04.19
オーディオリスナーのための高性能プリメインアンプ メインアンプ部回路編 2
ドライバー及び出力段
第26図にドライバー段及び出力のSEPP回路だけを抜き出して見ました。 Q4及びQ5は出力段をダーリントン(Dareington)結合されており、文字通り、純コンプリメンタリーでシンメトリカルサーキットになつています。こうすれば縦の線も横の線も完全に対称になっていますので、出力波形も、中点が0Vでぁるかぎり、上下完全に対称になります。歪率を出来るだけ少なくする意味で非常に重要な事です。今までいろいろなOCLアンプの製作記事の殆どが、クワジコンプリメンタリー出力になっているようですが、大出力のパワー用の石が国産にないというだけの理由だとすれば、何ともスッキリしない感じです。
ところで、先に少しふれましたように、Q4Q5のベースヘの入カラインの電圧が中心線を中点としてプラス、マイナスのバイアス電圧がそろってないと、SEPP動作が不揃いになって、せつかくペアーの石を使った純コンが、なんにもなりません。メーカー製の大量生産品ならいたしかたのない事だと思うのですが、アマチュアリズムに徹して作りあげる高級アンプ(値段の高いという意味ではありません)ですから、この点は充分に注意を払うのが当然と言わねばなりますまい。
といつて測定器一式を揃えなければ出来ないようなものは、製作記事としては、少々お粗末です。たかがソリッドステートステレオアンプ(と言ったら生意気だと言われるかも知れませんが)一台発表するのに思いがけなく時間をとったのは(と言っても、本職の片手間に行なったわけですし、途中べトナムヘ出張したりでみっちりやったわけでもないのですが)テスタひとつで(出来れば二つ)完全なものが約束できるという本筋をたてたかったからです。(調整方法は後述)
R410、R411は100~300Ωといろいろテストしたのですが、結局300Ωに落ちつきました。理由は長くなるので省きます。出来るだけ迫力のある、しかもウァームトーンで、きめの細かい音と、少々欲ばったので回路図にあるように、100mAとA級に近い動作にするために、アイドリング交流を増しました。150m Aでもテストしたのですが、無信号時でも、石が大分熱くなりましたので、少々控えました。
製作編で述べますが、本機のパワーアンプ部だけ独立させて製作する時には150m A以上流すつもりです。100mAだと数時間電気を入れっばなしでも、石が暖かくなるだけで、電気に不馴れな方でも安心して鳴らせますので……、 もちろん、家庭で鳴らす場合は大き目に見ても数ワットですので、アイドリング電流がもともと多いので、コレクタ電流は全然変わりません。
御承知かも知れませんが、A級増幅までアイドリング電流を増やすと、最大出力時でも、コレクタ電流は殆ど増えないものです。
スピーカターミナルから並列にぶら下がっているR414とC407はもう常識になっていますので、くどくどと説明したり、計算式を御技露するのは避けますが、R414は1Wを使用します。理届(理屈?)から考えると、この抵抗はスピーカと並列に入るわけですので10W位のを使わないといけないような気がするのですが、海外一流アンプを見ても1Wを使ってありますので、単純に真似をしました。
スピーカに直列に入っている22Ω(R415)と3μHのチョークコイルは、ヒースキットAA-29の説明書及び回路から失敬致しました。スピーカのボイスコイルのインピーダンスが高域で持ち上っているのにマッチングする働きがあり、高域発振を防ぐために入れてあります。実用機です。少々の部品は多少の無理をしても使用するのが私の立て前です。と言っても、このチョークコイルは富田電器に特注したのですが、1個当り、わずか¥350でしたので、探すのに苦努しましたが、ふところには全然影響はありませんでした。(第27図)
ヒューズは、万―スピーカ・ターミナルがショートしたりした時に、トランジスタが飛んでしまうのを防ぐ為に入れてあります。電源からの線上にも入れてある回路を時々見かけますが、本機のように、2電源の場合、両方が同時に飛ぶような事は、まず考えられませんので、どちらかのヒューズが切れた時に、電源がプラス側かマイナス側のどちらかに引っぱられますので、大きく動作点が狂い、ドライパーの石を飛ばしてしまう事になりかねませんので、御注意下さい。
電源部
高級アンプには、しっかりした電源をと言うのは当然の事で、このあたりでケチったのでは、文字通り、仏作って魂入れずと言う事になりかねません。けれど、かなり大きな電流が流れますので、定電圧回路を入れる程の事はないと思います。
