04.18
オーディオリスナーのための高性能プリメインアンプ メインアンプ部回路編 1
4月号より3回にわたり、プリアンプ部の設計・製作・調整、そしてケースの製作と項を進めてきました。プリアンプ部の音質などいかがですか。管球式にくらべてどうですか。プリアンプだけでも立派に働らいていることと思いますが、いよいよ今月号よりメインアンプ部の製作に入ります。最新の回路を採用した全段直結OCL純コン方式です。
プリアンプが完成したところで、パワーアンプの製作にかかる事にします。第22図がその全回路図です。わざわざ両チャンネルを示したのは、図でおわかりのように、電圧値、電流値などをわかり易くするためです。
全段直結差動OCL、純コンプリメンタリー回路はもうすでに御馴みのものですが、どういうものか、今まで私の目に入った製作記事はすべて出力段だけが、純コンプリメンタリー(Complementary)でなく、クアジコンプリメンタリー(Quasi Complementary)と呼ばれる、2石のNPNによる回路を採用しており、その理由が、国産品に大出力用出カコンプリメンタリーの石が入手困難だからだと述べられています。
製作編、調整編でおわかりになると思いますが、本機は8Ω負荷で25W、16Ω負荷で15Wの出力を持っておりますので、学校の講堂で鳴らすのには何とも言えませんが、10畳以下の家庭でステレオを楽しむのに充分すぎる程余裕がありますので、あえて純コンを採用する事にしました。シンメトリカル/サーキット(Symmetrical Circuit)と呼ばれる回路の方が、歪率の点だけを見ても有利なのは当然で、今更、JBL、マランツなどの例を上げる必要もないと思います。
その上、本機は今までの常識を少し上まわった点がもう一つあります。一般に石くさい音と言う表現があるようで、それにはいろいろな考え方があると思いますが、私はその一つに、B級を目標としたSEPP(Single Ended Rush-Pull)を上げる事が出来ると思います。これは、はっきり言って、アメリカのアンプメーカーの責任によるところが多いのです。仕事の関係で、ちょくちょく向うへ行ったり、アメリカからの来客を迎えたりしますが、ステレオアンプの話が出ると、彼等は必ず “How many watts?” とか“ Howmany amp?” という質問をします。『大きい事は良い事だ』と云うのかも知れません。したがって、 ミュージックパワーなどと云うものが、カタログのうたい文句のうちでも割合重要視されるのかもしれません。
石嫌いだった私が、あえて石のアンプを作るわけですので、最も先にこの点に注目したわけです。そして、石があまり熱くならないところを見計らって、標準コレクタ電流値の2~3倍のアイドリング電流を流しておく事によって、少しでもA級増幅動作に近づけたわけです。
本項を書き始めるまでに、 4台の試作機を経て、最終機が一週間程前に完成しましたので、来週から、星電パーツの協力を得て毎日鳴らしっぱなしテストに入る予定ですが、幸いこれから外気温度が上ってまいりますので、丁度良いランニングテストが出来ると思います。本項は例によって連載になりますので、毎月発表の度にその経過を御報告します。本項の巻末の写真にありますように、他日、内外の一流機種との比較テストの結果も上々でした。
設計目標がはっきりしたところで、回路について説明を進めます。全段直結差動アンプとはまことに好妙な発明で、その非常にすぐれた特性にもかかわらず、部品の数も少なく、とても安上がりですので、メーカー製の高級アンプが好んでこの回路を採用するはずだと思います。
差動アンプ
まず、その差動アンプ(Differential Amplifier)についての理解を助けるために、第23図にその部分だけを抜き出して見ました。石もありふれた2SA539によるものです。
差動アンプの動作原理は非常に複雑ですし、詳細に述べるのは本項の目的ではありませんので、ここでは、この回路の動きで、Q2のベース及びそれから出カターミナルにつながる中心線を直流的に0ボルトに保つ事が出来るようになっています。しかし、この2石だけで差動が働くのではなく、ドライバ及びそれとダーリントン接続されている出力の石のエミッタから出ている直流帰還と両方の作用で0Vが安定化されていますので、念のため。
したがって、後に述べるNFB量を加減出来るようになっているVR2及び、出力の石に流れるアイドリングカレントを調節するVR3を動かす事により、 0Vがわずかに動きます。これをもどすために、半固定抵抗(VR1)を設けました。その上、ペアーを取ったQ1、Q2にも、 わずかですが、バラツキは免れませんので、いろいろなアンプを調べて見ましたが、みんななにがしかの直流電圧がスピーカターミナルにかかってぃます。物の本によれば、50mVまでは良いとありますが、0Vであるにこしたことはありません。もちろん、こんな電圧でスピーカをこわす事はまず考えられませんが、いくらかでも電圧がかか(っ)ていれば、ボイスコイルがそれだけ一方に引っぱられているわけですから、スピーカの機械的な歪は、音質を損いますし、スピーカの歪は、アンプのそれに比べて何倍もあるものですので、私は賛成出来ません。
