2021
03.24

6CA7PPパワーアンプの製作 3

音らかす

ドライバー段と順序が逆になりますが、初段管をみてみましょう。3結になっています。よく6CA7のドライブ電圧が割合高いので、この段でゲインをかせぐために、5結にして、フルにゲインを採り出しているようですが、6CA7の内部抵抗を下げ、ひずみを少なくするために、このような回路を採用しました。その時の動作例を参考までに、第3表に示します。実験のために5結にしてみたら、アンプが大分不安定になりました。何かの本で、この球を5結にした時に、アンプが発振しやすくなる事を読んだ事があります。

第3表

6267がこんなに古くからあったのを、改めて知ったわけで、最初にMullard 250の回路をみた時、この初段管が6267であることを見のがしていたようです。値段がその頃は割高であった為か、あまりメーカー製アンプでは見かけませんでしたが、最近、ラックスなどにも使われているようです。本機のS/Nが良かったのも、多分この球のお蔭だと思います。配線のしやすい、ノイズの少ない球ですので初段管には最適だと思いますし、市場入手性にも問題はないようです。

回路図でおわかりのように、この段のグリッド・バイアスは2.7Vですので、後に述べます本機のフルパワーに要する入力、約0.27Vには十分過ぎるほど、余裕がありますので、歪みの点では大いによろしいと思います。

初段をこのように割合ゲインのとれない設計にしたために、ドライバー段で大分ゲインをかせがなければなりませんので、12AU7のように増幅率の低い球は使えません。と言って、少々ゲインが高すぎるようですので、12AX7は増幅率が高すぎて下向きです(不向き?)。12AT7にしようか、12BH7にしようか、いろいろ迷った末、12AT7にしました。もちろん、カソード直結型、つまりマラード型にしなければ、P—K分割型(アルテック型)では、ACバランスはとり易いのですが、ゲインが足りなくなります。

この段のプレート負荷抵抗は、部品の都合で、回路図のようになりましたが、上側(R-8)を25kΩ、下段(R-9)を28kΩにした方が良かったかも知れません。直結に繋がるカソード抵抗22kΩ(R-10)は5〜6mAの電流が通り、これに100〜140Vのカソード電圧をかけると、この抵抗での消費電力は0.6W位になりますので、1W型のリケノーム(RM-1)を使用しないと、発熱する恐れがあります。

カソード直流型のドライバー段のACバランスは、そのプレート負荷抵抗によって決まるのですが、折角、計算をして数値を出してみても、それにどんぴしゃり合う抵抗が入手出来なければ、コンピュータで計算したとしても、何にもなりません。そこで本機はB10kΩ(VR-2)を入れてACバランスが採れるようにしてあります。調整法は製作編で述べましょう。

おわかりのように、本機は取り扱いの関係と特性向上のために、モノラル2台にしましたので、上記R-10以外は全部1/2W型(リケノームRM-1/2)ばかりです。

R-7の10kΩは、1.5pFによるクロス式高域補正回路のために必要です。マランツ#8Bには12kΩが入っています。この理論は、大分長くなりますので、スペースの関係で省略します。

この段を直結にするのはもう常識になっていますが、そのために、V2-1のグリッド・バイアスを適当値にするには少々細工が必要です。直結であるために、初段のプレート電圧を上下させると、同じようにドライバー段のカソード電圧も動きますし、バルボルで測っても、6267の6ピンと、12AT7の3ピンを別々に測っても、あるいは、それらのピンに直接端子を当てて両者の差を測っても、正確なバイアス値は測れないものです。よくこの段のグリッド・バイアスを2〜10Vと漠然と書いた記事をみますが、B250kΩ(VR-1)を動かすと、6267のプレート電圧は勿論動きますが、12AT7のカソード電圧も一緒に動きますので、6267のプレート電圧を余程下げなければ、この段のグリッド・バイアスは10Vになんぞなりそうもありません。私もこの辺で、ずい分時間を食いました。