山水のトランジスタ・シリーズパワートランスPB-22は本機の設計意図に丁度適当でした。レギュレーションも良いようですし、値段も手頃だと思います。
しっかりした電源をと云う目的の為に、フィルタ・コンデンサは思い切って4700μF(35V)を2本ずつ並列に使ってプラス、マイナス両電源をとり出します。計算によると2000μFもあれば良い事になりますが、世界の一流品と呼ばれるアンプには10,000μF位のを使ってあるところを見ると、コストを考えた上での事でしょうから、やっぱり無駄使いではなさそうです。低音がとてもふっく(ら)と出るのも、このコンデンサに負うところが、大きかったと思います。
6.8kΩの抵抗は、プリーダ用で、誤って調整中に石を飛ばした折などに、あわててスイッチを切っても、コンデンサに充電された電圧がいつまでも出てこないように約8mA位のプリーダー電流を流しておくためのものです。
フィルタ・コンデンサと並んで入っている0.22μFはトランス側の0. lμF(オイルコンデンサ)と共にスイッチオフで、プチンと云う音がスピーカから出るのを防いでいます。
ブリッジ整流回路は、プロックになっているのを使うと配線が楽になります。
回路のまとめ
回路の働きがのみこめたところで、説明が前後しますが、本機の設計意図を一度整理してみます。
まず、最大ノンクリップ出力ですが、電源トランスの最大値17.5Vx2を利用して25W/8Ωが得られました。B級増幅だともう少し上まわると思いますが、出力段に少しでも余計に電流を流してA級に近づけたわけです。16Ω負荷で測定して見たら、(私のスピ―力・システムは16Ωですので)15Wとれます。今までの経験から充分すぎるくらいのパワーです。2SD188-2SA726のコレクタ損失にはまだかなり余裕がありますので、トランスをBP-25で使用すればもっと大きなパワーがとれるのですが、商品ではありませんので、実験もして見ません(で)した。
実はこの原稿をまとめている時に、友人にパワーアンプだけを作りたいと頼まれましたので、本稿が終り次第、全く同じ回路で、同じ部品を使って適当なシャーシキャビネットを考えてもう少し広々としたアンプを設計する予定ですので、その時はもっと電流を流して、パワーは多少犠牲にしても、少しでも音質の向上をはかって見たいと思っている位です。
回路及び部品は出来るだけ簡単にと、音質向上のためをいつも考えていましたので、不用と思われる、と言うより、複雑な構造は一切避けました。
此の間、あるステレオ屋に立ち寄った時に、そこのおやじさんが、アメリカのJ社の○○アンプは、さすがに高いだけあって、キャビネットを開けてみるとギッシリ部品が詰まっていた、というような事を言っておられました。営業用の宣伝味も多少あったのでしょうが、複雑なもの程高級だという考えには、私は同意出来ません。簡単で、しかも性能の良いものの方が良いのは当然ですが、商品となると、あまり簡単だと銭がとれないというのもやむを得ない事かも知れません。だから私はマランツの回路は、どうしても好きになれないのです。凝ったものの方が良いと思うのはあまり感心しません。だから、差動アンプも一段にしたわけです。二段だと補正部品が多くなるので、あまり良いとは思えません。一枚だと透明なセロハンでも、何枚も重ねると、濁って来て、しまいには不透明になるものです。石を余計に並べると、回路が複雑になり、それを補正するために回路が余計に複雑になって、良い結果が得られない事が多いようです。
上杉佳郎氏がこんな事を言っておられました。『たくさんのつっぱり(位相補正)を使って補強した建物より、つっぱりなしで、しゃんとしているものの方が良いようですから……』まことに名言だと思います。
製作編の後で、測定結果はもちろん示しますが、 とりあえず内外の一流アンプとの比較テストをと行ったところ、大いに満足すべき音がでました。石独特の硬い音とか、ギラついた感じは全然なく、真空管式アンプに非常に近い音で、半年間の苦労が報われたような気がします。
比較して使用したアンプは、JBL66A、ナショナル50A、ラックス507、ラックス38FDで(第28図参照)スピーカはアルテックA-7、 ランサー101、AR3a及びLE8Tを鳴らして見ました。針は私の好みのグレースF8-Cです。神戸の星電社の本店のオーディオ製品売場で常時鳴らしていますので、興味ある方で、近くにおられる方は自分の耳で確かめて下さい。
回路の説明が終ったところで、来月は部品の選択にひき続き、製作編にかかる予定です。