その上、中点電圧がプラス側、あるいはマイナス側に寄ると、 SEPPの出力波形がどちらか一方にかたより、第24図のように、クロスオーバー歪をオシロスコープで観察すると、明らかに片側に寄っているのがわかります。もちろん、この域はコレクタ電流を0mAに近い程少くし、NFB量を最低にしてわざとクロスオーバー歪を出したわけですが、わずか30mVスピーカ・ターミナルに、プラス、 マイナスに、それぞれわざと片寄せると、ご覧のように、サインウェープの上下が、かなりアンバランスになります。コレクタ電流を少し流すと、クロスオーバー歪がなくなりますので、オシロスコープで見ただけでは、わからなくなりますが、理論的に歪んでいる事実は見のがすわけには行きません。このあたりも、本機の設計目標の一つです。JBL400Sの、あの迫力の割に非常にキメのこまかい、澄みきった音が出るのも、あのシンメドリカルサーキットに負うものだと思います。
Q2のベースにつながっているVR3(B10kΩ)はNFB量を加減するためのもので、アンプのゲインを26dB(20倍)から29.5dB(30倍)の範囲で加減する事が出来るように入れました。入力にボリュームを使わない理由は、今までに何度も述べました。
Q1のコレクタ抵抗(R402)は次段の入カインピーダンスから計算で割り出すと、680~750Ωで良いのですが、この値を小さくすると、エミッタにつながる抵抗(R403)及び(VR1)を10kΩ位にしなければなりませんので、安定性が多な(多少?)そこなわれます。負荷開放時のコンデンサによる安定テストの結果、3.3kΩに決めました。こうしておくと、測定の項で述べますように、100pF~0.47μFまでの全てのコンデンサに対して、極めて安定性を示し、全然発振は見られません。
第24図は、750Ωの時にとったもので、サインウエープの上側にわずかながら高域発振が見られます。これはアイドリング電流を流すと消えますが、やっぱリアンプの安定度には影響するようです。
プリドライバー
次がプリ ドライバー(Predrive Amplifier)ですが、第25図がその部分です。この段は完全なA級増幅を行ってており、大方のゲインをこの段で稼いでいます。図でおわかりのように、2つのダイオードと、VR3(500Ω)の端から、 ドライバー段に出ているターミナルが、0Vを中心として上下に1V、−1Vになっていなければ、ドライバー段の動作がビッコになって、正弦波を入れた時に出力に現われる形の上下の大きさが狂ってしまい、はなはだしい時には、どちらかの石(Q?、Q5)(「?」は原稿が切れて読み取れませんでした)に過電流が流れて飛ばしてしまう事になります。プリアンプの項で述べましたが、A級動作をさせると、エミッタの−25Vを0Vと考えた時に、その時のコレクタ電圧が1/2Vbで25V正負両電源では中点で0Vになりますので、確かにうまく出来た回路だといます。
ただし、シリコンダイオードの両側には0.6Vの電位差が出来ますので0.6V+0.6VDE1.2V、 それにVR3の両端に0.8Vとれば合計で2V、つまり+1lV、−1Vになる事がわかります。グルマニウムダイオードを使うと0.1Vしかとれませんので、VR3で1.8Vの電位差をとらないと、出力の石に100mAを流す事は出来なくなります。Q3のコレクタからベースヘつながっている100pFは超高域でNFBをかける事によって、アンプの発振を防ぐためのものです。その上、トランジスタアンプは、どぅしても高域まで周波数特性がのびすぎ、音を硬くする原因を作り易いのを防いでいます。
R407(1.8kΩ)の上から中心線に行つているコンデンサ(100μF)は打ち消し回路で、Q3のコレクタと出力ラインを交流的に同電位にする働きがあります。その上の、R408(1.2kΩ)、R409(2.2kΩ)の中点がアースされている100μFはフィルタ効果によりノイズを取るばかりでなく、Q1のエミッタにぶら下っているコンデンサ(C402)と共に、OCLアンプにありがちな、スイッチオンで、スピーカがボコッと鳴るのを止める働きがあります。
SEPPプッシュプルアンプでは、出カコンデンサの有無にかかわらず、スイツチオンで、スピーカから、かなり大きな音で、ボコッと出るのは常識になっています。これを止めるのにリレースィッチを使う方法もありますが、無駄な費用がかかる上に、このスイツチは、安外こわれ易く、私は嫌いです。
出来上ってテストして見ればおわかりだと思いますが、殆んど何も聞こえません。パワーアンプ単独でなしに、プリメインをつないでスイッチをつないで、スイッチを入れると、ボッと言う音が、よく注意していないとわからない位ですが、聞こえます。これはプリアンプ(SS-1、100)のC307(0.22μF)のところで出ているので、何とも致し方がない事だと思います。
二つのダイオードは温度保証(補償?)用である事は、もう常識になってぃますが、ぜいたくと云えば、出力の石のそばに持ってきた方が、より効果的ですが、これ位の出力のアンプではあまり問題にする必要もないと思いますので、配線を複雑にしてまであえて無理をしませんでした。