えられますので、是非実行をお勧めします。
【クロストークについて】
双3極管を両チャンネルに振り分けて使ってあるのでチャンネルセパレーションが悪くなるのでは、と心配されたノイローゼ気味と言いますか、あるいは、他人にチエを付けられたのか、御質問をよせられた方々が、5、6人ありました。6BM8のような双3極5極管を見てもわかるように、1本のガラスチューブに2本も球を封入するのに、その球同志(同士?)にクロストークがあるようでは、こんな球は始めから使いものにならなかったと思います。12AX7にしても、6BM8にしても、ピンの配列を決めるまでに世界中のメーカーが、私共アマチュアの何100倍もする計測器を使って、テストした事は疑う余地がありません。
プリアンプのチャンネル・セパレーションは、むしろ切換スイッチのところで起こる方が大きな問題です。特に本機では、モニタ・スイッチと、トーンバイパス・スイッチが一番この危険が考えられますので記事に詳しく述べましたので、その通り配線して行けばチャンネル・セパレーションはかなり良くとれているはずです。今まで必要を感じなかったので、測定した事がなかったのですが、これ等の御質問に答えるために丁寧に計って見ました。第8図が((が」は不要)のグラフです。比較するのにラックスの38Fのプリアンプだけを試してみたら、1kHzでPhonoが−49.5dB、Auxが−45dB で、10kHzではそれより10dBあまり悪くなっていました。メーカー物のデータをグラフにするのは私の仕事ではありませんので、細かく書きませんが、平均して本機より15〜20dB位クロストークが多い事がわかりました。
アンプ棚の大きさの関係で、プリアンプの出来上がり寸法をもう少し小さくしたいというご相談が3人ありました。パネルを特注しましたので、つまみの位置などのバランスの都合で、デザイン的にまとめるために、外箱がシャシより、ひとまわり以上大きくなったわけです。それにマッキントッシュ(本来は、ここに「、」が入るはず)マランツ、ラックスCL-35、ナショナルテクニクスなどが、大体本機と同じ大きさである事も、部品配置以外に上のような理由があったのかも知れません。
どうしても小さくしたい方は、2月号(87頁)のシャシ図面の内、口板だけを、上下約1m/mづつひろげて、手前に曲げずに、後ろへまげて、上下F板を、後ろからすべり込ませるように改造すればよろしい。そして、半固定抵抗を全部シャシの中に入れてしまって、本機(誌?)9月号の拙稿に述べてある半固定抵抗止め金具を使って取り付けます。しかし、この場合はパネルを自作しなければならない事はもちろんです。
プリアンプについては、シール(ド)線の問題などがありますが、この点につきましては次号でのパワーアンプのときにまとめてみましょう。
プリアンプは星電パーツ(株)にてキット化されていますので、ご希望の方は、神戸市生田区三宮町1-39に問い合わせて下さい。
(現在は業態が変わっているようです。問い合わせてもキットが手に入るとは思われません。念のため=大道注)