そこで一番簡単な方法は、VR-1を出たところ、つまり、6267の負荷抵抗10kΩ(R-4)との中点の電圧を測りながら、VR-1を動かす事だと思います。この点では、テスタで測っても、かなり正確に電圧値が動きますので、この点が190Vを指したところで、適当なグリッド・バイアスがとれています。出来上がったら試みに測ってみられるとわかりますが、6267のプレート電圧は、測る度に少しづつ違った値が出ます。

位相補正(積分回路)用の16kΩ(R-5)は動かしませんが、(勿論出力トランスや出力管を別のものにした場合は別です)150pF(C-2)は後で述べるように、出来上がってから決める事になります。

V2の上段プレートからアースに落ちている30pF(C-8)は、この段のACバランスが、カソード直結型になっているため、高域でアンバランスが生じるのを補正するためのもので、マランツ#8Bには33pFが使われていますが、どうせ部品に誤差が有る事なので、30pFにしました。チタコンが割合誤差が少なく、耐圧も十分です。

ドライバー段のプレートと、出力管のグリッドは、もちろん直結にすることは出来ませんので、プレート側の240〜250Vのプラス電圧と、グリッド・バイアス用−28Vとを切る役目をしているのですから、C-6、C-7のコンデンサは、直流のリーケージは絶対に許されません。ご承知のように少しでも漏れると、グリッド・バイアスが、ゼロバイアス、あるいは、プラスになりますので、アッという間に出力管をとばしてしまいます。従ってオイル・コンデンサのしっかりしたものを使って下さい。

このカップリング・コンデンサC-6、C-7と、グリッドリーク(R-12、R-13)との時定数は、スタガリングに直接影響がありますので、注意を要します。本機は3結とウルトラリニアの切り替え式になっていますので、出力管と出力トランスで構成されている出力段の時定数が、次の計算のようになります。

6CA7の2rPは、3結の方はあまり問題になりませんでしたが、ウルトラリニアの内部抵抗がなかなかみつからずあちこち探しまわっているうちに、東京工大の北野進氏が、その測定法と一緒に発表しておられるのを見つけました。15年ばかり前のラジオ技術の特集号(第14号)で、出版社に問合わせたら、バックナンバーはもちろん無いそうですが、もしお持ちの方は、その248頁に出ていますのでお読みになると良いでしょう。

その記事によると、6CA7の2rPは、3結で2.8kΩウルトラリニアで6.52kΩ、5結では47.3kΩと言う事です。これを当てはめて、出力段の時定数を計算すると、まず、3結では、出力トランスの一次側インピーダンスが5kΩですから、出力段の合成抵抗値は

になり、その数値で、出力トランスの一次側インピーダンスを割ると、

という時定数が求められます。ひずみを出さない範囲でなるべく大きなスタガ比を1:4〜6位を目標にして、カップリング・コンデンサとグリッドリークとの時定数は、次男計算で求められます。

0.047×10−6(μF)×108×103(kΩ)×103(mSec)=0.047×108=5.08 mSec

※印 6CA7のグリッドリーク(R-12、R-13)はそれぞれ100lΩですが、ブリーダ抵抗(R-14、R-15)及びバイアス電源用半固定抵抗(VR-4)及びそのブリーダ(R-21)との合成抵抗値が約8kΩになります。

従って、出力段の時定数とスタガ比は、3結の場合、最低

5.08:35=1:7

になります。同様の計算に基づいて計算しますと、ウルトラリニアでのスタガ比は、最低

5.08:22.5=1:4.42

と出ますので、C-6とC-7は0.047μFに決めました。カットオフ(最低減衰周波数)も

という事で、約32Hzで−6dBになりそうですが、14.5dBのNFBがアンプに掛りますので、後に測定の項で述べますようにサブソニックで切らなければならないほど、低域まで伸びています。